劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼ほど頼れる男はいない


頼れる男

 昇降口前で合流したエリカたちも、美月が風紀委員の序列を知らなかった事に驚きを示し、香澄たちと同じ反応を見せた。

 

「てっきり美月も知ってるものだと思ってたから、ミキの事を自慢したいだけかと思ったわよ」

 

「そんなわけ無いよ! そもそも、私が自慢しなくても、吉田君の実力なら十分だと思うし」

 

「だってさ? 愛されてるわね、ミキ」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

 

 ある意味いつも通りのやり取りに、他のメンバーは安心したような表情を浮かべる。一年生カップルである詩奈と侍朗にも、このやり取りはすっかり見慣れたものになっており、入学当初のようなオロオロとした雰囲気は感じられなくなっていた。

 

「幹比古と美月の事は兎も角として、エリカの方はどうなんだ? 達也が復帰してここ数日、機嫌がいい様だってクラスメイト達が噂してるが」

 

「なにそれ? あたしは聞いてないわよ?」

 

「そりゃ本人に聞かれないところで言われてるから噂なんだろ? やっぱり達也がいる時といない時とじゃ、気分とか違うもんなのか?」

 

「そりゃまぁ、あたしだけじゃなくて深雪やほのかだってそうでしょうよ」

 

 

 エリカに尋ねられ、深雪とほのか、そして雫は力強く頷く。ちなみに、今日はじゃんけんの結果、達也の両隣にはエイミィとスバルが陣取っているので、頷いた三人の機嫌は少し傾きつつあった。

 

「達也様がいてくださらないと、いざという時に力を発揮出来ない気がしますし」

 

「精神的支柱という感じなのかは分からないけど、達也さんがいてくれると『何とかなる』って思えるんだよね」

 

「実力もそうだけど、達也さんがいてくれるだけで安心出来るのは確かにある」

 

「まぁ達也さんが後ろに控えてるって思えば、少し無理をしても大丈夫だって思うしね」

 

「まぁ、ボクたちがいくら束になったところで、達也さん一人の戦闘力に遠く及ばないのは分かってるが、安心出来るという点は同意するよ」

 

 

 三人の考えに同調するように、エイミィとスバルが口を開く。その横では香澄が力強く、泉美が少し悔しそうに頷いている。泉美も達也の存在は兎も角、彼の実力は大いに評価しているのだ。

 

「まぁレオとミキ、達也くんの三人の誰にいて欲しいかって問われれば、美月以外は達也くんを選ぶわよね、普通なら」

 

「どういう意味?」

 

「だって、レオがいても精々楯にしかならないし、ミキは接近戦に持ち込まれたら弱いし。達也くんなら、遠距離だろうと近接戦だろうと強いし、何より側にいてくれれば安心出来るしね」

 

「柴田先輩は違うんですか?」

 

「惚れた弱みってやつよ。美月はきっとミキを選ぶだろうし、美月の側なら、ミキだって普段出せない力を出せるかもしれないでしょ?」

 

 

 エリカのセリフを受けて、詩奈は「そうなの?」という視線を侍朗に向け、彼を慌てさせる。侍朗だって詩奈の為なら普段以上の力を出そうという気概はあるが、実際に出せるかと問われて即答出来るほど自分の力に自信が無いのだ。

 

「というかエリカ! 人を楯扱いするんじゃねぇよ!」

 

「あら? あんたは肉の壁で十分でしょ? 硬化魔法が得意なんだし、多少刺されても傷を負う事は無いでしょうしね」

 

「そういう意味じゃねぇよ! というか、何で俺は選択肢に入ってて、侍朗は入ってねぇんだよ」

 

「だって、侍朗は詩奈の為にしか力を発揮しないだろうし」

 

「そ、そんな事は――」

 

「じゃあ侍朗。このメンバーの中で勝てそうな相手は誰よ? もちろん、戦闘が得意じゃないほのかや雫を除いて」

 

「そ、それは……」

 

 

 スバルもそれほど戦闘向きな魔法が得意なわけではないが、女子相手のやり難さはあるだろうと侍朗は思っている。実際、実力者であるはずの十三束が水波に負けているのを知っているので、尚更そう思ってしまうのだ。

 

「侍朗君のエッチ」

 

「な、何でだよ!?」

 

 

 いわれのない誹りを受け、侍朗は慌てて詩奈の方に振り返る。

 

「だって今、里美先輩の身体をじろじろ見てたし」

 

「べ、別にイヤラシイ理由で見てたわけじゃないって! 実力を計ってただけで――」

 

「じゃあ何で慌ててるの? 邪な気持ちが無いなら、慌てる必要は無いんじゃないの?」

 

「それはっ! お前にそんな風に思われて動転したというか……お前にそんな風に思わせてしまった事に焦ったというか……」

 

「はいはい、詩奈もそのくらいで許してやりなさいな。侍朗が詩奈以外の女の子に興奮するわけがないって分かってるんでしょ?」

 

 

 エリカの仲裁とも冷やかしともとれる言葉に、詩奈は顔を真っ赤にして俯き、侍朗は口をパクパクするだけで何も言えなくなってしまった。

 

「ワリィ女だな、お前は」

 

「うっさい!」

 

 

 レオの脛を蹴り上げ、エリカは侍朗たちに視線を戻す。

 

「あんたたちもミキと美月に負けないくらい初々しいけど、あんたたちは一年だもんね。別にそんな感じでも誰も文句は言わないでしょうよ。ただ、ミキたちはいい加減進展してもいいと思うんだけど?」

 

「よ、余計なお世話だって言ってるだろ! だいたいエリカに言われたくはないよ! 手をつなぐだけで顔を真っ赤にしてるエリカには」

 

「ほほぅ? ミキ、覚悟は出来てるのよね?」

 

 

 盛大に地雷を踏んだ幹比古に、他のメンバーは揃って手を合わせたのだった。




レオも幹比古も侍朗も、エリカにからかわれただけだな……

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