劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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そりゃ泣きたくもなるよな……


響子の涙

 夜遅くに帰ってきた響子から情報を貰う為、達也は彼女の部屋を訪れていた。もちろん、既にほかの婚約者たちは寝静まっているので、あまり大きな声は出さずに話し合うので、自然と顔と顔の距離が近くなっている。

 

「――というわけで、近いうちにUSNAで何か行われるみたいなの」

 

「母上が掴んだ情報と一緒ですね。リーナが言ってきた限りでは、何かの実験をするみたいだという事でしたが」

 

「リーナさんから情報が入ってるの? でも彼女、今はスターズの監視に曝されてるからそう易々と情報を外に流せないと思うんだけど」

 

「ミアさんを使って、世間話の中に情報を織り込んできたようです。直接その会話を聞いたわけではないので、どのように織り込んだのかは分かりませんが」

 

「彼女もそういう事を覚えているのね」

 

 

 響子にとって血縁に当たるリーナだが、彼女の諜報力は響子も知っていた。リーナがスターズのスパイとして日本に初めてやってきた時、達也相手に情報戦を仕掛けるくらい、リーナには達也の情報が不足していたのだ。そのリーナが、どうやってかは分からないが、世間話に情報を織り込んだと聞かされ、響子は何故かリーナの成長を親目線で喜んだのだ。

 

「リーナの成長は兎も角として、またマイクロブラックホールの生成・蒸発実験などやられたら堪ったものではありません」

 

「さすがにそれは無いんじゃない? USNAだって、あの実験がパラサイトをこの世に呼び寄せた原因だって知ってるだろうし」

 

「だと良いのですが……」

 

 

 目の前で難しい表情を見せられ、響子もつられて難しい顔に変わる。互いに顔を近づけての会話に慣れているのか、この程度でドキドキする事は無いが、それでも意識せずにはいられないのだろう。

 

「響子さん、眉間に皺が寄ってますよ?」

 

「達也くんこそ、表情には出てないけど、目が本気よ?」

 

「まぁ、何かあってもすぐに手を出せない距離での問題ですから、今のところは放置するしかないのがもどかしいですから」

 

「USNAで何かあれば、ほぼ間違いなく達也くんに影響が出るでしょうしね……光宣くんの事もあるし、まさかまたパラサイトの事で達也くんが頭を悩ませることになるとは……」

 

「まだ決まったわけではありませんし、九島家で調べた限りでは、封印されているパラサイトも、休眠しているパラサイドールの方も問題は無かったんですよね?」

 

「えぇ……でも、光宣くんの技術は、九島家の中でもトップクラスだし、他の人間が気づけない方法で何かしたのかもしれないでしょ? だから、実際に光宣くんの身体を調べられたら一番なんだけど……今何処にいるのか分からないのよね」

 

「光宣の体調を考えると、そう長くは外泊出来るとは思えなかったのですが……やはり、何かしたのは間違いなさそうですね」

 

「そうよね……達也くんと一緒に行動した数日だけでも、光宣くんは体調を崩してたんだから、今の状況で体調を崩してないのはおかしいわ……ましてや遠距離の魔法を感知するなんて、かなり負担がかかるような事をした後だというのに……」

 

 

 達也のような自己修復技術があれば、それなりに可能な事なのだが、光宣にそのような特性は無い。そんなものがあるのなら、一年の四分の一以上をベッドの上で過ごすような事は無かっただろう。

 

「達也くんが最初に見たパラサイト……ミアさんは物凄い修復力を持ってたのよね?」

 

「そうですね。エリカに斬られても全くダメージを負ってませんでしたし」

 

「そうなると、やっぱり光宣くんにもパラサイトが憑りついていると考えるべきなのかしら……」

 

「光宣がそう簡単に何かに支配されるとは思いませんが、自分の意思で取り込んだとなると話は別でしょうね。自我を保っているつもりで、支配されている可能性も否定出来ません」

 

「ただ一つ分かっているのは、光宣くんが水波ちゃんに執着しているという事ね……最終的に水波ちゃんのところに現れるという事だけは確かだから、探し回る必要は無いのかもしれないけど」

 

 

 水波を危険に曝すのを善と思えない響子は、水波を餌に光宣を釣る事に抵抗を覚えていた。軍人としては失格かもしれないが、人としては好感が持てると達也はそんな事を考えている。

 

「達也くん、もし光宣くんがパラサイトに支配されていたとして、私はどうすればいいの? 九島の関係者として、光宣くんを捕まえるべきなのかもしれないけど、ずっと弟のように可愛がってきた彼に攻撃出来るか分からない……また、私の魔法じゃ光宣くんに敵わないかもしれない……」

 

「落ち着いてください。まだそうと決まったわけではありませんし、もしもの時は俺が対処しますよ。水波を狙っている以上、四葉家は光宣と敵対するでしょうから」

 

「また、達也くんに頼るしかないのね……情けないわ」

 

 

 目の前で落ち込まれて、達也は黙って見ていられなくなり、そっと響子を抱きしめた。

 

「達也くん?」

 

「そこまで響子さんが気に病む必要は無いと思いますよ? 響子さんの魔法は、戦闘用ではなく諜報向きですし、身内と戦うのがやりにくいと感じるのは普通の感覚だと俺は思います。まぁ、俺には理解出来ないですけど」

 

「ゴメンね…それと、ありがとう」

 

 

 達也に励まされるとは思っていなかったのか、響子はそのまま静かに涙を流したのだった。




年上でも、甘えたいときはあるさ……

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