劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ここに普通の人間がいるのか微妙……


普通とのズレ

 真夜に報告を済ませた達也は、一息吐くために部屋に戻ろうとしたが、エントランスで真由美に捕まった。

 

「達也くん、ベゾブラゾフが一高をターゲットにして『トゥマーン・ボンバ』を放とうとしたって本当なのっ!?」

 

「既に聞いているのではありませんか?」

 

 

 真夜に報告したのと同時に、一高に在籍している十師族当主にも連絡するよう亜夜子に頼んでおいたので、真由美の耳にその情報が入っていたとしても不思議ではない。相手にするのも面倒だと思ったのか、達也がそう答えると、真由美は「一応は」と答えたが、達也を開放するつもりは無いらしい。

 

「達也くんは警戒していたから当然だと思うかもしれないけど、学校が襲われたって聞いて落ち着いてられないわよ」

 

「未遂です。実際は魔法が発動する前に撃退しましたので、実害はありません」

 

「実害が無ければいいってわけじゃないでしょ!? 戦略級魔法を使われそうになったんだから、それ相応の態度を見せないと――」

 

「既に『トゥマーン・ボンバ』の発動に必要不可欠だと思われる大型CADは消し去りましたし、母上を通じて政府にも報告が行くでしょうから、ここから先は俺たちの出る幕ではないと思いますが」

 

「そ、そうなの……それにしても、良く撃退出来たわよね。警戒していたからと言って、新ソ連からの攻撃を撃退しただけじゃなくて、反撃までしてたとなると話は別よね? 達也くんも特殊なCADを持っていたわけ?」

 

「別にそれ程特殊だとは思いませんが……ただ魔法の兆候から発動者を辿り、そこから相手のCADを消し去っただけですから」

 

「……簡単に言ってるけど、普通の魔法師じゃそんな事出来ないからね?」

 

 

 達也が普通の魔法師ではない事を知らない人間は、この家にはいない。だがそれでも驚かずにはいられないと言いたげな表情で真由美が達也を見詰める。

 

「先輩は俺の眼の事を知っているんですし、別に驚く事ではないと思いますが? 顧傑の時にも、これと同じ事をして居場所を特定したわけですし」

 

「知ってるけどさ……あれはあくまでも国内だったじゃない? まさか国外にまで眼が届くとは思って無かったもの」

 

「だから言ったんですよ。真由美さんは心配し過ぎだと」

 

「リンちゃん……」

 

 

 達也との会話を離れた場所で聞いていた鈴音が、達也なら何でもありだと言ったじゃないという目で真由美を見ながら会話に加わる。彼女も襲われたと聞いた時は顔の血の気が引いたが、すぐに「達也なら問題なく迎撃出来るだろう」と思い直したのだ。

 

「達也さんの魔法技術は、十師族の魔法師の中でもずば抜けていると言っていたのは真由美さんではないですか。正面から十文字くんと撃ち合って勝ったわけですし、並みの相手になら負けるはずがないと」

 

「でも、戦略級魔法師は並みの相手じゃないでしょ? ましてや完全なる不意打ちなわけだから、達也くんだって完璧に迎撃出来るとは限らなかったし……」

 

「達也さんはトゥマーン・ボンバの発動に最適な気候を把握していて、今日の感じならありえると警戒していたわけですから、完全なる不意打ちでは無かったわけです。そして達也さんは魔法の兆候に敏感なわけですし、そしてなりより、一度使った魔法で無力化出来る程、達也さんは簡単ではありませんよ」

 

 

 達也からすれば酷い言われようだが、鈴音の言葉に真由美は納得したように何度も頷く。

 

「達也くん相手に同じ手は通用しないものね。私も何度か見た事あるけど、一度見れば達也くんは対策を練れるわけだし、それが戦略級魔法であっても同じよね」

 

「そしてなにより、達也さんも非公式とはいえベゾブラゾフと同じ戦略級魔法師なわけですし、普通の魔法師より戦略級魔法というものに精通しているのです」

 

「でもベゾブラゾフの魔法『トゥマーン・ボンバ』は何もかも非公開な魔法だったわけだし、いくら達也くんが魔法に精通していたとしても心配にはなるわよ」

 

「先程も申しましたが、達也さん相手に同じ手を使っている時点で、ベゾブラゾフに勝ち目はなかったのかと思います。まぁ、仮令別の手を使ったとしても、達也さん相手に勝てるとは思えませんが」

 

「真由美さんもですが、鈴音さんも結構酷い事言ってますよ?」

 

「あら小春さん。貴女だってかなり血の気が引いた顔をしていたじゃないの」

 

 

 同じ魔法大に通っている小春も会話に加わり、達也は逃げ出すのを完全に諦めた。

 

「そりゃ一高が襲われたって聞いて平然としてられるほど、私は戦いに近い家じゃないですし」

 

「私は現十師族だし、リンちゃんは数字落ちだもんね」

 

「真由美さん、あまり大きな声で言わないで頂けませんか?」

 

「ここで生活してる子で、リンちゃんの出自を知らない子はいなかったと思うけど」

 

「それでも、あまり大声で言われたくはないのですよ」

 

「そんなもんなのかしら? 名倉さんは気にしてなかったような気もするけど……」

 

 

 京都で命を落としたボディガードを思い出して、真由美は少し切ない気持ちになったが、すぐに何時も通りの笑みを浮かべた。

 

「とりあえず達也くんのお陰で、ウチの妹二人も、小春さんの妹も助かったわけだし、お礼を言わなきゃね」

 

「そ、そうですね」

 

 

 真由美に言われて漸く千秋も危険に曝されるところだったと思い至ったのか、小春の表情から再び血の気が引いたのだった。




真由美もリンちゃんも普通じゃないな……

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