劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今回から再び原作復帰。夏休み編に入ります


旅行の準備

 きっかけは少女たちの電話での会話だった。

 

「海に行かない?」

 

 

 雫の提案に、ほのかはすぐにその意味を理解した。

 

「ひょっとして?」

 

「うん」

 

 

 付き合いが長い幼馴染はそれだけで雫が言おうとした事を理解出来たが、深雪にはそのスキルは無かった。

 

「ひょっとしてって?」

 

「あそっか。ゴメンね深雪」

 

「ウチで保有してる別荘に、皆を招待したいと思ってるんだ」

 

「雫の家ってプライベートビーチを持ってるの?」

 

「うん……」

 

 

 プライベートビーチを保有してるという事は、雫の家がそれなりに金持ちなのだろうと深雪は思ったが、同時に無知な評論家の見当違いなコメントも思い出していた。

 

「もしかして雫が気まずそうなのは、あれが原因かしら?」

 

「うん……自然破壊の成金趣味って」

 

「あれは持てない人の僻みだよ! だって雫のお家ではちゃんと自然保護もしてるじゃない!」

 

「ほのか……あまり大きな声を出されると五月蝿いわよ」

 

「あっ、ゴメン……」

 

 

 ほのかが一人暮らしである事を知っている深雪は、家の人に迷惑とは言わずに別の表現でほのかを嗜めた。

 

「それで、何時にするの?」

 

「決めてない。達也さんの予定を聞いてからじゃないと」

 

「お兄様の?」

 

「うん。実はお父さんが『新しい友達に会わせろ』って五月蝿いんだ……」

 

「今年は小父様も来るんだ……」

 

「大丈夫だよ、ほのか。仕事が忙しいらしくて最初の一時間くらいしか一緒に居られないから」

 

 

 ちなみにほのかが気にしたのは、本当の娘のように思ってるらしく、毎回少なく無いお小遣いをくれるのが心苦しいからだ。

 

「それじゃあお兄様に確認してみるわね。他には誰か誘うの?」

 

「エリカたちを誘いたいんだけど……私エリカたちの連絡先知らないんだ」

 

「分かったわ。そっちは私が聞いてみるわね」

 

「お願い……」

 

 

 その後は他愛ない話で盛り上がり、電話を切り上げたのは十二時を過ぎてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、深雪が達也にその事を話すと、達也は苦笑いを浮かべて深雪に視線を向ける。

 

「それで昨日はあんな遅くまで起きてたのか」

 

「申し訳ありません」

 

 

 形だけの叱責に、深雪は笑顔で謝罪する。達也も深雪の反応は想定済みのようで、それ以上は何も言わなかった。

 

「それでお兄様、予定は大丈夫でしょうか?」

 

「……来週の金、土、日は空いてるが、それ以降は厳しいな」

 

 

 達也の夏休みは、毎年独立魔装大隊の訓練と開発第三課での研究で潰れるのだ。それに加えて去年は深雪の家庭教師までしていたので、ここ数年休みだという感覚では無く過ごしている。

 そして今年は飛行魔法デバイスの最終打ち合わせなどで予定は埋まっているのだ。

 

「それじゃあその日程で雫に頼んでみますね」

 

「メンバーは俺たちだけか?」

 

「エリカや西城君たちも誘いたいそうですが、私たちほど親しく無いからと……」

 

「それじゃあレオと幹比古は俺が誘おう」

 

「お願いします。エリカと美月には私から連絡しておきますので」

 

 

 表情で達也に頼んでいた深雪は、達也がそれを察してくれた事に喜び、並の男子高校生なら鼻血を出すかもしれない笑顔を達也に向けた。

 

「それじゃあ俺は出かけてくるから、しっかりと戸締りをするんだぞ」

 

「ですからお兄様、お兄様は私を幾つだと思ってるのですか?」

 

 

 出かける度にこのように達也が言ってくるので、深雪は毎回同じ事を聞く。同級生だが年齢的には一つ下。だけどこんなに心配されるような歳ではないのは確かなのだ。

 

「深雪の事情を知ってるヤツが居るかもしれないからな。万が一でもお前がやられるとは思って無いが、念には念をというやつだよ」

 

 

 そう言って達也は深雪の髪を梳くように撫でる。こうされると深雪は何も返せなってしまうのだ(元々返せないのだが)。

 

「分かりました。それではお兄様、いってらっしゃいませ」

 

「ああ」

 

 

 今日は第三課での最終打ち合わせ。夏休み前半に九校戦があった為に、発売まであまり時間が無い為タイトなスケジュールになってしまってるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別荘に誘われた事で、エリカと美月は必要なモノを買いに行く事にしたのだった。

 

「エリカちゃんお待たせ」

 

「珍しいわね、美月が私より後に来るなんて」

 

「ちょっと向こうで知らない人に声を掛けられちゃって」

 

「あー……ナンパね」

 

 

 エリカからみても、美月は可愛らしい少女だ。「そう言った趣味」のオヤジ共に人気が高いんだろうと、エリカは勝手に話しかけてきた相手を想像していた。

 

「そういえば何で深雪さんは誘わなかったの?」

 

「だって深雪は達也君と出かけたいでしょ? だから邪魔しないであげたのよ」

 

「あら、エリカにしてはいい気遣いじゃない?」

 

「深雪!? え、何で此処に?」

 

「貴女たちと同じ理由よ」

 

 

 エリカは慌てて周りを見渡したが、探している男の子の姿は無かった。

 

「達也君は?」

 

「お兄様は夏休みでもお忙しいので、今日も一人なのよ。だから誘ってくれたらよかったのに」

 

「だって事情を知らなかったんだもん。それじゃあ深雪も一緒に行く?」

 

「そうね。一人でお買い物してもつまらないものね」

 

 

 エリカと美月だけでも周りは騒がしかったのに、そこに深雪まで加われば、騒ぐなと言う方が無理になる。彼女たちが動けば周りの男共が続くように動くのだが、彼女たちが向かったのが水着売り場だった為に、あえなく男共は追跡を諦めたのだった。

 

「やっと静かになったわね」

 

「しょうがないよ。エリカちゃんも深雪さんも綺麗で可愛いんだから」

 

「あら、美月だって結構人気だったようだけど?」

 

「童顔で巨乳だもんね~。変態受けはむしろ美月がトップよ」

 

「エリカちゃん!」

 

 

 友達同士のじゃれあいを、深雪は微笑ましいと思っていた。去年までは自分にこういった友達は居なかったとも……

 

「深雪?」

 

「え? ……ゴメンなさい、聞いてなかったわ」

 

「ううん、どうかしたのかなーって思っただけだから」

 

「ちょっと去年の事を考えてたのよ」

 

「去年?」

 

「ええ。殆ど毎日家で勉強してたから、こうやってお友達と遊ぶなんてしてなかったってね」

 

「そういえば達也君が先生だったんだっけ?」

 

「ええ。お兄様は中学でもトップでしたから」

 

 

 魔法が絡まなければ、達也は間違い無く優等生なのだ。それはテスト前にエリカも美月も世話になったから分かってるし、魔法が絡んでも自分よりは上だとも思っていた。

 

「それじゃあ、今年は目一杯遊びましょうよ!」

 

「そうね。お兄様はお忙しいようだけど、エリカたちが居てくれるものね」

 

 

 こうして、別荘から帰ってきた後も、深雪たちは遊ぶ約束を取り決めたのだった。




この話と生徒会長選挙はアニメ化してほしかったな……

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