劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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投稿してなかった……


光宣の激昂

 達也の問いかけに答えるのに躊躇いを見せた光宣。それはもしかしたら、光宣が変わっていない証拠と言えるのかもしれない。

 

「――パラサイトの身体は、想子波動に対する高い耐性を備えています。パラサイトと融合すれば、魔法演算領域が暴走しても肉体がダメージを受ける心配はありません。いえ、人間の魔法師よりも魔法に近いパラサイトは、魔法演算領域を暴走させる心配すら不要かもしれません」

 

 

 光宣は水波に向けて言っているのもあるので、ジッと水波を視ようと視線を前に固定している。だが達也は光宣と水波の間から動こうとしない。二人の視線を遮ったままだ。

 

「こういう場合、水波本人の意思を問うべきなのだろうが、ここは主としての我が儘を通させてもらう」

 

 

 正確に言えば水波の主は深雪なのだが、そんな厳密性が必要な場面でもないし、次期当主として四葉家のほぼすべての権限が与えられている達也が、水波の主だと言っても過言だとはだれも思わない。そしていま必要なのは、口を挿む根拠だけだ。

 

「却下だ。水波をパラサイトになど、させない」

 

「達也さん!?」

 

 

 光宣は本気で驚愕していた。彼はどうやら、達也が自分のアイディアに反対するような事は無いと思い込んでいたようだ。

 

「でもこのままじゃ、水波さんは何時突然の死に見舞われるか分かりませんよ!」

 

「魔法演算領域の暴走が原因ならば、パラサイトにならなくても対処法はある」

 

「ですから、魔法演算領域の修復は不可能なんです! セーフティの機能だけでも取り戻せるなら、最初からこんな提案はしません!」

 

「セーフティに頼らなくても、魔法演算絵領域を外側から封印してしまえば暴走する心配も必要なくなる」

 

 

 光宣が大きく目を見開いた。一歩、二歩と後ろによろめき、漸く体勢を立て直す。

 

「達也さん、貴方は……水波さんから魔法を取り上げるというんですか!?」

 

 

 それは光宣には、信じられない事だった。魔法師から魔法を取り上げる。それは、魔法師としての存在意義を奪う仕打ちだ。優れた魔法師であることだけをよりどころに生きてきた光宣にとっては、ただ口にするだけでも許せない事だった。

 

「俺は水波に、生きていて欲しいからな」

 

「その為に、彼女を魔法師でなくすんですか!」

 

「魔法師だけが人間の生き方じゃない。もっと平和に、普通の女の子として過ごす人生が水波にはある」

 

「それは達也さんの願望でしょう! 貴方に、水波さんから魔法を奪う権利は無い!」

 

 四葉家の『所有物』である水波をどうしようと、光宣が口を挿めることではない。だが光宣はその事を理解していないし、達也も無理に理解させるつもりも、納得させるつもりも無かった。

 

 

「なるほど、確かに俺の望みは水波から魔法を奪う事になる。だが光宣、お前の望みは、水波から『人である事』を奪う結果になるんだぞ。それを理解しているのか?」

 

「だったら水波さんに選んでもらいましょう! 彼女の人生だ。水波さんがパラサイトになることを拒んだら、僕も諦めます。水波さん!」

 

 

 達也は相変わらず光宣の視線を遮ったままだが、光宣は構わずに、水波に向けて叫んだ。

 

「僕は君を死なせたくない! 君から魔法を取り上げたくもない! 頼む、僕と同じになってくれ!」

 

 

 水波の顔に、激しい動揺が走る。彼女は、パラサイトになるつもりなど無かった。もしそんな事になれば、達也と深雪の側にいられなくなる。そんな事を選べるはずもなかった。

 だから、魔法を捨てるかどうかは別にして、この場は達也に任せるつもりだった。だがしかし、この光宣の言葉は水波の心を揺さぶった。何故光宣がここまで自分に執着しているのか、水波にはそれが分からなかったからだ。

 水波の動揺を知ってか知らずかは分からないが、その迷いを断ち切らんとばかりに、達也が鋼の声で光宣の言葉を斬り捨てた。

 

「言っただろ、光宣。却下だ」

 

「達也さん、どいてください! 僕は水波さんと話をしたいんだ!」

 

 

 遂に、光宣が激高した。光宣から達也へ、魔法が放たれる。その魔法は単純な移動魔法だった。水波との会話を妨げる達也を、横に退けるという意図が形になったもの。だがそこには加速の工程も減速の工程も含まれていない。一瞬でトップスピードに至る、歴とした攻撃魔法。

 達也の反応は、反射的でありながら的確なものだった。自分に襲いかかった魔法式を『術式解散』で分解する。

 

「光宣、どういうつもりだ」

 

「五月蠅い、どいてくれ!」

 

 

 光宣は優れた魔法師であることを、拠り所にしている。魔法技能で負けない事が、彼の心を支える柱だ。その魔法を無効化された事で、光宣はこの時、逆上していた。ムキになっていた。不戦敗以外では負けたことが無い。その経験不足が、ここで祟った。病気がちな身体の所為で全てを諦めていた光宣にとって、「健康でさえあれば」という想いは妄執に近い。――健康でありさえすれば、魔法では負けない。

 その想いを、たった一度の攻防とはいえ、覆されてしまったのだ。今年十七歳になる未熟な少年が我を失っても、同情の余地は十分にあった。かれが、普通の少年だったならば。

 だが光宣は「普通」ではない。今や「人」ですらなくなっているのだ。




予約したはずなんだけどなぁ……

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