劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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十師族当主もあまり当てにならないな……


光宣への対策

 真夜が光宣に関する情報を握りつぶすかもしれないという達也の懸念は、杞憂に終わった。達也と光宣が調布の病院で不幸な衝突を起こした翌日、達也は魔法協会関東支部に呼び出された。今日の用件は、ディオーネー計画絡みの説得ではない。彼は、臨時師族会議にオブザーバーとして出席を求められたのだ。いや、証人として、と表現した方がより実態に近いかもしれない。

 魔法協会関東支部がある横浜ベイヒルズタワーの会議室に来ているのは、達也と克人の二人だけだった。克人は先月最後の日曜日に行われた決闘を匂わせるような態度は取らなかったが、何事も無かった様な振る舞いは、逆にあの一件を消化しきれていない証拠だったかもしれない。

 関東支部のスクリーンに映る顔は十人。九人の十師族当主ともう一人、九島烈だ。会議は礼儀的な挨拶を最小限で切り上げて、いきなり本題に入った。

 

『――信用しないわけではないが、改めて尋ねたい』

 

 

 病床から復帰したばかりの一条剛毅が、病み上がりであることを感じさせない気迫のこもった声で発言した。質問の相手は達也だ。

 

『九島家の光宣殿がパラサイトになった言うのは、本当の事なのか?』

 

「本人がそう言っていました。自分が相対した感覚でも、彼はパラサイトになっていました」

 

 

 スクリーンの中の十人は、改めて驚きを示す者、何の感情も見せぬ者、悲し気に目を伏せる者の三通りに反応が分かれた。

 

『……光宣殿の狙いが四葉家配下の魔法師、桜井水波嬢だというのも?』

 

 

 この問いかけは、驚いていた組の三矢元のものだ。

 

「これも本人の口からはっきりと聞きました」

 

『その……光宣殿と桜井水波嬢の間には、特別な関係があったのですか?』

 

『光宣殿の動機は、ひとまず横に置いておきましょう。光宣殿がパラサイトに変じた事も、四葉家の魔法師を狙っている事も大いに問題ですが、私は光宣殿に憑りついたパラサイトが何処から来たのか、それが気になります』

 

『確かに。パラサイトが再び日本に侵入してきたのだとしても、国内に発生源が出来たのだとしても。これを放置しては被害が拡大する恐れがあります』

 

『……それは』

 

 七宝拓巳の質問をわきに追いやり口を挿んだ七草弘一の考えに五輪勇海が同意する。九島烈が苦渋の滲む声で回答しようとしたが、達也が横から口を挿んだ。

 

「前回パラサイトが侵入した際、自分は友人の助けを借りて二体のパラサイトを封印しています。ですがその封印体は何者かに奪われてしまいました。恐らく、その二体が発生源だと思われます」

 

『誰が奪っていったのか、分からないのですか?』

 

「不明です」

 

『調査はしなかったのですか?』

 

「東京は四葉のテリトリーではありませんので。当時、パラサイトには七草家の真由美嬢、十文字家、千葉家のエリカ嬢と共同して対処していました。奪われた封印体についても、情報を共有していたのですが」

 

「確かに聞いています」

 

『一体は私の手元にあります。達也は残りのパラサイトと交戦中でしたので、私が回収を手配したのですが、一体しか確保できませんでした』

 

『……それを、達也殿にお伝えしなかったのですか?』

 

 

 達也と克人の回答に追及を諦めた弘一の横から真夜が思いがけないセリフを飛ばし、二木舞衣が呆れたような口調で確認する。

 

『達也には学業に専念してもらいたかったので。本件の報告を受けて念のために確認しましたが、当家が保管しているパラサイトに異常はありませんでしたわ』

 

『では、残りの一体が感染源である可能性が高い?』

 

『結論を急ぐのは危険でしょう。感染源については、情報が無さすぎる』

 

『七草殿や五輪殿の懸念はごもっともだと思いますが、今は分かっている問題への対処を優先すべきでは?』

 

『そうですね。その通りだと思います』

 

『……老師には申し訳ございませんが、パラサイトと判明している以上、放置は出来ません』

 

『そうだな』

 

「宿主を失ったパラサイトは、新たな宿主を求めて飛び去る事が確認されています」

 

 

 達也の注意喚起に、十師族当主たちは様々な表情を浮かべた。

 

『では精神体を攻撃できる魔法師の動員が必須という事か?』

 

『光宣殿を殺さずに無力化する方が安全なのでは?』

 

『私もその意見に賛成します』

 

『達也殿は封印の方法をご存じなのですよね?』

 

『そのノウハウは私の方から提供しよう』

 

『老師がですか?』

 

『失礼ながら、老師はパラサイトを封印する方法を何処でお知りになったのですか?』

 

『先生でしたら、当然ご存じでしょう。当家がパラサイトの封印に使っている術式も、元はと言えば先生から教えていただいたものですから』

 

 

 真夜のセリフに、剛毅が鋭さを増した視線を烈に向ける。そのグダグダになりつつあった空気を、舞衣が修正しようと口を開く。

 

『光宣殿の狙いは桜井水波嬢、こう考えてよろしいでしょうか?』

 

「彼にとっての最終的なゴールは、ウチの水波だと思います」

 

『では、東京の病院にいる水波嬢の近くで網を張るのが効果的ですね』

 

『ええ、それでよろしいかと。水波の守りは、私の方で手配しておきますので』

 

「四葉殿。我が家からも警備の手を出したいのですが」

 

『病院の外でよろしければ』

 

「それで結構です」

 

『では是非に』

 

『私たちはどうしましょうか?』

 

『光宣殿の最終的な狙いが桜井水波嬢だと思われますが、九島家に戻ってくる可能性も十分にあります』

 

『無論、姿を見せれば捕らえる。匿いはしない』

 

『そのような心配はしておりませんが。光宣殿は健康面にこそ不安はありましたが、元々極めて優れた魔法師でした。パラサイト化した光宣殿の実力がどれ程のものか、予測がつきません。よろしければ、私のところからも人を出そうと思うのですが』

 

『必要ならば、私も』

 

『かたじけない。それでは、二木殿、ご助力をお願いしても良いだろうか。一条殿にも、もし援軍が必要となれば手勢を貸してもらえるとありがたい』

 

『かしこまりました』

 

『承知した』

 

「では四葉家が桜井水波嬢の護衛。七草家が光宣殿を迎え撃ち捕縛。我が十文字家は桜井水波嬢の病院の外で警備。九島家の援軍に二木家、援軍二陣に一条家。他家は各々警戒に当たるという事でよろしいでしょうか」

 

 

 克人の言葉に、次々と賛同の声が上がる。十師族の方針は、斯く決定した。




若い達也と克人に頼りすぎな気もしないでもない……

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