劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こっちも後手後手……


新たな問題点

 産業大臣のインタビューは、学校内でも話題になっていた。それでもまだ大人しい方だったのは、今日が土曜日だったという事も多分に含まれているだろう。もしこれが平日だったら、全校生徒が登校してくるわけで、ここまで大人しい反応では済まなかったかもしれない。

 

「深雪、あの会見は達也さんの意図したものなの?」

 

「今朝私も達也様にお聞きしたけど、達也様は関係ないそうよ。まさかあんな反応をするとは、と仰っていたから」

 

「でもこれで、達也さんにとっては動きやすくなったんじゃないの?」

 

「達也様は世間がどのような反応をしていようが気にしなかったでしょうが、確かに動きやすくはなったと思うわ。でも別の問題も発生しているわ」

 

 

 深雪も自分と同じで手放しで喜んでいると思っていたほのかは、深雪が口にした別の問題が何か気になった。政府が公式の会見でディオーネー計画について疑問視を投げ掛けたのだから、これ以上何の問題も無いと思っていた彼女にとって、その言葉は非常に引っ掛かるものだったのだ。

 

「今回の件、今のところは注目されているのはベゾブラゾフが戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』を使って襲撃を行ったという事だけだけど、いずれその襲撃を撃退したのは誰か、という疑問に辿り着く人がいても不思議ではないでしょ? もしそうなれば、達也様の注目度は更に上がってしまい、煩わしいマスコミの相手をまたしなければいけなくなってしまうのよ」

 

「確かに深雪先輩の仰る通りかもしれませんね。ただでさえトーラス・シルバーの片割れとして世間を賑わし、他国をも巻き込んだ魔法プロジェクトを発表した高校生という事で注目されているところに、戦略級魔法を退けた実力者などという肩書まで加われば、再び一高にマスコミ連中がやってきても不思議ではありません」

 

「また、発砲事件のような事が起こるのでしょうか?」

 

 

 泉美が上げた可能性に、詩奈が怯えながら深雪に尋ねる。深雪に尋ねたところで答えなど分かるはずがないのだが、詩奈は一人でこの不安を抱え込めるだけの精神力を持ち合わせていないので仕方がないだろう。

 

「万が一そんな事になったとしても、達也様が何とかしてくださると思うわ。今回達也様は私たちを助けてくださったのですから、マスコミに混ざってテロリストがやってくるとは思えないけどもね」

 

「だいたいこの前のだって、達也さんは何も悪い事をしてなかったのに! ああいう人たちがいるから、達也さんは未だに学校に落ち着いて通えないんじゃないの!」

 

「ほのか、腹立たしいのは分かるけど、泉美ちゃんや詩奈ちゃんに当たっても仕方がないでしょ?」

 

 

 エキサイトし始めたほのかをやんわりと宥め、深雪は後輩二人を落ち着かせる為に柔らかい笑みを浮かべる。

 

「まだ起こるかどうか分からない事で怯える必要は無いわ。今はこの作業を終わらせましょう」

 

「はい、深雪先輩!」

 

「わ、分かりました」

 

 

 深雪の言葉に、泉美は何時も通り陶酔したような表情で力強く答え、詩奈はまだ何処か不安を拭い去れていない表情で答える。どちらの反応も深雪にとっては困ったものだったが、表情に出すことなく深雪も作業を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪を生徒会室まで送り届けた後、達也は久しぶりに山岳部にでも顔を出そうかと思い移動したが、運悪くカウンセリング室に引き込まれてしまった。

 

「さて、いろいろと聞かせてもらえるかしら?」

 

「公安でも既に情報を得ているのではありませんか?」

 

「えぇそうね。お陰で私への風当たりが更にきつくなったわよ」

 

 

 遥が達也と近しい事は公安内でも知られている。それもあってか今回の件、事前に知らされていなかった事が職場内で問題にでもなったのだろうと、達也は遥の反応からそう推測した。

 

「遥さんとの関係とは無関係ですよ、今回の件は」

 

「そうかもしれないけど、君から何も知らされてないって言っても信じないのよ、あそこの連中は」

 

「そもそも個人的に話すような内容ではないですから。遥さんに話すよりも、十師族の当主たちに報告した方が、正確に国の中枢に伝わりますし」

 

「それは、まぁね……君がマスコミや下っ端議員を信用していない事は知っているし、十師族の次期当主という立場も分かってるけど……それでも、事前に一言くらい教えてくれてたって良かったんじゃない? どうせエレクトロン・ソーサリスには話してたんだろうけども」

 

「響子さんに話したのも、国防軍が情報を得た後です。襲撃された夜、家で話しただけですから」

 

「あの日は私、別の仕事で帰らなかったからな……それで差がついたわけね」

 

 

 遥は相変わらず響子の事をライバル視しているようだが、実際遥が響子を出し抜いた事は一度もなく、響子の方はあまり気にしていないのだ。それでも遥は響子に対して敵対心を剥き出しにしているのは、同年代で優れた魔法師であった響子への嫉妬からだろう。

 

「兎に角、今度ウチの連中に言ってやってくれないかしら? 私には何も話してなかったって」

 

「遥さんが自分で言っているなら、その内納得するのではありませんか?」

 

「変なところで頭が固い連中だから……」

 

 

 心底面倒臭そうに呟く遥を見て、達也は内心「ご愁傷様」と呟いたのだった。




他にも捜査員いるだろうが……

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