劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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普通なら全員無事じゃ済まなかっただろうに……


撃退直後の反応

 昼休みになり、達也は周りからの視線を完全に無視して、美月と二人で食堂に向かった。

 

「達也様っ!」

 

「どうした、そんなに慌てて」

 

「先程の魔法の兆候は――」

 

「その話は全員揃ってからだ」

 

 

 逸る気持ちを抑えられない深雪を宥め、達也はとりあえず食事を取りに向かう。既に食事の準備を終えている雫とほのかは、深雪の言葉の意味を彼女に尋ねた。

 

「魔法の兆候って?」

 

「二人は気づかなかったの?」

 

「私は特に何も感じなかったけど……」

 

「まぁ、私も達也様に言われて警戒していたから気づけただけで、達也様以外の人には気付く事すら出来なかったのかもしれないわね」

 

 

 自分が気づいたのは偶々だが、達也なら気付けていたと達也を褒めてから、深雪は二人に事情を話し始めた。

 

「今日のような天気は、戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』を放つのに最適だって達也様が仰られていたのよ。それで一応気に掛けていたら、一高上空に強力な魔法の兆候があって、それを達也様が撃退したのよ」

 

「撃退? 達也さんの魔法で?」

 

 

 雫のセリフからは、達也の戦略級魔法でという意味が込められているが、周りの耳を気にして『戦略級』という単語が抜き取られている。深雪も雫の気遣いを理解しているので、首を縦にではなく横に振った。

 

「詳しい事は達也様にお聞きにならないと分からないけど、特別な魔法は使っていないはずよ」

 

「撃退の真意はとりあえず置いておくにしても、どうして達也さんが戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』で狙われなきゃいけないの? 前回撃退しちゃったから、その復讐?」

 

「それについても真意は分からないけど、達也様が目障りだったのではないかしらね。自分たちが立ち上げたプロジェクトと同等のプロジェクトを立ち上げ、宇宙空間に縛り付けるという作戦が使えなくなってしまったから、達也様の存在自体を消し去ろうとしたのかもしれないわね」

 

「なになに、何の話をしてるの?」

 

 

 三人で声を潜めて話し合っているところにエリカが合流する。どうやら彼女も先ほどの攻防に関しては気付いていないようで、何時も通りの声音で話しかけてきた。

 

「さっき、達也さんを狙った魔法攻撃があった、って話」

 

「達也くんを? ……それって、伊豆にあった長遠距離魔法攻撃と関係してる?」

 

 

 すぐに真相に辿り着き、エリカも声を潜めた。その切り替えの速さに感心しながら、深雪が無言で首を縦に振る。

 

「詳しい話はこの後、達也様がしてくださるそうだから、エリカも早く食事を取ってきたら?」

 

「あぁ、それは平気。レオに取りに行かせたから」

 

「また何か勝負したの?」

 

 

 エリカがケラケラと笑いながら言うと、深雪も「仕方ないわね」という感じの笑を浮かべて応える。ついこの前も勝負をして負けたレオがエリカの食事を取りに行ったことがあったので、ほのかと雫もすぐに納得してレオがいるであろう方向に憐みの視線を送った。

 

「それで、達也くんを狙ったって、一高を狙った魔法攻撃があったって事よね?」

 

「そうみたい。深雪は達也さんから襲われる可能性を聞いていたから気づいたって言ってた」

 

「それで、その相手は? 達也くんが倒しちゃったの?」

 

「詳しい事は達也様にしか分からないわ。私が分かってるのは、達也様を狙った魔法攻撃があって、それを達也様が撃退した、という事くらいだもの」

 

「でもここって、国防軍の基地に匹敵するくらいの魔法感知機器が備わってるんじゃなかったっけ? そんなところを狙うなんて、自分が犯人だって言ってるようなものじゃないの?」

 

「それだけ達也様に対して敵意を向けていたという事じゃないかしらね。それか、そんな簡単な事を忘れてしまう程、汚名を雪ぐ事に躍起になっていたか」

 

「という事は、犯人は――」

 

「それ以上は言っちゃダメよ。誰の攻撃かは分かっていない事になってるんだから」

 

 

 前回の攻撃は、国防軍でも犯人不明のまま非難する声明を発表している。今回も、まだ正式発表されていないのでその名前を発するのは控えるべきだと深雪は考えている。もちろん、達也が言う分には、何も文句は無いのだが。

 

「もう分かり切ってる事なんだから、気にする必要は無いと思うんだけどな」

 

「私もそう思うけど、達也様以外が言っても憶測でしかないわけでしょ? もう少し待てば達也様から真相を聞けるのだから、憶測で話してもしょうがないでしょ?」

 

「まぁね。でもまぁ、授業中だったのに達也くんもよく反撃したよね」

 

「達也様が動かなかったら、今頃ここは崩壊していたかもしれないのよ?」

 

「うへぇ……そう考えると、敵も考えなしで攻撃する程余裕が無かったってわけね。いきなり学校が崩壊したら、政府だって黙ってないでしょうし」

 

「政府の前に十師族が黙ってなかったと思う。三矢、四葉、七草、七宝と現役の十師族と、師補十八家の一色がいるわけだし」

 

「襲撃が成功していたら、日本の魔法師界を完全に敵に回してたってわけね……そう考えると、失敗して良かったとか思ってたりして」

 

「それは無いでしょうね。そもそも、そんな事を考える思考能力が残っているなら、一高を狙うわけ無いもの」

 

 

 深雪がバッサリと斬り捨てると、エリカも肩を竦めるだけでそれ以上何も言わなかった。




原作以上に日本魔法師界に影響を与える人物がいるからな……

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