劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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問題山積みです……


解決しない問題

 遥から解放され時計に目をやり、昼食時になっている事に気が付いた達也は、とりあえず食堂に足を運んだ。今日は土曜で授業は無いが、部活や委員会などで顔を出している生徒の為に食堂は営業しているのだ。

 

「あれ? 達也くん、来てたんだね」

 

「エリカか。深雪を送った後、カウンセリング室で捕まっていた」

 

「あ~、あの人ね……あの人もいろいろあるみたいだしね~」

 

 

 エリカは遥の本業がカウンセラーではなく公安の調査官だという事を知っている。だから達也がカウンセリング室で捕まっていたというだけで、だいたいの事情は把握出来たのだ。

 

「そういえば達也くん、朝のニュースでやってた産業大臣のインタビュー、あれって達也くんの差し金?」

 

「何故みんなそう思うんだろうな。俺が大臣個人に話しをつけられるわけ無いだろうが」

 

「でもほら、達也くんの家なら、それくらいは出来るんじゃないかな~って」

 

「恐らく母上がスポンサーに話して、そのスポンサーが政府に圧力をかけたんだろう」

 

「スポンサーって……」

 

 

 さすがに四葉家の内情までは知らされていないので、エリカは達也が冗談を言っているのだろうと感じていた。達也としては本当の事を言っているのだが、冗談だと捉えられた方が都合がいいので、あえてエリカのツッコミに反応はしなかった。

 

「それにしても、政府の人間が達也くんの味方に付いてくれたんだから、十三束君の問題も解決するんじゃない?」

 

「あの程度で大人しくなるなら、水波に負けた時点で大人しくなっていただろうから、まだ当分は無理だろうな」

 

「三年の中でも指折りの実力者である十三束君が、後輩の女子に負けたのに大人しくならないなんて、相当な恥知らずよね」

 

「十三束側の言い分としては、負けた時の条件を提示されていないという事らしいがな」

 

「でもさ、普通負けたら大人しくするんじゃないの? 生徒会や風紀委員まで巻き込んでの決闘、しかも相手は後輩の女子なんだからさ」

 

「その辺りは十三束本人に聞かなければなんとも言えないな。そもそもの理由が、母親が倒れたという事だから」

 

「だからそもそものスタートが間違ってるんだよね。お母さんが倒れたのはお気の毒だけど、その原因は達也くんじゃなくて、外務省のわからずや共でしょ? 達也くんに喧嘩を売る――あの時は深雪にだけど、その理由がさっぱり分からないわよ。というか、深雪や達也くん相手に勝てると思ったのかしらね」

 

 

 エリカは達也の実力も深雪の実力も十分に知っている。その二人相手に喧嘩を売ろうだなんて、何処の命知らずだとも思っているくらい強大な力を持つ二人を相手に、レンジ・ゼロの異名を持つ十三束でも勝ち目はないと分かりそうなものだと十三束を散々貶したのだ。

 

「前にも言ったが、十三束は視野狭窄を起こしているんだろう。母親が倒れた事で、その間接的な原因である俺を目の敵にして、自分が信じたことが正しいと思い込んでいるんだろう」

 

「だからってねぇ……まぁ、あの美月が怒鳴ったくらいだから、クラスの連中は大人しくしてるんでしょ?」

 

「あからさまな視線は向けてくるが、表立って何かをしてくるという事は無い」

 

「あたしが思うに、達也くんが怒るよりも美月が怒った方が周りに与える影響は大きいんじゃないかな。そりゃ達也くんが怒ったら怖いけど、普段怒らない美月が怒ったとなれば、それだけ反省する要因になると思うんだ」

 

「だが一部では、美月に怒られたいという連中が現れたらしいと、エイミィが話してるのを耳にしたが」

 

「彼氏持ちの女の子を捕まえて、変態的思考の持ち主が沢山いるのね……」

 

 

 嘆かわしいと言いたげな表情で呟いたエリカは、何かを思い出したように視線を達也に戻した。

 

「変態的思考の持ち主で思い出したけど、光宣ってまだ捕まってないの?」

 

「……どういう繋がりで光宣の事を思い出してるんだ?」

 

「だって、病に臥せってる女の子を、自分の都合だけで人じゃなくそうとしてるんでしょ? 誰も言わないから問題になってないけど、それってかなり変態だよね?」

 

「まぁ、そうだろうな……」

 

 

 一時的に敵対しているとはいえ、達也は光宣に少し同情した。水波を助けたい一心で人であることを捨てた光宣だが、見ようによってはエリカのように思われる事もあるのだ。

 

「光宣は何処の警戒網にも引っ掛かっていないのが現状だな。まぁ、まだ一週間も経っていないのだから、仕方ないのかもしれないが」

 

「しかも相手はパラサイトに周公瑾の亡霊を取り込んだ、九島家最強の魔法師とも言われてる光宣だもんね……達也くんの『眼』で捕らえられないの?」

 

「光宣も同じ『眼』の持ち主だから、かなり難しいだろうな」

 

「達也くん以外にも使える人っているんだね……」

 

「兎に角、周りに危害を加えない限り、こちらから攻撃を仕掛ける事はしないつもりだ」

 

「何で言い切らないの?」

 

「他の家の魔法師の事まで、俺が分かるわけないだろ」

 

「あっ、そういう意味ね……」

 

 

 四葉の魔法師は、光宣が攻撃を仕掛けてこない限り捕まえるのに専念するという事だと理解して、エリカはとりあえず納得した表情で頷いたのだった。




酷い言われよう……

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