独立魔装大隊の訓練は、普通の高校生が参加出来るものでは無い。正確に言うのなら、参加しても最後まで体力がもたないのだが。
「ねぇ達也君、君ってホントに高校生なの?」
「なんですかいきなり」
訓練を終え、大人でもへばってる中涼しい顔で着替えを終えた達也に、響子は話しかけた。
「だって主だった人は平気でも、准尉の人たちはバテバテなのよ? それを高校生の達也君が涼しい顔でやってのけるんだから。年齢を疑いたくなるでしょ」
「知っての通り、俺は現役の高校生です。でなければ九校戦に参加出来ませんよ」
達也の活躍は、独立魔装大隊でも話題になっているのだ。と言っても、大黒竜也特尉=司波達也だと知っているのは、独立魔装大隊の中でも一握りなのだ。訓練中もフルフェイスのマスクで顔を隠しているのもあるが、こうして訓練後に他の人間が動け無い間に達也が去っていくのも原因の一つなのだ。
「達也君を独立魔装大隊に入れろって軍の上の方では言ってるみたいよ?」
「何処からそんな噂を……九島閣下ですか?」
「ううん、自前の情報網よ」
仲良く滞在してるホテルに戻り、二人はカフェで一息つく事にした。
「あまり恋人らしい会話では無いですね」
「しょうがないでしょ。此処に戻ってくるまではイチャイチャ出来ないんだから」
独立魔装大隊の中でも、響子と達也はわりと高位に数えられている。だからこうして滞在場所も自由が認められているのだ。
「他の人に響子さんは知られてますからね」
「それに、達也君は九校戦で顔を覚えられちゃってるしね」
裏方であるエンジニアとしてだけのつもりが、何故か注目されているモノリス・コードに参加する破目になったのは、達也にとって不運のほか何でもなかった。
「その後で無頭竜殲滅もやってもらったものね」
「あれは少佐や真田大尉たちしか知らないはずですが」
「達也君がやったっていうのはね。でも大黒特尉が殲滅したってのは軍全体が知ってるわよ」
響子の暴露に、達也は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。あまり上に知られると素性を暴かれる恐れがあるので、達也の存在はなるべく知られないようにされているのだ。だがさすがに無頭竜の幹部を消滅させたのは隠し通せるものではなかったようで、風間少佐も対応に追われているらしいのだ。
「面倒にならなければ何でも良いですけどね」
「……私は良く無いわよ。達也君を道具みたいに扱うのは」
「俺は元々四葉の道具です。それが軍の道具に変わるくらい問題は無いですよ」
「嫌よ! 自分の彼氏が……」
そこまで言いかけて、達也は響子の口を押さえる。いくら軍で用意したホテルといえ、一般客もいるのだ。
「続きは部屋で」
「そうね、ゴメンなさい」
コーヒー代を達也が払い、二人は部屋へと移動する。風間たちは最上階だが、達也と響子はその下の階に部屋を取っているのだ。
「少佐公認とはいえ、何故同室なんでしょうね?」
「さぁ? 少佐も予算の事とか色々あるんじゃない?」
「そんなものですかね……」
意外と世知辛いコメントが返ってきたので、達也は苦笑いを浮かべた。実際独立魔装大隊にはそれほど予算は無く、このホテルも軍の施設だから使えるのであって、本来なら最上階に部屋など借りられないほどなのだ。
「二人一部屋なのは分かりましたが、何故真田大尉と柳大尉が同じ部屋なんでしょう? あの二人は微妙な関係ですし」
「あら、あの二人は仲良しじゃない? ジェネレーターを捕まえる時、息ピッタリだったわよ」
響子の返しに、またまた苦笑いを浮かべる達也。別にそういった意図で言ったわけでは無いのだが、まぁそう返されても仕方ないと達也も思っていたのでそれ以上掘り下げる事はしなかった。
「さて、一応シャワー浴びてきたけど」
「折角ですし入りますか」
「そうね。それじゃあ準備するわね」
このホテルの上の方の階には、部屋に大きなお風呂がついているのだ。一人で入るのも良いが、折角二人一部屋、しかも男女のペアで更に言えば付き合ってるのだから一緒に入っても余裕がある湯船に、二人は入ることにした。
「漸く恋人らしい事が出来るわね」
「そうですね。響子さんは隊の中でも人気ですからね」
「あら、でも私は誰にも誘われた事無いんだけど?」
「それは少佐が睨みを利かせてるからですよ」
風間は達也と響子が付き合ってるのを知っているし、響子を秘書的ポジションで使っているので部下にちょっかいを出されないように圧を掛けているのを、達也は知っていたのだ。
「それに響子さんは、名門『藤林家』の令嬢で『九島列』の孫ですからね。おいそれと誘えませんよ」
「だからこの歳まで処女だったのよ……」
「響子さんは若く見えるから良いじゃないですか。それもステータスに出来てたんですよね」
「もうそのステータスは無くなったけどね」
訓練でこのホテルに滞在した初日に、響子は達也に抱かれた。もちろん二人合意の上で行われたのであって、決して無理矢理とかではない。
「四葉さんに何て言えば良いのかしらね」
「叔母上にですか? 別に普通に報告すれば良いだけですよ。俺の彼女ですって」
「私の苗字は何になるのかしら。『司波』? それとも『四葉』? 大穴で『藤林』のままかしら?」
「普通に『司波』なのでは? 俺は『四葉』を名乗る資格がありませんし」
「でも、深雪さんが当主になれば、達也君も『四葉』を名乗れるんじゃない?」
「四葉を名乗れるのは当主だけですから」
「じゃあ達也君が『藤林家』に婿入りして、そのまま『九島家当主』になっちゃえば?」
「……笑えない冗談ですね」
達也は冗談と受け取ったが、響子は本気だ。達也の実力を認めている響子からしてみれば、この世界の魔法師の基準は達也を切り捨てるようにしか見えないのだ。
「私と達也君でこの世界の基準を変えよう!」
「如何やってですか……」
「達也君が十師族の当主になれば、それだけで変わるわよ!」
「………」
「さし当たっては結婚よね。お父さんは固い人だけど、子供が出来ちゃえば説得も容易いと思うわよ?」
「俺は高校生なんですが?」
「じゃあ結婚は後でも良いけど、子供は作りましょ? 早くしないと私三十歳になっちゃうから」
「別に問題は無いのでは? 三十で独身の魔法師だって居ないわけでは無いんですから……」
暴走しかかっている響子を、達也は如何抑えるか考えていた。だが、達也の考えが纏まるより、響子が更に暴走する方が早かった。
「だって達也君との子供、一人でも多く生みたいじゃない」
「………」
「それに、折角二人きりなんだから! チャンスなんだからね!」
暴走を抑えるより、素直に付き合った方が楽だと判断した達也は、そのまま響子とベッドインしたのだった。そしてめでたく響子は懐妊、その後九島家では大騒動となるのだが、二人はあまり興味を持っていなかったのだった……
今回の続・IFルートの順番ですが、事情を知ってる、知っててもおかしく無い順にしてみました。