劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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現実とリンクして、バレンタインネタになっています。


番外編・乙女たちの聖戦

 深雪は悩んでいた。去年までは兄の周りに親しい異性は対して居なかったのに、今年は同じ高校だけでもかなりの人が兄に好意を抱いている。

 

「私のものを絶対に食べていただくには如何すれば……」

 

 

 達也は深雪が渡したものなら必ず食べてくれるのだが、深雪は一番に食べてもらおうと計画しているのだ。

 

「朝からチョコを食べていただくのもあれですし……」

 

「深雪、そろそろ行くぞ」

 

「あっ、はい! すぐに準備します」

 

「……何か考え事か?」

 

「な、何でもありません! お兄様に心配を掛けてしまって申し訳ありません」

 

「いや、大事無いなら良いが」

 

 

 こうして二月十四日の司波家の朝は達也は何一つ変わらず、深雪はもの凄い思考を巡らせて困っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昇降口で深雪と別れる前に、達也は校内がざわついてるのに気がついた。

 

「何かあるのか?」

 

「お兄様も無関係では無いと思いますけど」

 

「……それほど関係無いと思うんだが」

 

 

 達也はあまり好意に敏感な方ではない。だからそれほど関係無いと思っていたのだが、その考えが甘かった事にすぐに気付かされる事になる。

 

「司波君、はいこれ」

 

「ありがとうございます、壬生先輩」

 

 

 待ち伏せしてたのか、紗耶香が校門付近で達也にチョコを渡す。その傍で桐原が似たようなものを持っているのを、達也は目聡く見つけている。如何やら義理チョコのようだ。

 

「一応手作りよ。上手く出来てると思うわ」

 

「はぁ……後ほど感想を伝えた方が?」

 

「いいわ! 食べてくれればそれで!」

 

 

 真っ赤な顔をして紗耶香が達也の前から居なくなると、堰が切られたかのごとく女子生徒が達也の許に駆け込んでくる。

 

「ではお兄様、頑張ってください」

 

「おい?」

 

 

 人込みに巻き込まれるのを嫌ったのか、深雪は珍しく達也の傍を自分から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝っぱらから大量の荷物を持つ破目になった達也は、少し疲れ気味に教室にやって来た。

 

「おはよー達也君、はいこれ」

 

「ありがとう」

 

「達也さん、私からも」

 

 

 教室に着くなりエリカと美月からもチョコを貰う達也。クラス内でも人気の高い二人からチョコを貰ったのに淡白な対応をする達也に、殺意を抱くクラスメイトがちらほら見受けられたが、九校戦での達也の活躍を知っているので実行に移す猛者は存在しなかった。

 

「そうそう、これクラスの女の子たちから」

 

「……何故エリカに?」

 

「達也君に話しかけるのは勇気が居るんだってさ? ね!」

 

 

 振り返りエリカがそういうと、クラスメイトの女子が一斉に頬を赤く染め、何人かは逃げ出すように廊下へと消えていった。

 

「既に大量に貰ってるようだけどね」

 

「何でこんなに貰えるんだ? そんなに世話をした覚えはないんだが……」

 

「達也さん、義理とは限らないんじゃないんですか? ほら、深雪が居ますけど達也さんはフリーですから」

 

「あのな美月、俺と深雪は兄妹だ。居る居ないは関係無く俺はフリーなんだが?」

 

 

 ため息を吐きそうな勢いで達也に責められ、美月は顔を真っ赤にする。

 

「お、はっけ~ん!」

 

「エイミィ? 珍しいな、こんな所で」

 

「僕も居るよ」

 

「里美か」

 

 

 一科生が二科生の教室を訪ねるのは非常に稀だ。だがこの二人はその事をあまり気にしない性質なので気軽に訪ねてきた風だった。

 

「何か用か?」

 

「これ、九校戦一年メンバーから」

 

「何の因果か僕たちが渡す役になってしまってね」

 

「これが私のだよ~」

 

「これが僕のだ。あまり料理などしないから上手く出来てるかは保障出来ないがね」

 

「いや、うれしいよ。ありがとう」

 

「ちなみにほのかや雫のは入ってないからね。あの二人は自分で渡したいだろうし」

 

 

 エイミィが笑顔で言い残したセリフに、達也はやれやれと首を振った。

 

「モテモテね」 

 

「エリカのをほしがってる男子だって居るんじゃないのか?」

 

「アタシのは安くないわよ?」

 

「……それなりに期待してくれて構わないぞ」

 

 

 高いものを貰ったと、達也が思ったのは、表情を見れば明らかだった。実はエリカのチョコは義理にしてはしっかりと作られているものなのだが、達也は包みを開けてないのでその事は知らない。実は本命だったのかも知れないのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになり、達也は深雪と待ち合わせて生徒会室に行くつもりだったのだが、深雪より先に待ち合わせ場所にやって来たのはほのかと雫だった。

 

「あの、達也さん! これ受け取ってください!」

 

