劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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150話目です。一ヶ月三十日と計算して五ヶ月ですか……


続・IFルート その3

 夏休みでも、用事のある生徒は登校している。生徒会長でも用事があれば学校に来なければいけないのだが、真由美はそれとは別の用事でも学校を利用している。

 

「摩利にバレたら怒られるだけで済むかしら」

 

「如何でしょうね。ですが、外で会うのはなかなか難しいですし」

 

 

 生徒会の用事と風紀委員の仕事でほぼ毎日学校に当校している真由美と達也だが、二人には別の理由でもこの場所に来ているのだ。

 

「私だって普通にデートしたいわよ」

 

「しょうがないですよ。会長は十師族、しかも家の人には内緒で付き合ってるんですから」

 

「達也君、二人っきりの時に『会長』は止めてって言ってるじゃないの」

 

 

 真由美の可愛いおねだりに、達也は表情を緩めて呼びなおす。

 

「真由美、俺だって普通にデートしたりしたいが、まだ真由美のお父上に知られるのはマズイだろ」

 

「そうなのよね……あのタヌキ親父に知られたら大変だもの」

 

「真由美でもそんな事言うんだな」

 

 

 普段の話し方からでは想像出来ない悪態に、達也は苦笑いを浮かべた。

 

「私だって普通の女子高生よ? 父親に悪態を吐く事くらいあるわよ」

 

「そうだな。でも意外だったよ」

 

「深雪さんだって、お父さんに悪態を吐く事くらいあるんじゃないの?」

 

 

 付き合ってはいるが、真由美は達也の家庭事情を詳しく知らない。達也は先ほどより苦味の強い笑みを浮かべ答える。

 

「ウチの親父は後妻の家に入り浸ってますからね。そもそも俺も深雪もあの人の事は生物学上での親としか思ってませんし」

 

「……私なんかよりよっぽど毒が強いわよ」

 

 

 達也の言葉に如何反応したら良いのか分からなかった真由美は、毒舌だと言って誤魔化そうとした。だが達也には真由美が困惑してる事を知るのは難しく無い。むしろ隠せてると思ってる真由美を見て苦笑いを浮かべている。

 

「そういえば達也君」

 

「何だ?」

 

「貴方って本当に魔法が上手く使えないの?」

 

「……いきなり何だ」

 

「だって、モノリス・コードで一条君を真正面から倒したんだよ? 十師族が騒ぐ原因の貴方が、魔法を上手く使えないなんておかしいじゃない」

 

 

 真由美はもしかしたら気付いてるかもと思っていた達也だが、如何やら真由美は気付いて無いらしい。達也はこれ以上隠し通すのは難しいと判断し、事前に葉山には了解を取っていたのだ。

 

「真由美、これから話す事は絶対に他言無用で頼む。家の人や委員長にも内緒だ」

 

「急に如何したのよ……何だか雰囲気が怖いわよ」

 

「それだけ重要な事なんだ」

 

 

 達也の真剣な眼差しに、真由美は場違いに照れた。だが何時ものようにふざけられる雰囲気では無いと思いなおし、真由美も居住まいを正した。

 

「俺には自由に使える魔法が確かにある。だがそれはおいそれと他人に見せられる魔法では無いんだ」

 

「見せられない魔法? まさか軍事機密指定とかそういうのじゃないわよね?」

 

「よく知ってるな。さすがは『七草』と言ったところか」

 

 

 真由美は軍事機密指定魔法がどんなものかは詳しく知らない。だが、そういった魔法が存在してるのは知っていたのだ。

 

「構造体をバラバラにする『分解』、対象エイドスをフルコピーして、その相手を完全に回復させる『再成』、俺が自由に使えるのはこの二つだけだ」

 

「それじゃあ一条君の攻撃は……」

 

「真由美の想像通り直撃してる。肋骨骨折と内臓破裂だ。普通なら動ける状態では無かった」

 

 

 達也の告白に、真由美は口を押さえて顔を青白くする。それだけ衝撃的な事だったのだろうと、達也は他人事のように思っていた。

 

「それと真由美には教えてたな。九校戦にちょっかいを出していた犯罪シンジケートの事を」

 

