劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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どっちも有益には違いないからな……表向きは


周囲の反応

 雫と一緒に風紀委員本部から生徒会室に上がってきた達也に、深雪とほのかは嫉妬したような視線を向けたが、すぐに何時も通り歓迎ムードに変わった。

 

「達也様、もう少しで終わりますので、もうちょっとお待ちください」

 

「別に急ぐ必要は無い。何なら手伝うが」

 

「大丈夫です。達也さんはゆっくりしててください」

 

 

 泉美と詩奈は何か言いたそうな視線を達也に向けたが、深雪とほのかが断ってしまった以上「手伝ってほしい」とは言えないのだろう。ただでさえ達也が抜け、その上水波までもが抜けているのだから、一人当たりの仕事量は増えている。もちろん、片付けられない程の仕事量ではないのだが、一応生徒会役員である達也に手伝いを求めたくなるのも仕方がないだろう。

 

「深雪やほのかが大丈夫って言ってるんだし、達也さんはゆっくりしてたら? ただでさえ忙しい毎日なんだし」

 

「そうですよ。このくらいならあとちょっとで終わりますし、その間達也さんはお茶でも飲んで――」

 

「達也様、お茶が入りました」

 

「は、早い……」

 

 

 ほのかが作業を中断して達也にお茶を淹れようとしたが、既に深雪が達也の分のお茶を淹れていたのだ。もちろん、雫の分もついでに淹れたので、達也から注意される事も無い。

 

「すまないね、ありがたくいただこう」

 

「ありがとう、深雪」

 

「どういたしまして」

 

 

 笑顔を浮かべて雫のお礼に応えた深雪は、すぐさま生徒会長席に戻り作業を再開する。その素早さに詩奈は称賛の視線を向け、泉美は尊敬の視線を向ける。

 

「さすが深雪先輩です! あの素早い身のこなしは、真似しようとしてもなかなか出来るものではありませんわ」

 

「そうかしら? 長年してきた事だから、もう身に付いちゃってるのかもしれないわね」

 

「ずっと達也さんのお世話をしてきたんだから、少しは私たちに譲ってくれてもいいんじゃない?」

 

「今日は達也様がそちらにお泊りする日だし、学校でくらい私がしてもいいんじゃないのかしら? そちらの家では私にはチャンスが無いわけだし」

 

「でも深雪のマンションに泊まる時は、深雪が全部出来るわけでしょ? こっちはかなりの倍率を掻い潜らなければいけないんだから」

 

「それでも達也様のお世話が出来るだけいいじゃないの。私はその倍率に挑む事すら出来ないんだから」

 

 

 徐々にヒートアップしてきた深雪とほのかに、達也が無言でプレッシャーを掛けると、すぐに大人しくなり作業を再開させた。その達也の対処の仕方に、詩奈は再び称賛の視線を向けたが、泉美は何処か嫉妬のこもった視線を達也に向ける。恐らく深雪の事を簡単に扱えるのに嫉妬したのだろうと、達也の隣に腰掛けている雫はそう思った。

 

「そういえば北山先輩」

 

「なに?」

 

「香澄ちゃんは一緒じゃ無かったんですか?」

 

「香澄なら部活連との話し合いに参加してるから、もう少しで来るんじゃない?」

 

「部活連との、ですか……それは普通なら北山先輩が参加するものなのではありませんか?」

 

 

 本来なら風紀委員長の幹比古か、それか裏で風紀委員を支配していると言われている雫が参加するべきものだと泉美は感じたが、雫は黙って首を横に振った。

 

「そろそろ次の世代に任せておかないと、直前になって慌てたりするだろうし、部活連には十三束君がいるから今は行きたくない」

 

「そっちが本音ですか」

 

 

 達也と十三束とのいざこざは、泉美も当然知っている。彼女は十三束に若干の同情を覚えながらも、達也が言っている事が正しいと冷静に判断しているので、雫が十三束に会いたくないという気持ちも分からなくは無かった。

 

「十三束先輩も、司波先輩の婚約者たち、誰彼構わず喧嘩を売るとは思えませんが」

 

「最強の深雪に喧嘩を売るくらいだから、私たちにだって飛び火してくる可能性は十分にある。吉田君やエイミィのクラスは、元十三束君のクラスメイトが大勢いるから、どうも十三束君側らしいってエイミィがぼやいてたから、関係の無いところから攻撃が飛んでくる可能性だってあるし」

 

「デバイスを携帯していないのですから、そんな事は無いと思いますけど……」

 

「一年の間でも、司波先輩と十三束先輩の事は話題になってると、侍朗くんが言ってました。どちらも有益な計画であることは間違いないから、どちらを支持すべきか迷ってる子が多いとも」

 

「ディオーネー計画の真の目的に辿り着ける人はそうそういないようですね。まぁ、私たちも深雪先輩に言われなければ、ディオーネー計画の裏を探ろうとは思いませんでしたし」

 

 

 あくまで達也が言ったとは認めない泉美に、深雪が苦笑いを浮かべながら手を振る。作業が中断している事への注意だったのだが、泉美にはそれが伝わらなかったようで、少しトリップをしてしまった。

 

「泉美ちゃん、手が止まってるわよ?」

 

「も、申し訳ございません! すぐに再開しますわ」

 

 

 弾かれたように作業を再開した泉美に、達也と雫は深雪に同情的な視線を向け、深雪は恥ずかしそうに視線を逸らした。結局作業が終わったのは、達也と雫が生徒会室にやってきて二十分後だった。




泉美はあくまでも深雪シンパ……

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