劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この二人は達也の事を評価してるし


教師たちの興味

 空き教室を出て、端末の時計に目をやって達也は廊下を歩きだす。まだ生徒会業務が終わるには早い時間で、今から生徒会室に行っても客人扱いを受けるだけだと分かっているので、達也は視線の集中砲火を浴びると分かっていながらカフェに向かう事にしたのだったが、それはとある教室の前を通った事で出来なくなってしまった。

 

「おや、司波君じゃないですか」

 

「廿楽先生、お久しぶりです」

 

「君が発表した魔法恒星炉エネルギープラント計画の概要を拝見しましたが、実に面白いプランですね。私に出来る事があれば、出来る限りお手伝いしましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「昨年、君が考案した恒星炉実験は、このエネルギープラント計画を念頭に置いての事だったのですか?」

 

「それもありましたが、あの時は神田議員やお抱えの記者たちを使っての情報操作を逆手に取ってやろうと考えていました」

 

「おやおや、随分と危ない事を考えていたのですね。四葉家の人間というのは、そういう事をするのにためらいは無いのですか?」

 

「四葉の人間だから、というわけではないのですがね。変に魔法師の未来を狭くされることを避けたかっただけです」

 

「思考統制など、あるわけ無いと取材する前から分かっているはずなのに――という事ですか。分かりました、確かに小生もあの取材には苛立ちを覚えましたからな。未来ある若者の可能性を狭めようとするなど、先人としてあるまじき行為ですから」

 

「廿楽先生、何を熱くなって――あぁ、司波君ですか。君が提出してくれた課題ですが、全て問題ありません。さすがですね」

 

 

 三年E組の担当教諭であるジェニファー・スミスが職員室から顔を出し、達也を見つけそう告げる。元々理論においては教師以上の知識を持っていると言われていた達也だったが、彼がトーラス・シルバーの片割れだったと知られてからは、その評価も当然だという事に変わっていた。

 

「休んでいた分の課題をもう終わらせたのですか? やはり君は優秀な生徒のようだね。是非小生も担当してみたくなった」

 

「廿楽先生、自分は元二科生の魔工科生です。一科担当である廿楽先生の授業には参加出来ません」

 

「君は一科の中でも上から数えた方が早いくらいの実力だと聞いていますが?」

 

「実戦ではそうかもしれませんが、魔法というものを場面の一部を切り取って評価する学校の成績では、下から数えた方が早い劣等生です」

 

「うむ……君のようなイレギュラーに対応すべく魔工科を作ったとはいえ、その中でも君はイレギュラーだったわけですから、学校の評価など当てにならないのかもしれませんな」

 

「廿楽先生、教師としてその発言は如何なものかと……」

 

 

 廿楽の学校批判に、達也ではなくジェニファーがツッコミを入れる。確かに達也の学校での魔法の評価は高くないが、一歩外に出れば引く手あまたな戦闘魔法師であり、世界が恐れる四葉家の次期当主なのだ。廿楽が考えたように、学校の評価が当てにならないのは、達也が十分すぎるくらい証明してしまっているので、ジェニファーもあまり強く言えなくなってしまっている。

 

「司波君の担任であるスミス先生なら、彼がいかにイレギュラーな存在であるか、小生より詳しく知っているのではありませんかな?」

 

「それは、まぁ……理論の成績は二位に圧倒的な差をつけての一位ですし、我々教師よりも教えるのが上手いとの噂を聞いています。それから、下級生から憧れられているという事も」

 

 

 達也に憧れている下級生というのは、ジェニファーの息子であるケント少年のであるが、達也も廿楽もそこは気にしなかった。

 

「司波君のお陰で、当校の魔工技師志望の生徒の質が上がったのは確かですし、君が魔法恒星炉エネルギープラント計画を発表したお陰で、更に志望者が増える事でしょう」

 

「自分が例の計画を発表した事と、志望者が増える事にどのような関係が? 来年入学してくる人は、自分と顔を合わせる事は無いと思うのですが」

 

 

 既に卒業資格を得ている達也に、留年の心配はない。そんな自分と来年の入学希望者が結びつかない達也にとって、廿楽のセリフは理解出来ないものであった。

 

「君のような人が学んでいた学校で自分も――と考える人が大勢いる、という意味ですよ」

 

「なるほど……」

 

「実際君に憧れて我が校を志望した生徒も少なくありませんからな。昨年、一昨年と九校戦という舞台で、担当した選手が実質的無敗という記録は、それだけ衝撃的という事です。今年は非常に残念ですが」

 

 

 軍の介入を許したという事と、競技見直しの為に今年の九校戦は中止だと発表されているので、廿楽は心底残念そうな表情でそういう。彼は中止の原因が達也だとは微塵も思っていない様子だった。

 

「まぁ、実際開催されていたとしても、君は忙しくて参加出来なかったでしょうがな」

 

「そうですね。ディオーネー計画なんてものが無ければ、参加出来ていたかもしれませんが」

 

「そういえば、論文コンペはどうするのですか?」

 

「そっちも、今のところは考えていませんね」

 

「そうですか、非常に残念ですが、いたしかたありませんか」

 

 

 達也の状況を考えれば無理だと、廿楽も理解しているので、本気で残念だと思っている割にはあっさりとした態度だった。その事にジェニファーは驚きと納得が混ざった表情で頷いたのだった。




廿楽先生なんて久しぶりに出したな……

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