リーナが夢だと思い込んでパラサイトを撃退している頃、日本では達也がどことなく落ち着かない気持ちになっていた。
「達也さん、どうかしたんですか?」
「いや、何でもない」
普段と違う雰囲気に、ほのかが心配そうに達也の表情を覗き込むが、達也は心配させないように何時も通りの表情を見せた。
「達也さんがそんな風にしてるのって珍しいよね」
「まぁ、達也くんは殆ど表情が変わらないからね~。大方、深雪の事が心配ってところかしら?」
「深雪の事とは違うんじゃないかな? 上手く説明できないんだけど、深雪の事なら達也さんが心配するはずがないと思うんだよね。何時でも深雪の事を見守ってるっていうのかな? そんな感じだし」
ほのかの言う通り、達也は常に深雪の事を見守っている。彼女の中に自分の「眼」を残してある以上、深雪に何かあれば達也に分からないはずがないのだ。
「じゃあ別の心配事?」
「別に心配事というわけでもないのだが、何となく胸騒ぎがするというのかな。こんな事初めてだから上手く表現出来ないんだが、そんな感じだ」
「達也くんが胸騒ぎを覚えるなんて、よっぽどのことが起こりそうって事? 何か心当たりは無いわけ?」
「達也さんの心配事というと、ディオーネー計画についてとか? それとも、九島光宣の事?」
「それが分かったら達也さんもあんな表情しないって」
達也の事を憶測で話して盛り上がっている三人のところに、深雪がやってきた。
「ゴメンなさい。ちょっと先生方とお話ししていたら遅くなったわ」
「別に大丈夫だって。ミキたちに深雪の分のも持ってきてもらってるから」
「そうなの? 吉田君たちに悪い事をしちゃったかしら?」
「それくらいしか役に立たないから」
「そんな事は無いんじゃないかしら?」
場所取り兼お喋りで盛り上がっている女子たちを見ながら、達也は胸騒ぎの正体が何なのか考えていた。
「(光宣の事はとりあえず十師族に手伝いを取り付けてあるから、何かあれば報告が来るはずだ。ディオーネー計画の件も、今のところ表立った動きは見られない……水波の容態が悪化したわけでもないし、いったい何だというのだ?)」
さすがの達也も、USNAでパラサイトが発生し、リーナを襲っているなどという考えには至らないようで、原因究明には至らなかった。
「ほらよ」
「あらレオ……ミキは?」
「幹比古なら、まだあっちだぜ」
レオが指さした先には、幹比古が苦労しながら食事を運んでいる姿が見受けられた。
「バランス感覚はやっぱレオの方が優れてるのね」
「まぁ、硬化魔法を使う上で、バランスは大事だからな」
「お、お待たせ」
「お疲れ、ミキ」
「僕の名前は――って、達也? そんな顔して、どうかしたのかい?」
「いや、何でもない。それよりも、何でレオと幹比古がエリカたちの食事を取りに行っていたんだ?」
「罰ゲームよ。さっきの体育の時間に、そういう約束をしてたのよ」
「レオは兎も角、何で僕まで……」
「美月の食事を取りに行ったと思えばいいじゃないの。ついでにアタシのも持ってきたって事で」
どうやらレオとエリカの間で行われた勝負に、幹比古も巻き込まれたようだと、達也は漸く納得がいった
「本当は全員分を持ってこさせるつもりだったんだけど、さすがにレオ一人じゃ大変だからってね」
「というか、自分で取りに行きやがれってんだ!」
「あによ! 負けたアンタが悪いんでしょうが」
「はいはい、エリカも西城君も、食堂の注目の的になってるから、少し大人しくしたらどう?」
「というか、深雪と達也さんがいる時点で、注目の的」
ただでさえ目立つ集団なのだが、今はエリカとレオの言い争いで何時も以上に注目されている。主に注目されているのは達也と深雪なのだが、深雪は他人の視線をシャットアウトする技術を身に着けているし、達也は害意が含まれない限り、他人の視線になど興味が無い。まして今は、自分が感じている胸騒ぎの正体が気になって、視線など気にする暇がないのだ。
「そういえば達也くん、リーナっていつ帰ってくるの?」
「そろそろ帰ってこられるはずだが、リーナがどうかしたのか?」
「いやほら、前の遠距離魔法攻撃だけど、USNAが絡んでるって可能性も捨てきれないんでしょ? ほら、雫にご執心の彼が裏で糸を引いている可能性だってあるわけだし」
「さすがに戦略級魔法師を動かす程の力は無いと思うけど? というか、達也さんに男として負けたからって、達也さんに攻撃するとは思えない。というか、レイがそんなことしたのなら、私は一切の容赦なくレイを攻撃する」
「もしその男の子があの攻撃の黒幕だとするなら、水波ちゃんを傷つけた原因はその彼、という事よね……」
「深雪? 分かってるとは思うけど、エリカの冗談だからね? 証拠も無いんだから、その殺気はしまってくれるとありがたいんだけどな」
「ゴメンなさいね。でも、水波ちゃんをあんな目に遭わせたのがその彼だったら、私は一切容赦しないわ」
「もう、エリカちゃんが変な冗談を言うから、深雪さんが怒っちゃったじゃない」
「あはは、ゴメンね」
泣きそうな顔になった美月に、エリカは心のこもっていない謝罪をしたが、その間も達也は難しい顔をしていたのを、深雪は心配そうに見つめていたのだった。
深雪も怒らせたら大変だしな……