劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女たちもいろいろと考えている


他の可能性

 金曜日という事もあり、一高内でも明日明後日の予定を話し合う生徒たちが目立つ中、生徒会室でも休日の予定を話し合う少女たちがいた。

 

「また水波のお見舞いに行きたいんだけど、深雪の都合は大丈夫?」

 

「私は問題ないけど、達也様がご一緒出来るかは分からないわよ? まだUSNAだけじゃなく国内でも何が起こるか分からないのだから」

 

「達也さん、何時になったら落ち着けるんでしょうか……」

 

 

 達也が一緒なら食堂で昼食を摂るつもりだったのだが、達也は職員室に呼ばれたため今日は食堂には顔を出さないと、早いうちに知らされたので、深雪とほのかは生徒会室にあるダイニングサーバーを使い、風紀委員の雫も当然のようにそれで昼食を済ませる事にしたのである。

 

「お父さんの話では、財界ではだいたい達也さんのプロジェクトを支持していて、政界ではディオーネー計画に参加させて、国益を損ねないようにしたいらしい」

 

「達也さんのプロジェクトだって、ゆくゆくは国益に繋がる結果になると思うんだけどな……達也さんが国益とかを考えているかは分からないけど」

 

「達也様はあくまでも、魔法師の未来の為にあのプロジェクトを成功させたいと思われているから、国益とかは副次結果でしかないでしょうね」

 

「でも、達也さんのプロジェクトが成功すれば、日本のエネルギー産業は大きく成長するし、他国にその技術力を提供すれば、かなりの利益になると思う」

 

「それでも政府の人たちは、達也さんにUSNAのプロジェクトに参加しろと言っているんだよね?」

 

「目先の利益にしか目が行ってないんだと思う……長期的に見れば達也さんのプロジェクトの方が有益だって気付けない程のバカなんじゃないかって、お父さんが愚痴ってたってお母さんからメールが着てた」

 

 

 そういいながら端末を操作し、そのメールを深雪とほのかに見せる雫。離れて暮らしていても親子仲は良好のようだと、深雪は心のどこかで羨ましさを覚えたが、すぐに別の疑問を覚えた。

 

「雫のお母様って、達也様の事を敵対視していらっしゃなかった? その割にはこのメール、達也様の事を心配しているようにも見えるけど」

 

「達也さんが身分を隠していた事に不満はあったみたいだけど、とりあえずはわだかまりは解けたみたいだよ」

 

「そう……」

 

「それどころか、お父さんの取引相手になるかもしれない相手だから、近いうちに直接会って謝りたいとも言ってた。この間来た時は、お母さんいなかったし」

 

「そういえばお目に掛からなかったわね。お出かけでもしていたの?」

 

「航と一緒に出掛けてたみたい。お父さんがわざと出かけさせたような事も言ってたけど」

 

 

 まだ内々の話だという事もあってか、あの時潮は紅音と航の二人を屋敷から遠ざけていた。雫に会いたがっていたのは紅音も航も一緒だっただろうに、わざわざそうしたのは情報が漏れるのを恐れての事だったに違いないと、深雪はそう解釈した。

 

「そういえばその時って、雫がUSNAに行ってた時に知り合った人も来たんでしょ?」

 

「うん……達也さんに物凄い失礼な事を言ってたから、塩でも撒こうかと思ったけど」

 

「アメリカ人に通じるのかな?」

 

「どうだろう……」

 

 

 ほのかのズレた疑問に、雫も割かし本気で首を傾げて考え込む。その二人の仕草が可愛かったのか、深雪は二人を眺めながら優しい笑みを浮かべていた。

 

「そういえば、昨日も達也さんは藤林さんの部屋を訪ねてたみたいだけど、何を話してるか深雪は知らない?」

 

「一緒に暮らしてる雫やほのかが知らないのに、私が知ってるわけ無いでしょ?」

 

「でも、深雪になら話してるかもしれないでしょ? 既に四葉家の人間である深雪になら、情報が行ってるかもしれないし」

 

「残念だけど、私に情報が下りてくることは滅多にないわよ。大抵は達也様や水波ちゃんが知っていればそれでいいって方針だったし、今の私は達也様の婚約者の一人でしかないから」

 

 

 深雪の答えに、雫とほのかは一応納得したような表情を浮かべていたが、完全に真実だとは思っていなかった。

 

「藤林さんなら、様々な情報を持っていても不思議ではないし、軍内部の情報を持ってこれるでしょうから、内密にお話ししてるだけじゃないかしら?」

 

「軍の情報を持ち出して良いの?」

 

「あの方はもうじき軍を辞める人だから、今更気にしないのではないかしら? この間の超遠距離攻撃の件で、藤林さんも国防軍には愛想を尽かしたでしょうし」

 

「やっぱり、国防軍はあの攻撃を予期していたの?」

 

「何時攻撃されるかまでは分からなかったと回答されたらしいけど、達也様に忠告さえしていただければ、水波ちゃんはあんなことには……」

 

 

 深雪の言葉を、二人は大袈裟だとは思わない。それだけの実力が達也にはあるし、達也の眼が新ソ連に向けられていれば、魔法攻撃をみすみす許す事はしなかっただろうと信じているからである。

 

「それ以外の可能性があるとしたら、達也様が藤林さんを特別意識しているとか?」

 

「でも、それらしい素振りは見られないし、深雪だって何も感じてないんでしょ?」

 

「達也様が変わられた感じはしないわ……何か別の事があるとして、それは何なのかしら……」

 

 

 考えても分からない事で頭を悩ませるのは深雪も好きではないのだが、その事がどうしても頭から離れなくなってしまったので、後で達也に聞いてみようと決意したのだった。




達也だから、いろいろな可能性があるんだよな……

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