劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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一緒に住んでるとこういう時便利


軍人としての情報収集

 真由美たちの相手を済ませて部屋に戻った達也だったが、すぐに来客を迎えた。来客といっても、この家に住んでいる一人が部屋を訪ねてきただけなのだが。

 

『達也くん、ちょっといいかしら?』

 

「構いませんよ」

 

 

 彼女の来訪は予期していたので、達也は特に用件を聞くことなく来客を部屋に招き入れた。

 

「その顔は、達也くんには私が何を聞きに来たか分かってるんだね」

 

「さっきまで真由美さんに似たような用件で捕まってましたからね。一応軍所属の響子さんが事情を聞きに来ないはずはないと思ってましたから」

 

 

 既に軍を抜けるつもりの響子だが、完璧に抜けるまでは軍の命令に従うしかない。そして達也に近しい存在で、軍に属しているのは響子のみなのだから、この時間に響子が達也を訪ねる理由が分からないはずもない。

 達也は響子に空いている椅子を差し出し、部屋に備え付けられているコーヒーサーバーで二人分のコーヒーを用意しようとして、響子にその役目を奪われた。

 

「普段は何も出来ないんだから、これくらいは私に任せてちょうだい」

 

「響子さんは他の婚約者と違って忙しいんですから、気にしなくてもいいと思うんですが」

 

「達也くんがそう考えてくれてるのは分かってるけど、私は気になっちゃうのよ」

 

 

 この部屋を訪れる人間で、コーヒーを飲む人は基本的にブラックで飲むので、砂糖もミルクも常備されていない。響子もブラックで飲む派なので、カップに淹れられたコーヒーをそのまま持ち、一方を達也に手渡した。

 

「それで達也くん、襲われたって本当なの?」

 

「えぇ。新ソ連の戦略級魔法師、ベゾブラゾフが一高上空目掛けて『トゥマーン・ボンバ』を仕掛けようとしたのは、ピクシーにしっかりと記録させていますので。データが必要なら、後日持ってきますが」

 

「四葉家のスポンサーには、そのデータを渡しているのよね?」

 

「先程母上に渡しておきましたので、恐らくは」

 

「あの人にデータが渡っているなら、こちらが持っている必要は無さそうね。こちらから進言するより、よっぽど早く伝わるでしょうし」

 

「軍はトゥマーン・ボンバのデータを欲しがっているのではなかったのですか?」

 

「それはこの前、達也くんたちを囮にして手に入れたものがあるから、別にいいんじゃないかしら。そもそも、私個人の気持ちとしては、達也くんに情報を渡さなかったのが許せないから、例え持ってこいと言われても持っていくつもりは無いけどね」

 

 

 響子にしては珍しく、怒りに染まった表情を浮かべている。それだけ達也を囮にしたことが許せないのと同時に、水波に申し訳ないと思っている証拠だろう。

 

「水波に関していえば、国防軍に介入されたくないので、響子さんもそこまで気にしなくても良いのですが」

 

「だって、私は国防軍の一員としてだけじゃなくて、九島の関係者としても迷惑を掛けているのだから、気にしなくていいって言われても気になるわ」

 

「その後、そちらで動きはつかめていないのですか?」

 

「残念ながら……光宣君も馬鹿じゃないでしょうから、九島の家に戻ってくるなんて事は無いようね。達也くんは殺す気が無かったから仕方ないとはいえ、光宣君の魔法戦闘力はかなりのものだから、こちらとしても最大限の警戒はしているんだけど、その警戒網を掻い潜って行動していると判断するしかなさそうね……」

 

「七草や十文字、四葉の警戒網にも引っ掛かっていないので、九島だけが悪いわけではないでしょう。それに、光宣がああなってしまった原因の一端は水波です。つまり、四葉にも責任があるという事です」

 

 

 水波になんの落ち度もない事は達也も分かっているし、響子だって理解している。ではなぜ達也が四葉にも責任があると言ったかというと、彼女を落ち着かせるためと、必要以上に責任を感じさせない為だ。

 

「達也くんって、最近変わってきたわね」

 

「そうですか? 自分では分からないですけど」

 

「前までの達也くんだったら、深雪さん以外を慰めたりは殆どしなかったでしょう? それがこうして私の事を慰めてくれたり、真由美さんや他の子たちも慰めたりしてるでしょう? やっぱり変わってきてるのよ。もちろん、良い方にね」

 

「あまり自覚していませんでしたが、響子さんがそう感じているならそうなのかもしれませんね」

 

 

 達也が言うように、彼は意識して深雪以外の婚約者を慰めたりしているわけではない。婚約者だから、という気持ちが作用しているのかは彼にも分からないが、自分に近しい人間を落ち込んだままにさせておくのは、自分の精神衛生上よくないと思っているのか、それともただの気まぐれなのか。とにかくここ最近の自分は彼女たちを慰める回数が増えてきているなと、響子に指摘されて改めてそう思った。

 

「普通なら、それが隙に繋がったりするんだろうけど、達也くんならそんな心配も無いものね。それに、ここにいる子たちはある程度なら自分で自分の身を守る事が出来るし、下手な建物よりも頑丈に造られているから、大抵の襲撃なら耐えられるでしょうし、地下シェルターもあるしね」

 

「全員を一気に襲われたらさすがに無理だと思いますが」

 

「死が定着しない限り、達也くんには治せない事は無いもの。まぁ、その分の代償は大きいかもしれないけど」

 

 

 達也が再成を使う際に支払う代償を知っている響子は、少し目を逸らしながらそう告げる。自分を心配してくれていると分かるので、達也は何も言わずにカップに残っていたコーヒーを啜ったのだった。




いずれ公安の彼女も出そうかな……

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