「ええ、天幕の奥で聞いたわ」

 

「あれの殲滅に俺は一役買った」

 

「殲滅って……それは軍の仕事じゃないの?」

 

「俺は陸軍第一○一旅団独立魔装大隊の特務士官だ」

 

「うそっ……」

 

 

 独立魔装大隊の事を、真由美は何となく知っていた。だが達也がその部隊の一員である事は、真由美にかなりのショックを与える事なのだ。

 

「それじゃあ達也君は、その犯罪組織の人たちを捕まえたの?」

 

「いや」

 

「じゃあ……殺したの?」

 

 

 真由美の口から普通の女子高生からは出ない単語が発せられたが、達也の答えは真由美の想定外のものだった。

 

「殺してはいない、消したんだ」

 

「消した?」

 

「さっき話したよな。俺の本来の魔法『分解』は、構造体をバラバラにする魔法だって。そしてそれは人体も例外ではない」

 

 

 達也が表情一つ変えずに言っている事が、真由美には恐ろしく感じた。そして同時に吐き気を催してきた。

 

「それが普通の反応だ。真由美はこんな事に慣れなくて良い」

 

 

 達也が少し突き放すような感じなのを、真由美はしっかりと分かっていた。自分は私とは違う世界で生きているのだと、そう言われてる事に。

 

「真由美、もし俺が怖いなら別れてくれて構わない。今ならまだ深雪しか知らないからな」

 

 

 それはつまり、誰にも冷やかされる事も無く、同時に慰めてもらう事も出来ないという事だ。

 

「嫌ッ! 絶対に別れないから!」

 

「真由美?」

 

 

 癇癪を起こしたかのように、真由美は大声で否定する。

 

「達也君がどんな人でも、私にとっては恋人だもん! 例え達也君が重たいものを背負ってると知っても、それで別れるなんて絶対に嫌!」

 

「真由美……」

 

 

 泣きじゃくる真由美を、達也は優しく抱きしめる。思えば付き合いだしてから今まで恋人らしい事などして来て無かったなと、達也は今更ながら思っていた。

 

「これも他言無用で頼みたいんだが」

 

「何よ……これ以上に秘密なんてあるの?」

 

「さっき真由美が言ったよな、『十師族が騒いでる』って」

 

「ええ……」

 

 

 真由美はさっきよりも強烈な嫌な予感がしていた。達也が何を言い出すのか分からないのに、その事はきっと自分に強烈な衝撃を与えてくるだろうと、何か核心めいたものが真由美の中にあった。

 

「正確には、一つの家は騒いでないんだ」

 

「……何処よ」

 

「四葉。俺は四葉家当主四葉真夜の姉、旧姓四葉深夜の息子だ」

 

「それじゃあ達也君も十師族……」

 

「いや、先に言ったように、俺は魔法を上手く使えない。だから十師族の血は引いてるが、十師族の一員とは認められて無い」

 

 

 真由美の頭の中に、一つの悪知恵が浮かんだ。それは自分と達也にしか出来ない事だと、真由美はお得意の思い込みで決め込んだ。

 

「ねぇ達也君」

 

「何だ?」

 

「達也君を十師族に出来る方法があるんだけど」

 

「会頭が言ったように、誰かと結婚するってやつか?」

 

「うんそう。そして達也君の彼女は十師族なのよ?」

 

「そうだな」

 

 

 達也は、真由美がプロポーズしてきたのだと思っていた。だが真由美はそれ以上を考えていた。

 

「それでね、今七草と四葉って関係が良く無いのよ。もしその家の人間の間に子供でも出来たら、仲直り出来ると思わない?」

 

「おいおい……それは気が早いんじゃ」

 

「ううん、むしろ遅いくらいよ! さぁ達也君、私と一緒に子供を作りましょう!」

 

 

 こうなった真由美を止めるのは、達也でも無理なのだ。既に服を脱ぎだしている真由美を見て、達也はため息を吐きながら自分も服を脱ぎだした。此処が生徒会室だという事を、真由美は完全に忘れているが、達也は覚えていたのだが……




後二話でIFは終わり。それともう一つ番外編をやってから夏休み編に入ります。

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