劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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からかい甲斐はあるけどさ……


急かすエリカ

 全員が食事の準備を済ませ席に着き、漸く何時も通りの空気になりつつあったが、エリカがすぐに美月と幹比古にちょっかいを出し始めた。

 

「さっき千秋に会ったんだけど、美月とミキってまだ進展ないんだね」

 

「べ、別にエリカには関係ないだろ!?」

 

「そうね、あたしには関係ないかもしれないけど、美月だっていい加減ミキに名前で呼んでもらいたいわよね?」

 

「わ、私は別に……吉田君のタイミングで構いませんので」

 

「そんなこと言って、顔に『呼んでもらいたい』って書いてあるわよ~?」

 

「エリカちゃんっ!」

 

 

 達也と違ってずっと学校に通っていたエリカなら、二人に進展が無い事くらい知っていただろうが、そこにツッコミを入れる人は誰もいなかった。むしろエリカと一緒に深雪までもが二人をからかいだしたのだ。

 

「いきなり呼び方を変える難しさは、私にも分かるけど、何時までも苗字のままでは美月が可哀想ですよ、吉田君」

 

「達也君やレオは『美月』って呼んでるのに、彼氏のミキだけが苗字じゃねぇ……普通だったら達也君かレオと付き合ってるんじゃないかって思われるわよ?」

 

「あらエリカ。吉田君と美月が付き合ってる事は一高全体が知ってる事だし、今更呼び方だけで勘違いはされないと思うけど?」

 

「だから『普通だったら』って言ったでしょ? 名前で呼ぶくらいで恥ずかしがってちゃ、その先に進めるのはかなり先になりそうね……」

 

「その先ってっ!?」

 

「美月は何を想像したのかしら?」

 

 

 エリカと深雪のコンビネーションにまんまとやられた美月は、顔を真っ赤にして視線を逸らすが、逸らした先にいた雫も悪い顔をしていた。

 

「深雪、エリカ。美月と幹比古をからかうのはそれくらいにしておけ。こういう事は周りがとやかく言うべき事ではないだろ」

 

「そうかもしれないけどさー。下級生たちの精神衛生上、もう少し進展した方が良いと思うんだよね。恋人がいない人たちが二人を見てもやもやするのは、ちょっとかわいそうだし」

 

「そうですよ、達也様。何時までも手が触れるくらいで真っ赤になっているようでは、いい加減ツッコみたくなる人が出てきてもおかしくありませんし」

 

「ぼ、僕たちの事はいいじゃないですか! それより、達也たちは何か進展は無いのかい?」

 

「俺の状況を考えれば、そんな事があるわけ無いと分かりそうなものだが? つい最近まで伊豆に引っ込んでたんだ。こっちに帰ってきて三日かそこらで進展があるような関係ではないからな」

 

「そ、そうだね……婚約者といえどもまだ学生だしね……」

 

「幹比古は何を想像したんだ?」

 

 

 微妙に視線を泳がせていた幹比古に、達也が質問すると、それに反応したエリカが幹比古に詰め寄る。

 

「ミキ……まさかイヤラシイ事を想像したんじゃないでしょうね? このムッツリスケベ!」

 

「イヤラシイ事って何だよ! だいたい先にそういう事をほのめかしてきたのはエリカたちだろ!」

 

「あたしは別に『イヤラシイ事』をほのめかした覚えはないわよ? ねぇ深雪?」

 

「そうね。私たちはあくまでも、吉田君と美月がデートに出かけられる日は何時になるかって話をしてただけですよ」

 

「で、デート……」

 

「美月、顔真っ赤」

 

「吉田君、まだ美月とデートしてないんですか?」

 

 

 先ほどから黙っていた雫とほのかも、幹比古を責めるような眼差しで問いかける。雫は兎も角としてほのかまで参戦してくるとは思って無かった幹比古は、助けを求めるような目で達也に視線を送ったが、達也はレオと何かを話していて幹比古の視線には気付かなかった――気づかないフリをした。

 

「三年になっていろいろと忙しかったから……夏休みになればそれなりに時間が作れるから、そこで行こうとは考えてたけど……」

 

「今年は九校戦も中止になっちゃったし、確かにデートするには最適かもしれないけど、付き合って三ヵ月以上もデートしてあげないんじゃ、ちょっと美月が可哀想じゃない?」

 

「わ、私は考えてくれていただけで十分だよ……」

 

「美月は我慢し過ぎなんじゃない? 言っておくけど、美月ってかなり人気が高いんだから、ミキなんかよりよっぽどいい相手がいるかもしれないのよ?」

 

「確かに。山岳部の連中たちも美月の事は気にしてるようだしな。まぁ、幹比古がいるからって事で告る前から諦めてた連中ばかりだが」

 

「むさくるしい連中たちは兎も角として、もたもたしてたら美月を盗られちゃうかもしれないのよ? ミキはそれで良いわけ? もうちょっと『自分の女』だって事を周りにアピールしておいた方がいいんじゃないの?」

 

「そんな事言われても……柴田さんだって、急に言われても困るだろうし」

 

「い、いえ……吉田君が決めてくれた事なら、私は構いませんので……」

 

「ほら? 美月にここまで言わせたんだから、男ならバシっと決めなさいって」

 

「エリカ、それくらいにしておけ。後は二人で結論を出せるだろうしな」

 

「達也君がそういうなら、そうするけど……ほっとくとまたヘタレるわよ?」

 

「幹比古なりに考えてるんだろうし、下手に急かしてペースを狂わせるのも悪いだろ」

 

「達也……」

 

 

 助けてくれた事への感謝と、もう少し早く助けて欲しかったという講義の意味が込められた視線を達也に向ける幹比古に、エリカは少しつまらなそうに肩を竦めたのだった。




美月が人気なのは分かる気がするけど……

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