劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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出来る事をして手伝えば良い


彼女たちに出来る事

 時間的にまだ余裕があったので、達也は調布のマンションに深雪を迎えに行った。自分は封玉の工夫の仕方を考える為に授業には参加するつもりは無いが、深雪を学校に送っていくくらいの余裕はあるからだ。飛行バイクとはいえ、普通に走る事も出来るので移動にそれ程時間はかからないし、目立つことも無い。

 

「おはようございます、達也様」

 

「あぁ、おはよう」

 

 

 インターホンを鳴らすと深雪が嬉しそうに出迎えたので、達也も思わず表情を崩す。水波が入院して以降、深雪がここまで嬉しそうにするのは珍しい事だったので、良い傾向だと感じたのだろう。

 

「本日は先生のところに出向いていたのでしょうか?」

 

「よく分かったな」

 

「かなりの強敵と戦った臭いが残っていますので。一瞬光宣くんかとも思いましたが、もしそうであるなら達也様がそのように落ち着いた雰囲気なはずがありませんので、ひょっとしたら先生と何かご相談していたのかなと思っただけです」

 

「やれやれ、深雪には隠し事は出来そうにないな」

 

「私は達也様の事でしたら、何でも知りたいですから」

 

 

 元々隠すつもりは無かったが、達也は深雪に先ほど八雲から聞いた話を深雪にも伝えた。といっても、深雪がパラサイトの封印に参加する事を達也が認めるわけではない。

 

「つまり、吉田君と練習すれば、パラサイトを封印する事が出来るわけですか?」

 

「幹比古の手を借りる前に、もう少しこっちで考えておかなければ、時間だけが無駄に過ぎるだけになるだろうからな。今日一日じっくり考えるつもりだ」

 

「それでしたら、このビルの地下を御遣いになられたら如何でしょう?」

 

「そうだな……ここなら、水波のところに光宣が現れたとしてもすぐに駆け付けられる」

 

 

 元々今日はこのマンションに泊まる予定なので、深雪を学校に送り届けたら地下に潜ることにしようと、達也はそう考えた。

 

「ところで達也様、もう朝食は済ませたのでしょうか?」

 

「いや、まだだが」

 

「ではすぐにご用意いたしますので、座ってお待ちください。今コーヒーを淹れますので」

 

 

 時間的余裕があるからか、深雪は達也の食事の用意を始める。たとえ時間的余裕が無かったとしても、深雪は達也の世話を優先しただろうが、その場合は達也が深雪を宥めただろう。このマンションから一高まで、それなりに距離はあるのだが、幸いバイク移動なので駅の混雑などを気にする必要は無いし、最悪の場合空を飛んでいけば渋滞にはまる事もないのだ。

 達也が朝食を摂っている間、深雪は幸せそうに達也の顔を眺めていたが、自分がまだ寝間着のままだったことに気付き、すぐに制服に着替えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也に一高まで送ってもらった深雪は、教室でほのかと雫に話しかけられた。

 

「おはよう、今日は二人の方が早かったのね」

 

「深雪、さっき達也さんに送ってもらってたでしょ?」

 

「えぇ。達也様はパラサイトを封印する術式の開発の為、調布のマンションの地下にある訓練所を御遣いになるらしいわ。そのついでに私の事をここまで送ってくれただけよ」

 

「達也さんの姿が見えないから何処に行ったのかと思ってたけど、パラサイトの事で動いてたんだね」

 

「詳しい事は私にも分からないけど、九重八雲先生にアドバイスをもらったらしいわ。もう少し術式を見直してから、吉田君に手伝ってもらう事になると言っていたわ」

 

「精霊やパラサイト相手じゃ、私たちではあまり役に立てないもんね……」

 

「二人とも戦闘がそれ程得意なわけじゃないんだし、気に病む必要は無いと思うけど?」

 

 

 雫は兎も角、ほのかは殆ど戦闘用の魔法を使えない――使えない事は無いが、役に立つレベルではない。その事を気にしているのか、ほのかは非常に歯がゆい思いをしているのだろうと、深雪は彼女の表情から読み取った。

 

「封印の件だけなら、私だって達也様の役に立てないわ。それどころか、もしかしたら邪魔になってしまう可能性だってあるわ」

 

「どういう事?」

 

「水波ちゃんが入院している病院の先生にも言われたのだけど、私は無意識に想子を放ってしまっているらしいのよ。それが原因で医療機器に悪影響をもたらす可能性があるらしいの。達也様は想子に対する感受性が鋭いので、私がいたら気が散ってしまうかもしれないわ」

 

「深雪の事を邪魔だって、達也さんが思うとはおもえないけど」

 

「達也様はお優しいから、きっとそんな事は仰らないでしょうね。でも、私が原因で達也様の集中力を乱す結果になるかもしれないなんて、私が耐えられないもの」

 

「今回、私たちは大人しくしていた方が、達也さんのためになるって事?」

 

「パラサイト相手なら、そうかもしれないわね。もちろん、役に立てるところでお手伝いする分には、達也様も認めてくださると思うけどね」

 

「そっか……ほのか、そんなに落ち込む必要は無いかもしれないよ」

 

「どういう事?」

 

「達也さんを研究に集中させるためにも、生徒会業務を頑張ればいいんだよ。達也さんがそっちの事に気を取られないように、今まで以上に頑張れば、達也さんの手助けをしてる事になるし」

 

 

 雫の励ましに、ほのかは少し考えてから、力強く頷いた。それではあまり今と変わらないのではないかと悩んだのだが、それは雫に言う必要が無いとほのかが考えたと、雫は少しの間から気づいたのだが、その事を口に出す事はほのかも雫もしなかったのだった。




無理に手伝ってもそれこそ邪魔になる可能性が高いしね……

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