劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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疑問に思うのは当然


報告と確認

 部屋で一人考え事をしていた深雪だったが、電話が掛かってきたので考えを一時中断して端末を操作する。

 

『深雪お姉様、このような時間に申し訳ございません』

 

「あら亜夜子ちゃん。いえ、まだ気にするような時間ではないから問題は無いわ。それで、何かあったのかしら?」

 

 

 再従姉妹とはいえ、深雪と亜夜子の関係はあまり友好的とは言えない。対立しているわけではないが、昔から亜夜子は深雪に対して敵対心を剥き出しにしている節が見られた。学年は違うとはいえ同い年で同性、更には四葉家内の魔法師という事で、亜夜子が深雪に対して思うところがあったのは仕方がないと深雪も諦めている。だが同じ婚約者という立場になった今でも、その関係が改善されないのを少し気にしているのだった。

 

『深雪お姉さまのご友人でもあられる九島リーナさんが先ほど、達也さんの新居にお戻りになりました』

 

「リーナが? それで、亜夜子ちゃんはわざわざその事を教えてくれる為に電話してきた――わけじゃないわよね」

 

 

 報告だけなら亜夜子がする必要は無い。リーナが戻ってきただけなら、明日学校で達也から聞けばいいだけの話である。

 

『現状九島リーナさんは、USNA軍から追われる立場になっておりますので、御当主様の判断により、九島リーナさんには当分の間巳焼島で生活してもらう事になりました。それに伴い、明日達也さんが九島リーナさんを巳焼島に案内する事になり、その同行者として深雪お姉様が選ばれたという事です』

 

「私が? 叔母様は何と仰られているのかしら?」

 

『御当主様は深雪様の同行を許可なさいました。後は深雪お姉様の判断に任せると』

 

「……案内するだけなら達也様一人で問題ないようにも思いますが、達也様は何故私を同行者に命じてくださったのでしょうか?」

 

『その辺りの事情はお聞きしておりません。ご自分で確認するか、気になさらない事をお勧めしますわ』

 

 

 自分ではなく深雪が選ばれた事が気に入らないのか、亜夜子の表情はあまり友好的な雰囲気ではない。深雪も亜夜子の気持ちが分からなくもないので、これ以上刺激する事は避ける方向で話を終わらせることにした。

 

「分かりました。叔母様によろしくお伝えください」

 

『では、お休みなさいませ』

 

「えぇ、お休みなさい」

 

 

 まだ寝るには早いが、別れの挨拶はこれで良いだろうと互いに考えたのかどうかは分からないが、その言葉を最後に通信は切れてしまった。

 

「さてと、巳焼島に向かうとなると、それなりに準備をしておかないといけないわね……その前に、達也様に同行する旨を伝えておかないと」

 

 

 亜夜子との通信が切れたばかりの端末を操作して、深雪は達也に電話を掛けた。

 

『深雪、どうかしたのか?』

 

「このような時間に申し訳ありません、達也様。二、三お聞きしたい事がございまして」

 

『まだ気にするような時間じゃないさ。それで、何を聞きたいんだい?』

 

 

 先ほどの自分のセリフと似たような返事を聞けて、深雪は思わず頬を緩めた。声だけとはいえ達也を側に感じられるのが嬉しくて本題を忘れそうになったが、達也の後半のセリフでしっかりと目的を思い出していた。

 

「まず初めに、リーナを巳焼島に案内するそうですが、何故私を同行者にお選びになってくださったのでしょうか?」

 

『深雪にも一度、巳焼島を見ておいてもらった方が良いと思っていたからな。リーナともそれなりに親しい間柄で、魔法能力においても引けを取らないから、万が一リーナが工作員だった場合の事を考えて、深雪が一番いいと判断した』

 

「ありがとうございます」

 

 

 達也がリーナの魔法力を評価している事は深雪も十分知っている。そしてそのリーナと比べても遜色ないと自分の能力を認めてもらった事への謝辞だったのだが、達也は何故お礼を言われたのかが分からなかった。

 

『それで、他の聞きたい事は?』

 

「エドワード・クラークの護衛という任を終えたリーナが、今まで日本に戻ってこられなかった理由と、何故今回戻ってこられたのかという事ですが、達也様は何か聞いていませんか?」

 

『現在USNA軍内部で叛乱が起っており、その原因としてリーナが選ばれたという事だろう。戻ってきたというよりかは、逃げてきたと言った方が正しいだろうしね』

 

「逃げてきた、ですか? 曲がりなりにも総隊長だったリーナが逃げるしかなかったというのでしょうか?」

 

『ただの叛乱ならそんな事にはならなかっただろうが、恐らく裏で糸を引いている人間がいて、リーナが悪いと信じ込まされたのだろう』

 

「また厄介事に巻き込まれてしまった、といわけでしょうか?」

 

『そうだね。高校に入ってからというもの、こういう事が多すぎる気がするよ』

 

 

 達也が弱音を吐いてくれている事が、深雪はとてつもなく嬉しかった。彼がこのように本音を話せる相手は自分しかいないと分かってはいるのだが、実際に本音を聞かせてくれるのが堪らなく幸せなのである。

 

『兎に角、リーナの動向に注意しつつ、深雪にも巳焼島を案内する予定だ。明日の朝、迎えに行くから準備しておいてくれ』

 

「分かりました、お待ちしております、お兄様」

 

『お休み、深雪』

 

 

 深雪が昔の呼び方をしたことに対して、達也はツッコミを入れなかった。呼ばれ慣れているという事もあるのだが、従兄であることには変わりはないので、そう呼ばれてもおかしくはないと彼の中で判断されたのかもしれない。深雪はそんな事を考えながら、いそいそと巳焼島に向かう準備を始めたのだった。




達也が言えば何でも受け入れる深雪

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