劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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まぁ却下はされないよな……


本家からの許可

 水波の見舞いを済ませ、達也はほのかと雫を最寄り駅まで送ってから深雪の部屋へと向かう。一日おきに四葉が保有するビルと、達也と婚約者の為に作られた家を行き来する事になっているが、その事に不満は無い。伊豆の別荘に引っ込んでいた時よりこちらの方が自由に動けるからだ。

 

「達也様、お帰りなさいませ」

 

「あぁ、ただいま」

 

 

 達也はこの部屋に住んでいるわけではないが、深雪の「お帰り」にツッコミを入れる事はせず、達也は素直に応えた。

 

「お風呂の用意が出来ていますので、食事の前に如何でしょうか?」

 

「そこまで疲れてるわけではないし、少し調べておきたい事があるから風呂は後にするさ。深雪も少しゆっくりしたらどうだ?」

 

「いえ、達也様のお食事の準備がありますので、ゆっくりしてる暇などございません。ところで、調べておきたい事とは?」

 

「亜夜子から聞かされた情報の、もう少し詳しい内容をな」

 

「亜夜子ちゃんから、ですか? 私は何も聞いておりませんが」

 

「不確定な情報だから、深雪には伝わってないのだろう」

 

 

 不貞腐れる深雪を宥めてから、達也は本家直通の番号に電話をかける。もちろん、しっかりと正装してからなので、深雪を落ち着かせてから少し時間は経っているが。

 

『これはこれは達也様。何かございましたかな?』

 

「葉山さん……別にかしこまる必要は無いと申し上げましたが?」

 

『いえいえ、従者としてけじめは大切です故』

 

「側に人がいる時ならまだしも、この番号は母上に直通のはずです。母上と葉山さん以外の人物が側にいるとは思えませんが」

 

『さすがですな、達也殿。真夜様が少し退屈為されておいででしたので、少しでも気を紛らわせられればと思っただけです、気分を害されたのなら謝りましょう』

 

「いえ、大丈夫です」

 

 

 葉山が自分の事を様付けで呼ぶ時は、周りに人がいる時か真夜に言われたかのどちらかだ。真夜が葉山にそれを強要する事は無いが、葉山が様付けで呼ぶ事で達也が顔を顰める姿は、真夜にとって楽しい光景なので葉山がそうする事も多々ある。だから今更謝罪してもらいたいとも思わないのだ。

 

『それで、本日などのような件で?』

 

「先日亜夜子から聞かされた件、その後何か分かりましたか?」

 

『……なかなか手強い相手の様でして、四葉家の力を以てしても追加情報は得られませんな。ただ、少し騒がしい動きが見られるとだけ』

 

「騒がしい動き…ですか……」

 

『エドワード・クラークがマクロードと極秘回線で連絡を取ったり、日本政府にちょっかいを出したりと、そのような事ではなく、USNA軍が何やら動いているらしいと……その背後にレイモンド・クラークがいるのではないかと、そこまでは掴んだようですが』

 

「あの男ですか……どうも彼は俺に執着しているようですから」

 

『達也殿に、ですかな?』

 

「正確には、俺の婚約者の一人である雫にご執心のようですがね」

 

『そういう事ですか。それで、達也殿より自分が優れていると見せつけようとして、達也殿の妨害を画策していると』

 

「詳しい動機は分かりませんが、その可能性が高いでしょうね」

 

 

 達也にレイモンドの執着する気持ちは分からないが、彼が雫に対して本気なのは感じていた。もっとも、雫の方は何とも思っていないのだが、レイモンドはそれが受け入れられないようだと感じたのだ。

 

『それでは、この手に入れた怪文書も、レイモンド・クラークが送ったのでしょうか?』

 

「怪文書?」

 

『達也殿の端末にデータをお送りしておきますので、後程確認してくださいませ』

 

「分かりました」

 

 

 今すぐ見たい気持ちもあったが、とりあえず達也は話を続ける事にした。

 

「もしUSNAで何かが起こったとして、母上はどのようにお考えなのでしょうか?」

 

『達也殿が真夜様の後継者として決まった時から、達也殿の行動にいちいち指示を出すつもりは無いとの事です。もちろん、報告は怠らないようにと仰られておいでですが』

 

「分かりました。では――」

 

『あぁ、少しお待ちを』

 

 

 電話を切ろうとした達也を寸でのところで呼び止め、葉山は一礼してから画面から姿を消し、代わりに真夜が姿を現わした。

 

『こうして直接お話しするのは久しぶりかしら?』

 

「葉山さんを介して話す事が多かったですから、そうかもしれませんね。ご無沙汰しております、母上」

 

『堅い挨拶は抜きでいいわよ。早速本題に入りたいのだけど』

 

「何でしょうか?」

 

 

 堅苦しい挨拶を飛ばしてくれるのは、達也にとってもありがたい事だったので、彼もすぐに真夜に本題を尋ねた。

 

『水波ちゃんが達也さんの愛人として加わるって件だけど、四葉家として問題にするつもりは無い、という事で分家の方々に納得してもらいました。後は達也さんの気持ち次第です』

 

「そうですか……お手数をお掛けしました」

 

『別に構わないわ。水波ちゃんの事は、こちらとしても最大限に守るつもりだけど、達也さんの方でも気に掛けてあげてちょうだい』

 

「もちろんです。水波は深雪にとって妹も同然の相手です。水波がいなくなれば深雪が悲しむでしょうし、自分個人としても、水波には側にいてもらいたいですから」

 

 

 そう答えた達也の事を、真夜は様々な感情が混ざっている表情で見つめていた。だが真夜は何も言わず、黙って頷いてから電話を切ったのだった。




これで本格的に、光宣がただの当て馬に……

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