「私からも」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 ほのかは言葉通り緊張しているが、雫も平坦な口調の割には表情は赤い。照れている事は明らかだった。

 

「あら~? 司波君じゃない~」

 

「安宿先生」

 

「これ、バレンタインのチョコよ。生徒にあげるのなんて初めてだから緊張するわね」

 

「……その割には普段と変わらない雰囲気ですが?」

 

「そんな事無いわよ? ほら、聞こえる?」

 

 

 達也の頭を抱きしめ、自分の心臓の音を聞かせる怜美。此処が学園の廊下だという事を失念していたようだった。

 

「分かりました! ですので離してください」

 

「あらあら~意外と初心なのね?」

 

「面倒事になりそうだからです」

 

 

 既にほのかと雫がもの凄い視線を達也に向けているのだ。

 

「それじゃあね。来年はもう少し豪華なものを準備するから」

 

「お兄様、今の行為の説明をお願い出来ますか?」

 

「ああ、構わない」

 

 

 深雪が居る事になんら驚きを示さない達也に、ほのかと雫が驚く。気配で気付いていたのだが、ほのかと雫にそれを知る由は無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室での昼食を終えた達也は、珍しく生徒会室に来ていた鈴音に話しかける。

 

「市原先輩たちは受験なのでは? 今日は登校されてたんですね」

 

「引退した私たちがここを使わせてもらうのもとは思ったのですが、中条さんのご好意に甘えさせてもらいました」

 

「そうだ達也君、これ義理だがチョコだ」

 

「ありがとうございます、渡辺先輩」

 

 

 相変わらず男らしい人だと達也が思ってると、真由美と鈴音が居心地悪そうにもじもじと動いていた。

 

「あの、何か?」

 

「あ、あのね達也君……これ!」

 

「私からも。調整の指導とかで司波君にはお世話になりましたので」

 

「何緊張してるんだよ。達也君なら貰いすぎて今更何も感じないだろ」

 

 

 摩利の言い分は最もだが、達也だって何も感じない訳では無いのだ。もちろん、それ以上に真由美や鈴音は緊張するのだが……

 

「あっ、私からも。司波君にはお世話になってますし、この間のお礼も兼ねて」

 

「ありがとうございます、中条先輩」

 

 

 達也はお礼を言いながら、横で大人しくしている深雪の事が気になっていた。何時もなら魔法を発動させてもおかしく無い状況なのに、普段の静謐な佇まいを保っているのが、逆に不気味だと、達也は感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、達也たちは真っ直ぐ帰宅すると、玄関の前に見知った女性が立っていた。

 

「少尉?」

 

「あっ、達也君。お帰り」

 

「あがっていきますか?」

 

「ううん、此処で。はい、バレンタインのチョコ。ホントは昨日持ってこようと思ったんだけど、忙しくてね」

 

「いえ、少尉が忙しいのは知ってますし、今日が当日ですよ」

 

「それから、これ宅配便で届いてたわよ? 偶々居合わせて私が受け取っちゃったけど」

 

 

 響子から渡されたのは、石川からの荷物だった。つまりは愛梨たちからのチョコなのだろう。

 

「それじゃあね、あまり長居すると、あそこに居る御当主様に殺されちゃうからね」

 

「……気付かないフリをしてたんですから」

 

「たっくーん!」

 

 

 響子が指差したので我慢の限界が来たのか、四葉真夜が達也目掛けて駆け込んできた。

 

「さぁ、お家に入りましょ! たっくんの為に用意したものがあるのよ」

 

 

 自分の家なのに、これほど足が進まないとはと、達也は苦笑いを浮かべていた。

 

「はいこれ! 深雪さんと一緒に食べてね」

 

「ケーキですか?」

 

「ちょっと早いけど深雪さんの誕生日と、たっくんに愛を込めて作ったのよ」

 

 

 深雪の誕生日は一月も先なのだが、後付けの理由としては分かりやすかった。

 

「それじゃあ、もう帰らなきゃいけないんだ」

 

「わざわざスミマセン。ありがとうございました」

 

「うん! じゃあね、たっくん。深雪さんも」

 

「はい。ありがとうございました、叔母様」

 

 

 真夜の姿が見えなくなってから、深雪は達也が貰ってきたチョコの全てを引ったくり、冷蔵庫にぶち込んだ。

 

「お兄様、少しお待ちください。すぐに夕ご飯の支度をしますので」

 

「あ、ああ……」

 

 

 我慢が解かれたのだろうと、達也は半分諦めモードでそんな事を思っていた。暫く地下の研究室で作業してると、深雪からの内線が入る。如何やら準備が終わったようだと、達也は腰を浮かせリビングへと移動する事にした。

 

「お兄様、深雪をお食べください!」

 

 

 そこには、全身チョコまみれになった深雪が、チョコ越しでも分かるくらい真っ赤になりながら待っていたのだった……




アヴァロンの戦士様、ネタ提供ありがとうございました。

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