劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この期間に不穏じゃない情報の方が少ない


不穏な情報

 軍の仕事を終わらせ、日付が変わるギリギリに帰ってきた響子を待っていたのは、あまり嬉しくは無い報告だった。

 

「……やっぱり、十師族は光宣君を捕らえる事にしたのね」

 

「光宣にパラサイトが憑りついている以上、放置するのは得策ではありませんので」

 

「それは、そうかもしれないけど……」

 

 

 光宣が強い身体を手に入れたことは喜ばしい事だと思っているが、その所為で他家に迷惑を掛けている以上仕方ないと割り切っていながらも、響子は光宣の気持ちを尊重してあげたい思いもあった。

 

「水波ちゃんが光宣君の申し出を受け入れる意思がない以上仕方ないのかもしれないけど、なるべく穏便に済ませる事は出来ないの?」

 

「既に一戦交えてますからね。光宣が大人しく捕まる事を善としていない以上、交戦は免れないでしょうね」

 

「そう……でも達也くんは、光宣君を殺そうとしてるわけじゃないのよね?」

 

「たとえ病気がちとはいえ、光宣は優秀な魔法師です。パラサイトを引きはがす事が出来るなら、それに越した事は無いでしょう」

 

「達也くんがミアさんにした時のように、パラサイトを引きはがしてから再成を施すの?」

 

「もしくは、光宣の中でパラサイトを封じ込め、それから引きはがせば光宣の身体に与えるダメージを減らせるかもしれませんが、あの魔法発動速度は厄介です」

 

「達也くんでも苦戦する、という事かしら?」

 

「殺してはいけないというルールは、こちらにしか存在しませんからね。向こうは全力でこちらを殺しに来ているわけですし」

 

 

 達也だから致死性の攻撃でも死ななかっただけで、他の魔法師なら下手をすれば死んでいた程の魔法を、光宣は一切の容赦なく放っていたのだ。こちらだけ不殺という決まりに縛られていては、捕縛すら難しいだろうと達也は思っている。

 

「私に出来る事はあるかしら?」

 

「今のところはありません。下手に光宣に近しい人間が関われば、そこから攻め込まれる可能性がありますし」

 

「さすがに光宣君の味方をするつもりは無いわよ?」

 

「そうではなく、隙を突かれてパラサイトに身体を乗っ取られる可能性がある、という事です。光宣は水波をパラサイトにしようとしていますから、他人にパラサイトを寄生させる方法を知っているのでしょう」

 

「………」

 

 

 その可能性を失念していた響子は、自分がもし光宣と対峙したら乗っ取られていたかもしれないと思い戦慄する。パラサイトになる気など全くないが、そもそも自分の意思でパラサイトになる方が特殊であり、抵抗出来るかなど分からないのだから仕方がないだろう。

 

「これは七草姉妹にも言える事ですが、光宣と近しいが故に邪魔になる可能性が高いのです。今は光宣以外のパラサイトと対峙してる余裕など無いのですから」

 

「達也くんの現状を考えれば仕方ないけど、そうはっきりと邪魔だと言われるとショックね……これでも現役軍人としてのプライドもあるわけだし」

 

「響子さんの魔法『被雷針』があれば光宣を捕らえる際に便利かもしれませんが、貴女を危ない目に遭わせる可能性がある以上、参加はさせられません」

 

「分かってるわ。達也くんが私たちを危険な目から遠ざけたいって思ってるのは。でも、絶対に無茶はしないでね? 貴方に何かあったら、悲しむ人が大勢いるって事を忘れないで」

 

「分かってますよ。これでも、皆さんの事は本気で考えているのですから」

 

 

 他人からの好意に疎い達也でも、これだけの婚約者がいて、その全員が自分の事を想っているという事は理解している。もちろん負けるつもりなど無いが、大怪我を負うのも避けようと心に決めた。――いくら最終的に治っているとはいえ、深雪やほのかが顔を真っ青にするのが分かっているからだ。

 

「それじゃあ信じるけど、くれぐれも一人で片づけようだなんて思わないでね?」

 

「もちろんですよ。十師族の皆さんの力を存分に使わせてもらうつもりですから」

 

「なら良いんだけど……」

 

 

 まだ何か不安があるのか、響子の表情は晴れていない。達也が視線で問いかけると、響子は躊躇いがちに口を開く。

 

「今日偶々耳に挟んだ情報なんだけど、USNAで不審な動きが見られるようなのよね。何者かが裏で動いているのかもしれないけど、また厄介ごとが君に降り懸かりそうな展開らしいのよ」

 

「その事でしたら、リーナからミアを介して情報が入っていますが、具体的な事はこちらでもまだ分かっていません。まぁ、面倒事に巻き込まれるのは、不本意ながら慣れていますので」

 

「とりあえず、今は無理だけはしないでね。なにも手伝い得ないのが残念だけど、応援くらいはさせてちょうだい」

 

「ありがとうございます。その気持ちだけで、十分ですよ」

 

 

 達也としては十師族の力だけでも十分なので、無理に手伝おうとしない方がありがたい。響子や他の婚約者が手伝いたいと思っているのも分かっているが、無理に手伝わせてパラサイトになられたら厄介なので、自重してくれるならそれに越した事は無いのだ。

 

「それじゃあ、俺は部屋に戻ります」

 

「えぇ。おやすみなさい」

 

 

 響子に挨拶をし、達也は部屋を辞して自分の部屋へと戻っていくのだった。




響子さんが情報屋みたいになってきた……

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