劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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相も変らぬポンコツっぷり……


リーナの誤解

 達也は二つに分かれたCADを持ってそのまま調整室に向かった。リーナたちは調整室の隣の準備室だ。この施設にはヘッドセットと両手を置くパネルで使用者のデータを取る通常の調整装置もある。だが新しいCADを白紙の状態から使うのだから、寝台タイプの装置で精密測定をすべきだと達也は考えた。リーナたちはその為の準備、つまり着替えに行っているのである。

 

「達也、その……お待たせ」

 

 

 まず調整室に入ってきたのはリーナだ。彼女は太腿が半分隠れる、ボタンが無い白いシャツ一枚の姿だった。膝上十五センチ前後のロングTシャツと言えば分かり易いだろうか。髪は、付けていた物を全て外して、背中に下ろしている。足には病院で使うようなサンダルを履いているだけだ。リーナは両腕で胸を抱え込むように隠している。もじもじと、恥ずかしそうな態度だ。

 

「……これで良かった?」

 

「良かった、とは?」

 

「……下着姿じゃなくて良かったの?」

 

 

 リーナは目元を赤らめて、そっぽを向いている。自分の質問に、恥ずかしがっているような感じだが、そんな初心な姿を見せられても、達也の態度は変わらない。

 

「リーナはこのタイプの測定装置を使った事があるのか?」

 

「月に一回以上の精密測定が義務付けられていたわ」

 

 

 スターズの基地にも、同じ機械があったという意味だろう。月に一回以上というのは、達也から見れば少なすぎる。だがまだまだ魔法の成長期にある深雪と違い、スターズの軍人に未成年者は少ないはずだ。二十代なら兎も角、三十代、四十代になれば短いインターバルで測定結果を更新する必要は無い。達也はそう思い直した。

 

「水着の方が良ければ用意させるが?」

 

「別に、ビキニの方が良いってわけじゃないけど……」

 

「俺はどちらでも構わないぞ」

 

 

 リーナは迷いながら、まだもじもじしている。普通に考えればセパレートタイプの露出が多い水着よりロングTシャツの方が恥ずかしくないはずだし、迷う必要は無いと思っていた達也だったが、とある推測にたどりついた。

 

「(もしかしてリーナは、あのシャツの下に何も着ていないのではないだろうか……)」

 

 

 着替えるに当たって「下着を取るように」とは達也は指図していないし施設の人間も言っていないだろう。だが寝台タイプの測定機械を使う際、下着姿になることが普通だと知っているリーナであれば、ロングTシャツタイプの検査着を与えられて「この下には何も着ちゃいけない」とかってに思い込んでしまった、というのはありそうに思われた。

 

「……このままでお願い」

 

 

 しかし今更、顔いっぱいに恥じらいを浮かべてそう答えたリーナに「下着は着けても良いんだぞ」とは言えない。そんな事を告げれば、お互い気まずくなってしまう。リーナは余計に恥ずかしくなるだろう。もしかしたら、調整どころではなくなる可能性もある。

 

「では、そこに寝てくれ」

 

 

 達也は何時も以上に、事務的な口調を意識した。作業中「下着を着けていないのでは」疑惑はますます深まった。薄い生地越しにその証拠となりそうな突起も達也の目は捉えていたが、その部分を凝視するような真似はしなかった。だからなのか、リーナは「気付かれた事」に気づかなかった。無意味なトラブルを引き起こすことなく、リーナの調整は終わった。

 

「リーナ、ミカエラさんを呼んできてくれ」

 

「わ、分かったわ」

 

 

 顔いっぱいに羞恥を滲ませながらも、達也が無感情にそう告げてくるのが、どことなく不愉快な感じを受けながらも、リーナはそそくさと調整室から準備室へと逃げ帰った。

 

「やれやれ……思い込みが激しいリーナらしいミスだな」

 

 

 達也はそう呟いただけで、先ほど見たリーナの突起の事は完全に頭の外に追いやったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミアは普通に下着を着けたままでの測定だったので、特に何も問題は起こらずに調整は終わった、リーナたちの首には、さっそくチョーカータイプのデバイスが巻かれている。いや、半円の円環を繋いでとめる形態だから「はめられている」と表現すべきか。金色の輝きはリーナの髪色と同じで、リーナによく似合っていた。一見、豪華な首輪の用にも見えるが、言うまでもなく自分の意思で取り外せないという事は無い。彼女たちも「首輪のように見える」事には気付いてたが、気にしている様子は無かった。

 

「明日も来るから、不都合があったら言ってくれ」

 

「了解よ」

 

 

 リーナが右手を挙げて達也に応える。銀色のブレスレットは、反対側の手首だ。

 

「達也様、トレーサーはお切りにならないよう願います」

 

「分かっていますよ」

 

 

 兵庫の注意に苦笑いで頷き、達也はエアカーを発進させた。タイヤを地面から数十センチ離して浮かんだ車体は、相対高度を保ったまま海へと乗り出した。

 

「行ったわね」

 

「リーナ?」

 

「ミアは…その……恥ずかしくなかったの?」

 

「はい? 何がですか?」

 

 

 達也がいなくなったのを見計らって尋ねたリーナだったが、ミアには何のことかさっぱり分からない様子だったので、リーナはさらに小声でミアに問い掛けた。

 

「だからその……シャツ一枚で達也の前に立つのが」

 

「多少は恥ずかしかったですが、別に下着を見られたわけじゃないですし――」

 

「ちょっと待って。下着……着けてたの?」

 

「はい……えっ、着けてなかったんですか?」

 

「そ、そんな訳ないじゃない!」

 

 

 慌てて否定したものの、リーナの表情が真実を雄弁に物語っていた。ミアはその事に気付いていたが、それ以上何も言わなかった。




達也にとってはただの突起……

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