劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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イメージだけで多少は何とか出来るのが凄い


封印の手立て

 パラサイトを封印するために、達也は様々な術式を考えては破棄し、また考えては破棄しを繰り返していた。

 

「(イメージだけではどうも上手く掴めないような気がする……)」

 

 

 普通の魔法師ならば、イメージだけでパラサイトを封印するような術式を考案する事すら出来ないのだが、達也はそこで満足できる状況ではない。光宣に加えて、USNAからもパラサイトがやってくるかもしれないのだ。何時までもイメージ止まりでは、困るのは自分だと彼は珍しく焦っていた。

 

「(幹比古に頼るか? いや、具体策もまだないのに頼っても意味はない……)」

 

 

 古式魔法の専門家として、精霊魔法が使える幹比古には、術式の形が出来上がったら手伝ってもらう予定なので、今頼っても仕方がないのだ。達也はしきりに首を捻りながら、次々と策を考える。

 

「随分と難しい顔してますけど、どうかしたのですか?」

 

「愛梨か……いや、パラサイトに有効な手立てを考えているところだ」

 

「PCもなにも使わずにか? 相変わらず達也殿はワシたちの常識の範囲内におらんな」

 

「こういった事には慣れているから、実用化が必要な術式なら覚書やPCに打ち込みなどはするが、まだどうにもつかめてない状況の物を書き留めても意味はないからな」

 

「そんなものなのか? 吉祥寺はしっかりとメモを取ってたようじゃし、研究者は大抵そうなのだと思っておったのだが」

 

「達也様を吉祥寺と同じレベルだと思ったら失礼ですわよ、沓子。達也様は既に世界で通用する技術者なのですから。偶々基本コードの一つを見つけただけの吉祥寺とは、比べ物にならないくらいの経験があるに決まっています」

 

 

 愛梨に言葉に、達也は苦笑いを浮かべる。確かに吉祥寺は基本コードを見つけて以降、大した成果を残してはいないが、それでも同世代ではかなり有名な研究者の一人だ。その吉祥寺を捕まえて「大したこと無い」と言い切れるのは、それだけ愛梨が自分の事を評価してくれているからだと理解出来た。だがそれを堂々と認めるのは違うのではないかと思い、苦笑いを浮かべたのだ。

 

「しかしパラサイトのぅ……封印するのも面倒だと聞いておるが、繁殖力も高いんじゃろ? 見てパラサイトか否か分かるのかの?」

 

「普通の魔法師がパラサイトに憑りつかれたのなら分かるかもしれないが、高レベルの魔法師に憑りついたのなら、区別するのは難しいだろう。だが奴らが愛梨たちを襲うとは考えにくいから、そこまで気にしなくてもいいだろう」

 

「一色家は今回の作戦には参加しておりませんから、お手伝いする事が出来ませんものね……なんとも残念ですわ」

 

「警戒だけしておいてくれれば、それで十分だ」

 

 

 達也としては、エリカたちにも警戒だけを怠らないように言ったから愛梨たちにも同じように言っただけなのだが、愛梨は何故か感激している。

 

「達也様は私たちの事も心配してくださっているのですね」

 

「それは、まぁ」

 

 

 仮にも婚約者である愛梨たちを、心の底からではないにしても心配するのは当然だと達也は思っている。だがその事が愛梨たちには嬉しかったようで、彼女たちは目を潤ませて達也に頭を下げた。

 

「危険な真似を達也様にだけ押し付けるのは心苦しいですが、我々にはパラサイトに対する有効な手段が思い浮かびませんので、大人しくしておきますわ」

 

「何か手伝えることがあったら言ってください」

 

「あぁ、その時は頼らせてもらおう」

 

 

 香蓮の申し出にそう答えて、達也は再びパラサイトを封印する手段を考え出す。パラサイトの本体は、霊子情報体で、達也に霊子情報体を直接操作する技術は無い。達也は無系統魔法で霊子情報体であるパラサイトを封印、あるいは拘束出来ないかと考えているのだった。想子流をぶつけるだけではパラサイトを弾き飛ばしてしまうだけで、ダメージを与える事は出来ても斃すには至らない。それは同化していた肉体から抜け出したパラサイトに術式解体を使った結果から分かっている。人間と同化している状態のパラサイトにダメージを与える目的で編み出した徹甲想子弾も、パラサイトを弱らせることは出来たが活動停止までには追い込めなかった。

 

「(……やはりイメージが掴めないな)」

 

 

 鎖、縄、網。先程から色々試しているが、どれも上手くいくヴィジョンが描けない。何かが違う気がしてならないのだった。

 

「(本物を使って練習出来れば少しは違うのだろうが……)」

 

 

 達也が知る限りでも、四葉家と九島家は本物のパラサイトを持っている。四葉家は一高の演習林で封印した個体を、九島家は培養してパラサイドールに使用したものを。借りてくることは出来ないが、こちらから出向けば練習台に使わせてくれる可能性はあるが、それも想子をどのように操ればいいか、ある程度目途を着けてからだ。全くの手探り状態で出かけて行っても、無駄足になってしまうだろう。相手にも時間を浪費させてしまう結果となるに違いない。

 

「(……師匠に聞いてみるか)」

 

 

 八雲に借りを作るのは気が進まないが、そうも言っていられる状況では無かった。達也は明朝、九重寺を訪ねてみる事にした。




皆達也を心配してるのは彼にも分かるでしょう

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