劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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低気圧が原因で頭痛いです……


達也の肉体

 早朝からの船移動で疲れたのか、初日の午前中は全員部屋で過ごす事にした。実際に重症だったのは幹比古と美月だけなのだが、その二人を置いて遊ぶわけにも行かないと、達也が提案した事だった。

 

「ゴメン達也、わざわざ僕の為に……」

 

「気にするな。だが後で疲れる事になると思うぞ?」

 

「え?」

 

 

 達也の視線の先では、レオが泳ぎたくてうずうずしている。幹比古はそれを見て申し訳無い気持ちと、何となく嫌な予感がしてきたのだった。

 

「幹比古、レオの相手は任せるからな」

 

「やっぱり僕なの!?」

 

「いい運動になると思うぞ」

 

「じゃあ達也だって……」

 

「俺はさっき幹比古を運ぶって運動をしたからな。午後はゆっくりするさ」

 

「ズルイ……」

 

 

 自分が運んでもらったので、幹比古は達也に強く出る事が出来なかった。そんなやり取りの中、レオはただただうずうずしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を済ませ、少しのんびりしてから全員でビーチへと繰り出した。達也の予想通りレオは遠泳を申し出て、幹比古はそれに付き合うことになってしまったのだ。

 

「(こんなにのんびりするのは何時以来だろう)」

 

 

 此処には深雪に危害を加える輩は存在しないので、達也も普段よりは気を張らずに済んでいる。後は誰かが溺れるなどの事件が無ければ、この二泊三日はのんびり過ごせるだろうと達也は思っていた。

 

「達也くーん、泳がないのー?」

 

「お兄様、水が気持ち良いですよ」

 

 

 波打ち際で達也を呼ぶエリカと深雪。達也はその二人に視線を向け軽く微笑んだ。

 

「(レオは兎も角、幹比古が居たら逃げ出してただろうな)」

 

 

 達也の中でも、レオはそれほど異性を意識してるようには見えないのだ。一方の幹比古は良くも悪くも歳相応といった感じだと思っているのだが。

 

「達也さん、考え事?」

 

「いや、別に大した事ではない」

 

 

 覗きこむように雫が達也に話しかけると、漸く達也の視線は傍に来ていた五人に移った。

 

「せっかく海に来たんですから、達也さんも泳ぎましょうよ」

 

「そうですよ、お兄様。ずっと水平線を眺めるなんて、三年前じゃないんですからね」

 

「三年前? 中一の時に何かあったの?」

 

 

 深雪の発言にエリカが興味を示したが、深雪には答える事が出来ない事情があった。深雪はあの時の自分をもの凄く恥じていて、また家の事情も話さなければいけなくなるので、三年前以前の事は極力話したがらない。それが分かってるので達也もその事を話さないのだが……

 

「何でもないさ。そうだな、泳ぐか」

 

 

 羽織っていたパーカーを脱いでから、達也は自分の行動が軽はずみだったと後悔した。

 

「達也君、それって……」

 

 

 達也の身体は鍛えてあるだけあってかなり引き締まっており、綺麗な肉体をしていた。ほのかも雫も美月でさえも、その肉体に見蕩れていた。だが達也の身体には、それ以上に目を引くものがあるのだ。

 無数の切り傷、その次に多いのが刺し傷、火傷の痕もくっきりと残っている。不思議と骨折の痕は見られなかったが、普通に鍛え上げただけでは、こんな痕は残らない。血のにじむ努力ではなく、実際に血を流した結果でしかないのだ。

 

「達也君、貴方いったい……」

 

「スマナイ、あまり見ていて気持ちがいいものではないな」

 

 

 脱ぎ捨てたパーカーを拾おうと手を伸ばしたが、達也が脱いだパーカーは一足早く深雪に拾われており、今は大事そうに胸に抱かれている。妹とはいえ異性の胸に手を伸ばすのは憚れた達也は、伸ばした右手を宙にさまよわせた。だが幸いな事に、そう長い時間さまよう事は無く、彼の腕は深雪によって抱きしめられた。

 

「わっ!」

 

 

 美月が驚きの声を上げたが、他の三人は声を上げるまではいかなかった。

 

「大丈夫ですよお兄様。この傷痕の一つ一つは、お兄様が強くあろうとした証である事を、深雪はちゃんと知っています。たとえ世界中の誰もが、お兄様のお身体を見て気持ち悪がっても、深雪はそんな事思いません。お兄様のお身体は立派であり、また誰にも侮辱される事はないと、胸を張って言えます」

 

 

 自分の胸に、布地一枚挟んで達也の腕がある事に、深雪は顔を赤らめている。だがそれ以上に、達也の肉体の事を熱く語っているのだ。

 右腕に深雪の感触を感じていた達也だったが、不意に左側にも似たような感触が来た。

 

「わ、私も気にしません! だって達也さんには何か事情があってこんな痕があるって分かってますから。その事情を話してはもらえないでしょうけども、それでも私は達也さんを信じます」

 

「私も。ほのかや深雪のように、達也さんを信じる」

 

 

 しれっと雫が達也の正面に抱きついたので、深雪とほのかの達也の腕を抱く力が強まった。それを見ていた美月が、ボソッとつぶやく。

 

「泥沼現場?」

 

「しー! せっかく面白くなりそうなんだから……あっ、何でもないわよ」

 

 

 四人のやり取りを面白がって見ていたエリカだったが、達也の視線で大人しくなる。

 

「何かゴメンね達也君」

 

「気にするな。エリカの反応が普通だと俺も思ってるから」

 

「わ、私も変な反応してしまって申し訳ありませんでした」

 

「大丈夫だ」

 

 

 本気で申し訳無さそうにしている美月に、達也は若干苦めの笑みを見せた。

 

「このままじゃアタシの気が治まらないわよ……そうだ! 私のも見る?」

 

「エリカちゃん!!」

 

 

 これが幹比古だったら顔を真っ赤にしてしどろもどろな返答をしただろう。レオだったら本気でエリカの頭を心配しただろう。だが達也はエリカのおふざけが自分を気遣ってくれたものだと理解しているし、割かし冗談に寛大なのだ。

 

「魅力的な提案だが、エリカの女の子としての価値が下がってしまうからな。止めておこう」

 

「アタシの価値……達也君って面白い返し方するよね」

 

「そうか? 割かし本心なんだが」

 

「だからだよ」

 

 

 エリカは並の男子高校生なら見蕩れてしまいそうな笑みを達也に見せる。だが達也は単純にエリカが何を言うのかに興味が向いていた。

 

「達也君ならちゃんと反応してくれるって分かってるから、私も安心して冗談が言えるんだよね」

 

「さっきのを本気に取るやつなどいないだろ」

 

「いや、ミキならきっと赤くなってたと思うよ」

 

 

 エリカの言葉に、他の四人も納得したように頷くが、深雪、ほのか、雫は達也に抱きついたままなのだ。

 

「さて、泳ぐからそろそろ離れてくれると助かるんだが」

 

 

 達也に言われ漸く自分たちが大胆な事をしてると気付いた三人は、顔を真っ赤にしながらもそれほど達也から離れる事は無かったのだった。




エリカの提案、受ける人大勢居そうですね。

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