劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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世の中何が役に立つか分からないですね。


不幸中の幸い

 ちょっとしたハプニングはあったが、その後は特に何も無く達也は海に浮かんでいた。ほのかが泳げないと言っていたのが少し気にはなっていたが、何かあれば達也にはすぐに分かる。深雪の気配を掴むののついでに、ほのかや雫たちの気配もしっかりと掴んでいるのだ。問題があればすぐにかけつける事が出来る。

 

「(レオと幹比古は随分と遠くまで泳いでるんだな)」

 

 

 動きたくてウズウズしていたレオと、達也にレオを任された幹比古は、微かに確認出来る程度の距離まで離れていた。

 

「(レオの体力についていってるあたり、幹比古も並々ならぬ鍛錬を積んでいるのだろうな)」

 

 

 海に浮かびながらそんな事を考えていると、不意に悲鳴が聞こえてきた。美月を除く女子陣は今ボートで遊んでいたはずなのだが、如何やらそのボートがひっくり返ったらしい。冷静に考えれば普通にひっくり返る事などありえないのだが、達也はさっきほのかが泳げないという事を耳にしていたので、慌てて水の上を疾走する。魔法を知らない人間が見たらかなり衝撃的な光景だが、達也は一歩毎にフラッシュ・キャストで「水蜘蛛」を発動していたのだ。

 ほのかたちの傍まで来て、達也は水蜘蛛を発動するのをやめ、そのまま溺れているほのかの腰に手を回し上に引き上げる。

 

「ちょっと、達也さんまって! お願いですからまってください!」

 

 

 何か慌てるようにほのかが懇願してきたが、達也はそのままほのかをボートの上に持ち上げる。それと同時に達也は重力に従い海の中に沈んでいった。

 なんとほのかの水着のトップがずれており、その全容が露わになっていたのだ。達也はすぐに目を瞑っていたし、その後は海の中に沈んでいったのではっきりと見られたわけではないのだが、ほのかは先ほどとは違う理由で悲鳴を上げたのだった。

 

「うわ! ほのかって大きいだけじゃなくって形も良いのね」

 

「エリカ、冗談でも今いう事じゃないと思うけど?」

 

「そりゃね。深雪はもっと綺麗な形してるものね」

 

「ヒック……」

 

 

 泣きじゃくるほのかを見ながら、雫は複雑な表情を浮かべている。実はボート転覆を企んでいたのは雫とほのかなのだが、予想外の出来事でほのかは混乱している。そして雫はというと、黒い事を考えながらちょっぴり親友に嫉妬していたのだった。

 

「(ほのか、見られたのは予想外だけど、これはチャンスだよ)」

 

「(チャンスって?)」

 

「(達也さんと二人っきりになるチャンス……あと、見られてもほのかなら良いじゃない。おっぱい大きいんだから)」

 

「(関係無いよね!?)」

 

 

 こうして雫に入れ知恵と嫉妬の言葉をもらったほのかは、達也に今日一日付き合ってもらう事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間も距離も長かった遠泳から戻ってきたレオは、達也の姿が無い事に首を傾げた。目の前には水着の美少女たちが居るのにも関わらずだ。

 

「達也は如何したんだ?」

 

「あそこよ」

 

「あれは……光井?」

 

 

 レオが二人の姿を見つけたのと同時に、水着の上にエプロンをつけた黒沢女史が飲み物を運んできた。当然黒沢の放つ大人の色香にもレオは屈しなかった。

 

「どうなってるんだありゃ?」

 

「ハァハァ……レオ、君ってどんな体力してるんだい……」

 

「別に普通だろ。ところで幹比古、アレ如何思う?」

 

「達也と光井さん? けっこうお似合いじゃない」

 

「ちょっと!」

 

 

 エリカのツッコミに何事かと幹比古がそちらを向くと、テーブルに積まれていたフルーツに八つ当たりしている深雪が目に入った。

 

「吉田君、よく冷えたオレンジはいかが?」

 

 

 差し出されたものを機械的動作で受け取り、タイミングを計ってたのか黒沢女史からシャーベット用のスプーンを手渡されて幹比古はオレンジを食べ始める。

 深雪はと言うと、今度はマンゴーに八つ当たりをし、斜向かいのレオにそれを差し出す。

 

「西城君もいかが?」

 

「あ、ども……」

 

 

 さすがのレオも素直に受け取るしかなく、差し出されたマンゴーと黒沢女史から手渡されたスプーンに視線を向け、大人しく食べ始める。

 再びフルーツに視線を向けた深雪だったが、八つ当たりに飽きたのか席を立ち部屋に戻ると断りを入れた。

 

「黒沢さん、案内して」

 

「畏まりました、雫お嬢様」

 

 

 深雪の案内を黒澤女史に任せ、雫たちはテラスでため息を吐いた。

 

「なぁ、どうなってるんだ?」

 

「ミキが余計な事言うから、私たちまで肝が冷えちゃったじゃないのよ!」

 

「僕の名前は幹比古だ! ……それで、如何いう経緯で達也と光井さんが?」

 

「ちょっとアクシデントがあっただけ。吉田君たちが心配する事はないよ」

 

 

 雫の言葉に、レオも幹比古も互いに顔を見合わせ首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食はバーベキューという事で、レオと幹比古はひたすら食べていた。昼の遠泳に続き勝負をするらしいのだが、既に幹比古は苦しそうだった。

 

「ミキ、男なら根性見せなさいよね」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「レオ君、苦しくないの?」

 

「余裕だぜ。この倍くらいは食えるな」

 

 

 勝負を横目に、達也は自分のペースで食べていた。その隣にはほのかと深雪がピッタリとくっついており、少し離れたところに雫と黒沢女史が居る。

 

「雫お嬢様はよろしいんですか?」

 

「何が?」

 

「ほのかお嬢様にだけチャンスを与えるのはフェアでは無い気がするのですが」

 

「黒沢さん。私はほのかの事を親友だと思ってる。だから争うのは嫌」

 

「ですが、お嬢様とほのかお嬢様は、昔から魔法力を競ってこられたではありませんか。それが今度は女を競う事に変わるだけですよ」

 

「でも……」

 

 

 困ったような表情で達也を見つめる雫の頭を、黒沢女史が優しく撫でる。さながら姉妹のように。

 

「大丈夫です。ほのかお嬢様も、雫お嬢様の気持ちには気付いてるはずです。そしてライバルは互いだけでは無い事にも」

 

「うん……達也さんはモテるから」

 

 

 雫が知っているだけでも真由美やエリカ、そして一番のライバルになるのは深雪だと思っている。

 

「潮様も達也様の事は認めてるご様子でしたし、雫お嬢様がいかないのであれば私が」

 

「……もしかして黒沢さんも?」

 

「さぁ、如何でしょうね」

 

 

 軽く肩を竦めて、レオと幹比古の為に追加の肉を焼き始める黒沢女子を、雫は困ったような顔で見つめていた。

 

「なんてことだ……まさか黒沢さんまで……」

 

 

 大人の色香が達也に通じるとは雫も思って無いが、それでも強力なライバルになる事は間違いないだろう。雫はほのかの為に計画した作戦を実行させるか否かで悩むのであった。




次回バカンス編最終回

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