劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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からかい甲斐はあるからな……


捌け口

 朝の三年E組での出来事は、放課後には学校中に広まっていた。それだけ衝撃的な出来事だったのと同時に、それだけ達也が注目されているという証拠でもあった。

 

「――というわけなんですが、どうにかなりませんかね」

 

「いきなりやってきたと思ったら、私にどうしろというのよ」

 

 

 カウンセリング室で遥相手に相談している達也だが、その表情は本気で困っているようではない。むしろ相談された遥の方が困り果ててしまうような内容だった。

 

「別にどうかして欲しいとは思ってませんが、相談に乗ってもらえないかと思っているのは事実です」

 

「こんな時だけカウンセラーとして扱われてもねぇ……普段は都合のいい情報屋くらいにしか思って無いくせに」

 

「響子さんがいるので、もう遥さんに情報収集を頼むことも無いでしょうけども」

 

「分かってるわよ。私よりどう考えてもエレクトロン・ソーサリスの方が情報収集能力が高いものね」

 

「何を不貞腐れているんです?」

 

 

 遥が響子に対して一方的にライバル心を懐いている事は達也も知っている。知っていて分からないふりをしている達也に、遥は鋭い視線を向けるがすぐにため息を吐いて頭を振る。

 

「貴方相手にこんな事しても無意味だもんね……」

 

「分かっていただいて嬉しいです」

 

「それで、十三束君を撃退した事に対する相談って事で良いのよね?」

 

「いえ、十文字家当主を倒したと知られて、畏怖の視線を向けられるようになってしまいまして」

 

「あー……それはそれは」

 

 

 遥も情報としては知っていたが、本人の口からそれを聞かされて少し驚いてしまう。確かに達也の実力は遥では計り知れないものだが、克人に対しては相性が悪いと思っていたので、初めてその情報を聞かされた時は耳を疑ったほどだったのだから、ある意味仕方ないだろう。

 

「俺の得意魔法を知らない連中からすれば、どうやれば『あの』十文字克人に勝ったのか分からないのでしょう」

 

「そんなこと言っても、達也君は四葉家の御曹司でしょ? 私たちには分からない何かがあるって思われても仕方がないんじゃないかしら。ただでさえ君はイレギュラーなんだし」

 

「学校の試験では間違いなく劣等生ですからね」

 

「君の魔法と学校や軍での評価項目が合ってないからね……というか、君の得意魔法を学校で使ったら大問題に発展するもの」

 

「えぇ。だから余計に今のような状況になってしまっているのでしょうね」

 

「分かってるなら、放っておけば? 人の噂も七十五日って言うくらいだし、その内忘れられるわよ」

 

「俺は良いんですが、他の婚約者たちに迷惑なのではないかと思っているのです」

 

「あーそうね! どうせ私は愛人扱いだから、人柱になれとでも言いたいのかしらね」

 

「何を不貞腐れてるんですか」

 

 

 子供っぽいと自覚していたので、達也に呆れられたことで余計に恥ずかしくなってきた遥は、視線を達也から外して一気に声を発する。

 

「別に嫉妬してるわけじゃなくて面倒だなって思っただけだから! 別に婚約者として認められなかったことを恨んでるわけでもないからね!」

 

「それを嫉妬してると言うのでは?」

 

「っ! 違うもん!」

 

 

 カウンセリング室には遮音フィールドは展開されていないので、遥の声は外にまで聞こえた事だろう。だからなのか、カウンセリング室に一人の女性が顔を出す。

 

「小野先生、何かありましたか? 隣の保健室まで大声が――」

 

「安宿先生、お久しぶりです」

 

「達也さんっ!? 昨日は会えなかったけど、まさかこんなところで会えるとは」

 

「安宿先生、私を心配してきてくれたんじゃないんですか?」

 

「達也さんが小野先生に会いに来てたのは嫉妬しますけど、こうして会えたのでそれは水に流します」

 

「どうも……って、そうじゃないでしょ」

 

 

 何故遥が怒っているのか本気で理解出来ないと言いたげな表情の怜美に、達也は肩を竦めて見せる。

 

「俺はただ、カウンセラーの小野先生に相談しに来ただけなんですけどね」

 

「白々しい……最初から気にしてない事を相談されてもどうしようもないわよ! というか、他の婚約者がどう思おうが私には関係ないでしょ?」

 

「深雪に対する枷が無くなっているので、もし深雪が魔法を発動させたら大変でしょうね」

 

「わ、私にどうしろというのよ……深雪さんの心のケアは、達也君の担当でしょ?」

 

「ですから、暴走する前にどうにかしてくださいと頼んでいるんですよ。何時また学校に来れなくなるか分からないので、いざという時は小野先生が頼りだと」

 

「羨ましいわね。達也さんに頼られるなんて」

 

「ここぞとばかりに連携を……」

 

 

 達也も怜美も自分をからかって遊んでいるのだと、二人の眼を見て理解した遥は、睨みつけるように二人を見返すが、あまり効果は無かった。

 

「とりあえず、何かあった場合は何とかしてみるけど、失敗する方が確率高いんだからね!」

 

「えぇ、それでも構いませんよ。そもそも、深雪が暴走しないようにこちらでも手を打つつもりですから」

 

「やっぱりからかってたんじゃないのよ!」

 

「まぁまぁ小野先生。達也さんとお話し出来ただけで十分じゃないですか」

 

「安宿先生も、人をおちょくるのも大概にしてください!」

 

 

 遥が本気で爆発したので、達也と怜美は顔を見合わせて苦笑いを浮かべたのだった。




ポンコツカウンセラーも、たまには役に立つんです

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