家に帰ってきた香澄は、帰路で話していた内容を真由美に話す。
「――そりゃ吉田君や西城君には悪いけど、達也くん以上に頼れるって事は無いわね」
「お姉ちゃんもそう思う?」
「達也くんに匹敵するくらい頼れそうなのは、十文字くんくらいよ」
「克人さんは達也先輩より年上だし、あの貫禄は達也先輩でも敵わないと思うけど?」
「まぁ、十文字くんは生まれた時から十文字家を継ぐために育てられたわけだしね。生まれてすぐ力を封じ込められて、四葉家に居場所が無かった達也くんとは、ある意味で人生経験が違い過ぎるもの」
「達也先輩のような腹黒さは無いけど、貫禄なら克人さんの圧勝だし、そういう意味では達也先輩は経験不足ってわけか」
真由美の考えに納得がいった香澄は、真由美と一緒にリビングへと降りていく。
「そういえば、達也くんは?」
「達也先輩なら、やる事があるってFLTに行ったよ」
「一度帰ってきたのに?」
「何でも、達也先輩がいなければ解決出来ない事があったみたい」
「さすが国家プロジェクト級の計画の総責任者ね。普通の高校生じゃあり得ない呼び出され方よ」
「まぁ、達也先輩もいろいろと普通じゃないから」
「その点では、十文字くんより達也くんの方が経験豊富よね。恐らく子供の頃からそういう世界で生活してきたんでしょうし」
克人も大人相手に怯むようなタイプではないが、達也のように大人を手玉に取るような事は出来ないし、あまり表には出さないが動揺だってする。その点での経験は、達也の圧勝だと真由美も香澄も思っている。
「おや真由美さん。妹さんとお話ししていたのでは?」
「終わったから降りてきたのよ。そうしたら達也くんの姿が見えないから何処に行ったのかなって」
「いろいろと忙しい身ですからね、達也さんも。私が手伝えればいいのですが……」
「ここを生活拠点にしていて、現状で達也くんのお手伝いが出来るとしたら響子さんだけでしょうね。リンちゃんも立派にお手伝いは出来るかもしれないけど、まだ学生だもの。時間的融通がどうしても利きにくいから、本格的にお手伝いするなら、大学を中退するかちゃんと卒業するかしなきゃだし、達也くんがリンちゃんに中退してまで手伝ってほしいってお願いするとも思えないしね」
「それは、私が力不足だと言いたいのですか?」
真由美の言葉をそういう意味で受け取った鈴音は、真由美に対して冷たい視線を向ける。その視線を受けて、そういう考え方も出来るのかと、真由美は反省して鈴音の誤解を訂正する。
「別にリンちゃんが力不足だなんて思って無いわよ? アプローチの仕方は違ったとはいえ、常駐型熱核融合炉の完成はリンちゃんの目標でもあったんだし、知識は十分にあるでしょう? 私が言いたいのは、リンちゃんにはしっかりと大学で勉強してからお手伝いしてもらいたいんじゃないかって事よ。達也くんだって、リンちゃんに手伝いを強制するはずもないし、せっかく入学した大学を途中で辞めちゃうのはもったいないでしょ?」
「それは…そうかもしれませんが……いえ、真由美さんの言う通りかもしれませんね。私は達也さんの力になりたいと焦っていたのかもしれません」
「というか、市原先輩が力不足だったら、ボクたちなんて戦力外も良いところですよ。特にお姉ちゃんなんか、そっち方面の知識には疎いですし」
「香澄ちゃんだって人の事言えないと思うけど!?」
「だって、大学受験の時、達也先輩にいろいろと教えてもらったんでしょ?」
「あれは、吸血鬼騒動の事でいろいろと達也くんに聞いてただけで、別に学校の勉強を教わってたわけじゃないわよ! そりゃ、共知覚って言葉は知らなかったけど……」
「共知覚……?」
達也にされた説明を香澄にもすると、香澄も分からなかったという顔を見せる。一方の鈴音は共知覚という言葉を聞いただけで納得した表情を浮かべていたので、そっち方面の知識もあるのだろうと真由美は思っていた。
「達也くんって学校の勉強以外の知識もしっかりと有るから、いろいろと聞きたくなっちゃうのよね。ほら、達也くんが一年生だった頃、飛行魔法の大規模実験の問題点を達也くんに聞いたことがあったでしょ?」
「あれですか。今思えば、達也さんがトーラス・シルバーのソフトウェア担当だったと考えれば、あのような的確な問題点の説明や、断定口調だったのにも納得がいきますね」
「そうそう、トーラス・シルバーで思い出したけど、あーちゃんが達也くんに会いたがってたのよね」
「中条さんが? そういえば彼女は、トーラス・シルバーを神聖視していましたね」
「元々疑っていたようだけど、ついに聞くことなく卒業しちゃったみたいだし、この前の会見で発表された事もいろいろと知りたがってるようだしね」
「しかし、中条さんが達也さんに会えるのでしょうか? 達也さんは一定距離を保って話していたとはいえ、中条さんは達也さんに苦手意識というか、恐怖心を懐いているようですし」
「あーちゃんは十文字くんにもそんな感じだし、話すだけなら問題ないんじゃない?」
真由美のテキトーな考えに、鈴音と香澄は顔を見合わせて表情を歪めたのだった。
真由美は相変わらずいい加減な所が……