劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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何時まで経ってもアメリカの狗……


政府の動き

 リーナとミアと別れ、駐車場に向かっていた達也に、すぐ後ろに付き従う兵庫が話しかける。

 

「達也様、もう一つ見ていただきたい物があるのですが」

 

「良いですよ」

 

 

 今日はこの島の視察以外、予定を入れていない。達也は兵庫の言葉にそう答え、案内するよう指示した。兵庫が達也と深雪を連れて行った先は、滑走路の脇にあるガレージ。そこには淡いブルーで塗装されたショートノーズの四輪車が一台だけ駐まっていた。

 

「変わったデザインですね。ミッドシップ……というわけでもないようですし」

 

「この車は『エアカー』でございます」

 

「……飛行魔法車両、という意味ですか?」

 

 

 達也は軽くではあるが、目を見張っている。驚きを隠しきれていなかった。

 

「然様でございます。開発自体は飛行機能付きバイク『ウイングレス』と並行して二年前に着手されていた物ですが、先々月、達也様から頂戴したアイディアで漸く完成にこぎ着けた、とうかがっております」

 

 

 確かに達也は今年の四月、大質量物体用の飛行魔法新スキームを考案したが、色々と忙しくて、ラフなプランを本家に提出したまま意識の片隅にしまい込んでいた。それが思いがけない形で結実したのである。達也としては、不意を撃たれた気分だった。

 

「この車体は公道用自走車として登録を済ませておりますので、日常的にお使いいただけます」

 

「尚且つ、この島への往来にも使えるという事ですか?」

 

「無論、お呼びがあれば参上致しますが」

 

 

 兵庫は神妙な表情で答えたが、達也は最初から自分が蔑ろにされているなどと思っていなかった。

 

「達也様、試してみられては如何ですか?」

 

「いや、今日は止めておこう」

 

 

 深雪が横から試乗を勧めたが、達也は首を横に振った。しかし、この『エアカー』に興味が無いわけでは無かった。

 

「明日、テストします」

 

「かしこまりました。メカニックにはそのように伝えておきます」

 

 

 テスト走行中、深雪が放置状態になるのを達也は嫌ったのだ。空陸両用車『エアカー』のテストは深雪が学校に行っている時間に行う事を、達也は決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也たちが巳焼島を訪れていた頃。日曜日にも拘わらず、外務省と防衛省はちょっとした騒動に見舞われた。USNAから日本に対して、外交ルートを通じて内密の要求があったのだ。日本で消息を絶ったアンジー・シリウス少佐の捜索協力依頼。発見次第保護し、大使館に引き渡して欲しいという内容だった。事前の通告なく高級士官を入国させたことに対して、日本政府はUSNAに抗議したが、軍事目的の来日では無いと反論されれば、それが見え透いた嘘でもそれ以上責められない。日本政府はUSNAに対して、アンジー・シリウスの捜索と保護を約束した。

 

「アメリカの要求は厚かましいものですが、同時にもっともだと思われます。ただその対処が何故、この一○一旅団に求められるのでしょうか」

 

「風間中佐、私も疲れているのです。分からないフリは止めてもらえませんか」

 

「失礼しました」

 

「……シリウス少佐が四葉家に保護されているのは分かっています」

 

「四葉家から報せがきたと、耳にしておりますが?」

 

「あれは報告というより警告でしたね」

 

「アンジー・シリウスは既に四葉家が保護した。国防軍は手を出すな……と言ったところですか」

 

「そういう事でしょう」

 

 

 佐伯が苦い表情で頷くと、風間も彼女に同調した。

 

「大黒特尉が関わっていると、閣下はお考えなのですか?」

 

「そうです中佐。貴官と同様に」

 

「大黒特尉に……いえ、達也にシリウス少佐を差し出すように要求するのですか?」

 

「最終的にはUSNAに引き渡す事になるでしょう」

 

 

 風間も佐伯も、USNAで起こった事を全ては知らないが、リーナが四葉家に逃げ込んだ理由など達也絡みでしかないと考えていた。

 

「……シリウス少佐は何故、脱走する羽目になったのでしょう?」

 

「残念ながら、詳しい情報は入手出来ていません」

 

「事情も分からずに手出しするのは危険では?」

 

「ですがそれは、本人に訊けばいいでしょう」

 

 

 シリウスの身柄を確保して直接訊問すれば良いと、佐伯はそう思っているようだ。風間は上官の考えに漠然とした危うさを覚えたが、根拠は説明できない。

 

「ではシリウスに面会できるよう、達也に依頼します」

 

「何故頼む必要があるのです? 風間中佐。アンジー・シリウス少佐の引き渡しを大黒特尉に命じなさい」

 

「達也が拒否した場合の対処は如何しましょう」

 

「強硬手段は好ましくありませんが、シリウスを国内に置いておけないという国防軍の意思は、誤解の余地が無いよう伝えてください」

 

「……了解しました」

 

 

 既に帰化しているリーナを、いくらUSNAからの要請があったからと言って追い出す事が出来るとは風間は思っていない。だが政府が外国の将校と認め、正規の軍人である自分たちが匿えるはずもないという理由も理解していたが、これが正解だとも風間には思えなかった。

 

「達也が我々の力を当てにしているとも思えないしな……」

 

 

 佐伯少将の命を受け、風間はそうぼやきながら達也への連絡をどうするか考えるのだった。




佐伯も消し去られたいのだろうが……

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