劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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要望があったので作ってみました


IFルートパート2 その6

 偶然の出会いというものは、確かに存在はするのだろう。だがその偶然は誰に起こるかも、何時起こるかも分からない気まぐれなものだ。だがその偶然が起きたのなら、それはもしかしたら必然かもしれない。

 スバルは休日にエイミィたちと遊ぶ約束をしたのは、単なる偶然に過ぎない。だがそれがスバルの人生を大きく変えることになるなど、その時は思って無かった。

 

『ゴメーン! 埋め合わせはちゃんとするから』

 

「まったく……直前に電話されても困るんだけどな」

 

『だから謝ってるじゃん。急に用事が出来ちゃったのよ』

 

「分かった分かった、埋め合わせは期待して良いんだろうね?」

 

『大丈夫だって! 約束は守るよ』

 

 

 遊ぶ約束を当日の待ち合わせ時間ギリギリにキャンセルしてきたエイミィの、根拠の無い自信に、スバルは思わず噴出してしまった。

 

「それじゃ、僕は少しブラブラするから、また誘ってくれ」

 

『うん、それじゃあね』

 

 

 エイミィとの通信を切り、スバルは当てもなくブラつく事にした。

 

「偶然知り合いに……なんて展開は小説やドラマの中だけだろうしね」

 

「里美?」

 

「え?」

 

 

 背後から掛けられた声に、スバルは聞き覚えがあった。

 

「司波君?」

 

「偶然だな」

 

「どうしてこんなところに? ここは司波君のような男の子がくるような場所では無い気がするんだが?」

 

「色々と事情がな。お世話になってる人に贈り物を買ってたんだ」

 

「ふーん……恋人かい?」

 

 

 スバルは、九校戦で達也にCADの調整を担当されたうちの一人であり、達也に恋人がいない事も知っている。だからこの質問はからかいの意味しか無い。

 

「俺にそんなものが居ると思ってるのか? 悪いが期待には応えられないぞ」

 

「分かってるさ。なにしろ深雪が居るからね」

 

「……里美には俺と深雪はどんな関係に見えてるんだ」

 

「そうだね……ちょっと仲の良すぎる兄妹かな」

 

「あながち間違っては無いな」

 

 

 スバルの答えに、達也は苦笑いでそう言う。達也のその表情は、意外と嫌では無いと感じるスバル、彼女も同姓に人気があるのは自覚しているが、れっきとした少女、異性の仕草や表情が気になっても不思議では無いのだ。

 

「里美、如何かしたのか?」

 

「えっ? いや、何でもないよ」

 

「そうか? 何だか固まってたから」

 

「気のせいだろ。それから司波君、僕のことはスバルで良いよ。どっちも名前みたいな感じだからね、あまり気にならないだろ?」

 

「そうか? まぁそれがいいならそうするが……」

 

「時に司波君、君は時間あるかい?」

 

「まぁ用事も済んだしな。それから、俺の事も達也で良いぞ。深雪と区別がつかないだろうし」

 

 

 達也の提案に、スバルは頷いて承諾した。

 

「それでスバル、何かあるのか?」

 

「時間があるなら、僕の暇つぶしに付き合ってくれないかと思ってね。エイミィにドタキャンされてしまったんだ」

 

「それなら別に構わないぞ。深雪も雫やほのかたちと遊んでるからな」

 

「君たち兄妹も、別行動はするんだな」

 

「……会長や委員長と同じような事を言うんだな」

 

 

 達也の責めるような視線から逃げるように、スバルは視線を彷徨わせた。

 

「あそこに入ってみないか?」

 

「……正気か?」

 

 

 慌てて指差したのは、カップルが大勢居そうなカフェ、同級生でしか無い関係の二人が入るには、ちょっと敷居が高いように達也には感じたのだ。

 

「あ、いや……やめておこう」

 

「そうしてくれると俺も助かる。お茶なら普通のカフェでいいだろ」

 

 

 達也が先に移動すると、慌ててスバルがその背中に続く。普段異性の後ろを歩くなどという経験が無いスバルは、若干頬を赤く染めていた。

 

「さて、スバルは何を飲むんだ?」

 

「僕はラテを貰おうかな」

 

「了解、すみません、ラテとブラックを」

 

 

 達也が注文を済ませ、ふと視線を外に向ける。窓際の席で、外からも中を見る事が出来るので、何人かの少女がスバルを見て立ち止まり、さらに達也を見て頬を赤く染めていた。

 

「……場所が悪かったかもな」

 

「気にしなくていいさ。僕はなれっこだ」

 

 

 見た目もそうだが、スバルの服装は女子というより男子の格好に近い。それに加え、平坦とまで行かなくとも、それほど主張していない胸部も、スバルが女の子だと見分けるのを難しくしてるのだろう。

 

「スバルは委員長と少し似てるからな」

 

「そうかい? それは褒め言葉として受け取っていいんだよね」

 

「もちろんだ。だが同姓から人気ってのはどんな気分なんだ?」

 

 

 実際達也は同姓の友人が少ない。クラスメイトとは会話するが、レオや幹比古のように突っ込んだ会話をするような仲でも無いのだ。

 

「そうだね……同姓だから出来る事があるとだけ言っておこう」

 

「……意味深な発言だな」

 

 

 会話が途切れたタイミングで、注文したものが運ばれてきた。運んできた女性は、スバルを見て顔を赤らめていたから、恐らく男と勘違いしてるのだろう。

 

「そういう達也君は如何なんだ? 異性からモテモテのようじゃないか」

 

「さぁな? 俺には良く分からない」

 

「如何いう事だい?」

 

 

 達也の事情を知らないスバルからすれば、あれほど好意を向けられているのに反応しない達也は、ひょっとしたら同性愛者なのではないかと思った事もあるのだ。

 

「昔魔法事故にあってね。感情の殆どを失ったんだ」

 

「え……」

 

 

 あまりにも普通のトーン、普通の表情で言われた重いセリフに、スバルは言葉を失う。無理は無い、そのセリフは一介の女子高生には受け入れがたい事なのだから。

 

「それは、治るのかい?」

 

「さぁね。残ってる感情はあるが、一つはかなり希薄だからな……治るのかどうかも分からないし、ホントにあるのかも分かってない」

 

「その感情って?」

 

 

 スバルは乗り出すように達也に迫り、その答えを待った。

 

「診断では恋愛感情らしいのだが、俺自身まだそれを確認した事は無い」

 

「深雪にはその感情は無いのかい?」

 

「深雪に対しては、別の感情があるからな。それに、アイツは妹だ」

 

 

 テーブルから会計を済ませ、達也は立ち上がる。

 

「さて、あまり楽しい時間じゃなかったかもしれないが、時間は潰れただろ? そろそろ俺は帰るよ」

 

 

 店から出て行く達也の事を暫し見送ってから、スバルも慌てて店から出る。

 

「待って!」

 

「まだ何かあるのか?」

 

 

 達也は立ち止まり、だが振り返りはせずに話しかける。

 

「君はその感情があるのか確かめたくはないのかい?」

 

「俺個人では確かめようが無いだろ」

 

「じゃあ僕が付き合おう。君のその感情が本当にあるのか、僕が君の恋人になって調べようじゃないか」

 

 

 スバルは思っていた。きっと達也と今日あの場所で出会ったのは偶然では無く必然なのだと。自分が達也にこんな気持ちを抱けるのも、また必然であり当然なのだと。




スゲェー苦戦しました……

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