劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1522 / 2283
リーナとしては、追われる筋合いは無いんですがね……


USNAからの脱出

 リーナのセリフを、何故わざわざステイツから出国して日本にまで逃れなければならないのかと受け取ったミルファクは、追加の説明をするために口を開いた。

 

「恐らくバランス大佐殿は、リーナ殿を標的とした陰謀を懸念されているのでしょう。戦略級魔法師であるリーナ殿を暗殺する等という愚行は考えられませんが、リーナ殿を洗脳して都合よく利用しようとする勢力が軍内部で暗躍しているのかもしれません」

 

 

 ミルファクの推測に、リーナは超弩級空母『エンタープライズ』艦内で「目撃」した軍機を思い出した。

 

「(強制的に魔法を使わされ、発電機の燃料代わりとされた魔法師たち。自分を彼らと同じような、軍事システムのパーツとして利用しようとしている……?)」

 

 

 確かに現在の世界情勢で『ヘヴィ・メタル・バースト』を失うのは、国家の自殺行為とまではいかなくてもそれに近い愚行だ。しかしリーナを洗脳して使いやすい駒に変えるというのは、戦力面のみを考えればありえない話ではない。

 

「しかしそれでは、私は完全に軍を裏切ったという事にされてしまうのでは……」

 

「その点は大丈夫だと思われます。リーナ殿、添付ファイルをご覧ください」

 

 

 そういわれて、リーナは慌て気味に端末を操作した。添付ファイルも、本文と一緒に復号化されている。リーナが開いたファイルは、在日武官の秘密監視の為、日本に潜入せよという内容の命令書だった。

 

「命令書!? ですが私はもう――」

 

「大佐殿は、ご自分の権限が及ぶ範囲内で最大限の便宜を図ってくださったのだと考えます」

 

 

 もう自分は軍人ではないというリーナの言葉を遮り、ミルファクはそう告げる。バランス大佐は軍人の不正行為を取り締まるための監査部門のナンバーツーだ。日本大使館や領事館に勤務する武官の監視の為にリーナを派遣するというのは、指揮系統面で問題が多々あるにしても、ギリギリでバランスの権限内と言えるだろう。

 

「その端末はそのままお持ちください。私の個人情報は入っておりませんので、ご心配なく。パスワードは第一隊のものを使用しています」

 

 

 リーナには総隊長として各隊の情報文書を検閲する権限が与えられていたが、スターズ内ではほぼ無視されていた。リーナもそれを問題にしたことはない。ただカノープスと第五隊のカペラ少佐だけは、パスワードを変更の都度、律儀にリーナに報告していた。

 

「それから潜入任務用のパスポートとクレジットカード、マネーカード、各種装備を後部座席のキャリーバッグに纏めておきました。渡航を考慮し、武装デバイスは入れておりません。また、リーナ殿の着替えを持ってミアが空港に待機しておりますので、合流次第確認してください。航空券は、バランス大佐殿が手配してくださっています」

 

 

 ミルファクの言葉に、リーナがもう一度端末を見直す。そこには確かに、チケットデータが二つ転送されていた。

 

「このままアルバカーキ空港へ向かいます。隊長が抑えていてくださっているので追跡は無いと思いますが、念の為に対探知シールドを使用しますので、リーナ殿は魔法の使用をお控え願います」

 

「……分かりました」

 

 

 ミルファクの対探知シールド魔法は、スターズ随一のものである。追跡ミッションに優れた第六隊『オリオンチーム』でも発見は困難だろう。リーナは大人しく、ミルファクの言葉に従った。

 暫く無言で走り続け、漸くアルバカーキ空港が見えてきたところで、不意にミルファクが口を開いた。

 

「私はこのまま基地には戻らず逃走を続けます。日本について私についての情報が入って来なくても心配しないでください」

 

「ハーディ?」

 

「では、ご無事をお祈りしております」

 

 

 空港前で車を停め、半ば強引にリーナを車から降ろし、荷物を押し付けてミルファクはそのまま車を走らせた。

 

「リーナ、お待ちしていました」

 

「ミア! 貴女も無事だったのね」

 

「カノープス隊長とバランス大佐殿から言われ、リーナの部屋から着替えなどを持ってきました。確認は日本についてからお願いします」

 

「ここで確認してる余裕はなさそうだしね……分かったわ。その前に、ちょっと落ち着かせてもらえないかしら。いろいろありすぎて、頭が混乱してるのよ」

 

「あまり時間はありませんが、ちょっとだけなら」

 

 

 断りを入れてから、リーナはこの短時間で起こった事を整理し始める。

 

「(夢見が悪くて何となく早起きして、散歩がてらパレードの自主練をしていたら狙撃されて、挙句の果てには裏切り者扱いされて、そしてさらには軍から逃げるように日本に渡航する事になるなんて……もう少し落ち着いた帰国にしたかったわ……)」

 

「リーナ、そろそろ」

 

「えぇ、分かったわ」

 

 

 時計を見ると、既に五分以上経っていたので、リーナとミアはチケットデータを呼び出しそのままゲートに向かった。

 リーナが無事に日本に到着したのは、日本時間六月十九日午後の事である。彼女はすぐにバランスから教えられた番号に電話をかけ、真夜の命を受けた黒羽家に保護された。

 その頃スターズ本部基地では、カノープスとアルゴル、そしてシャウラが略式裁判の結果、ミッドウェー島の魔法使用軍事刑務所に送られることが決定された。また、ミルファクは宣言通り基地には戻らず、そのまま西海岸方面へ逃走した。




原作の流れだと、軍事刑務所は残しておかないと

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。