劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1564 / 2283
心配事が多い達也


真由美との会話

 風間との電話を切り上げた達也は、彼にしては珍しく苛立ちを覚えた表情のまま共同スペースのソファに腰を下ろした。

 

「達也くん、何かあったの?」

 

 

 ちょうど達也が座った場所の正面に座っていた真由美が、怖い顔をしたままの達也を眺めてそう尋ねる。普通の人間が見たら逃げ出しそうな表情をしている達也だったが、ここで生活している人間で彼が感情らしい感情を見せているのが、自分たちに心を許しているからだという事を知らない人間はいないので、逃げ出したりはしなかったのだ。

 

「いえ、少し面倒事が増えただけです」

 

「これ以上抱え込んで大丈夫なの? 私はあんまり役に立てないかもだけど、十文字くんに相談したりして解決出来ないかな?」

 

「こればっかりは十文字家当主でも無理ですよ」

 

 

 達也は克人の事を「先輩」と呼ばず『当主』と呼んだ。それだけで真由美は、抱えている問題が学校の先輩後輩程度の関係では踏み込めないものだという事を覚った。

 

「光宣くんの行方も分からないままだし、このまま何も起こらないで済む――わけないよね」

 

「大人しくしてくれるのであれば、それでいいんですがね……撃退したとはいえ、光宣があの程度で諦めるとは思えませんし」

 

「私は直接戦った事がないから分からないけど、達也くんでも苦戦するほどなの?」

 

「光宣を消し去っていいのなら、別に苦戦などしませんが、肉体を消し去った場合、パラサイトが逃げ出してしまいますので」

 

「……相変わらず物騒な事を平気な顔して言わないでよ」

 

 

 事情を知らない人間が聞けば、いったい何の話をしているのだと驚くような事でも、達也は表情一つ変えずに言い放つので、真由美は幾度となく驚いた記憶がある。今回も平然と『消し去る』などというので、真由美は一拍置いてから驚いたのだ。

 

「達也くんの得意としている魔法なら、確かに光宣くんを無力化する事は可能でしょうけども、普通の人間はそんな事を平気な顔をして言えるものじゃないのよ?」

 

「真由美さんもご存じなように、俺はいろいろと普通ではありませんから。人間としても、魔法師としても壊れている」

 

「そんな事ないと思うけど……」

 

 

 ここで「絶対にない」と言い切るだけの自信が真由美には無かった。確かに達也の感情は幼少期の実験の副作用で壊れてはいるが、それがイコールで人間として壊れているかと問われれば、真由美はノーと答える。だが壊れていないと言い切るだけの根拠としては弱すぎるのだ。壊れているわけではないから、壊れていないわけではない。それが真由美の語尾が消えていった原因だ。

 

「とりあえず、達也くんが珍しく感情むき出しだったから興味があったけど、私じゃお手伝い出来そうにないわね」

 

「こればっかりはウチと国防軍との問題ですので」

 

「国防軍? 達也くんが新たに抱え込んだ問題は国防絡みなの? まさか、また戦略級魔法で襲われる可能性があるの!?」

 

「……戦略級魔法師絡みである事は否定しませんが、襲われる心配は無いと思いますよ」

 

 

 一人で勝手に慌てだした真由美を見て、達也は先ほどまで寄っていた眉間の皺が解消されたのを感じた。真由美は達也に笑われたと思い、恥ずかしそうに視線を逸らしてから、感情をリセットして非難の目を向けてきた。

 

「達也くんから見れば私は子供っぽいのかもしれないけど、その微笑ましげな目は止めてくれないかな?」

 

「別に真由美さんの事を子供っぽいと思った事はありませんよ」

 

「そう? それで、戦略級魔法師絡みって?」

 

 

 すぐに機嫌を直した真由美が、身体を乗り出す勢いで達也に問いかける。

 

「国防軍がリーナを引き渡せと言ってきただけです」

 

「リーナさんを? でもリーナさんは既に帰化して、今は九島家の、来年の四月には四葉家の人間になるのだから、国防軍に引き渡す理由なんて無いわよね?」

 

「恐らくUSNAからの要求でしょう。スターズ内で起きた叛乱をリーナの所為にして、脱走したシリウス少佐を捕獲・引き渡すよう要求した、というところでしょう」

 

「スターズで叛乱? パラサイトが発生したかもしれないとは聞いていたけど、何でそんな事になってるのよ? それで何で、リーナさんが叛乱の首謀者にされているの?」

 

「そんな事理解するのは不可能ですよ。パラサイトが作り出した嘘を信じ込んだ人間が言って来ているのですから、普通の人間である我々に理解など出来ません」

 

「それで、リーナさんは何処に行ったのかしら? 昨日、ちらっと見かけたとは思ったんだけど」

 

「国防軍が身柄を確保しに来る可能性は既に考えられていたので、安全な場所に避難してもらっています」

 

「国防軍相手に絶対に安全な場所があるとは思えないけど、達也くんが言うと大丈夫だって思えるのよね。四葉家の人間だからじゃなくて、達也くん個人に対する信頼から」

 

「はぁ……」

 

 

 真由美が何故自分の事をここまで信頼しているのか、達也には理解出来なかった。特別何かをした覚えは達也には無いので、真由美から信頼を寄せられても、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。もちろん、真由美が弘一のように策を巡らせるようなタイプではないのを知っているので、徹底して疑う事はしないのだが。

 

「兎に角、リーナさんの事はちゃんと守ってあげないとね」

 

 

 別に真由美には関係ないのだが、彼女はリーナの事も守る気でいるようだと、達也は内心ため息を吐いたのだった。




あの超理論を理解しろという方が無理だろ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。