劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします


幹比古の準備

 昼休みになり、深雪たちは食堂でエリカたちと合流していた。達也はいないが、このメンバーで食事をするのが日課になっているので、自然と食堂に足を運んでしまうのだ。

 

「それで、達也くんがしようとしてる事って、危なくないの?」

 

「達也様以外がやろうとすれば危険かもしれないけど、達也様なら問題無いと思うわ」

 

 

 顔を合わせてすぐ質問してきたエリカに、深雪は当然だと言わんばかりの表情で答える。ここにいる誰もが、達也なら何でもありかという考えを持っているので、深雪の答えにツッコミを入れる人間はいなかった。

 

「それにしても、パラサイトを封印だなんて、本当に出来るのか? 前回だって一時的に気絶させただけで、本格的な封印は幹比古の家に任せるって話だったのによ」

 

「九島家から術式の提供があるらしいし、達也ならそこから改良を施す事くらいは出来ると思うよ」

 

 

 レオのもっともな疑問に、幹比古が達也の能力を考えた答えを返すと、レオもとりあえずは納得したように頷く。

 

「昨日も気になったが、本当に九島家からの提供で大丈夫なのか? 光宣の実家だし、九島家は四葉家に十師族から外されたようなものなんだろ?」

 

「その辺りは私たちには分かりませんね。達也様か、叔母様にお伺いしなければなりませんが、そのお二人が特に問題ないと判断為されているのですから、西城君が心配する必要は無いと思いますよ」

 

「まぁ、現当主と次期当主が問題無しと判断してる根拠が分からねぇから何とも言えねぇが、深雪さんが信じてるのに俺たちがとやかく言っても達也が耳を貸すとは思えないな」

 

「アンタは見た目の割に心配性なのよ。達也くんが問題無いって言ってるんだから、何かあっても達也くんが対処してくれるって事よ」

 

「エリカ、それはどうなの?」

 

「雫やほのかだって、達也くんが大丈夫だって言ってるんだし、なにも心配してないんでしょ?」

 

「もちろんです!」

 

 

 エリカの問いかけに、ほのかが力強く答えると、その隣で雫が少し頬を引き攣らせていたが、彼女も達也の事を信じているのには変わりはない。ただあまりにもほのかが即答したので、自分はどう答えれば良いのか困ってしまったのだった。

 

「まぁ達也に対する信頼は、僕らよりエリカたちの方が高いだろうから」

 

「何よ? ミキは達也くんの事を疑ってるっていうの?」

 

「僕の名前は幹比古だ! 別に疑っているわけじゃないけど、何をするのか分からない以上、過信するのはどうかとは思ってる」

 

「説明なら昨日受けたじゃない。後は達也くんがどうするかよ」

 

「僕に手伝いを頼むかもしれないと言われてる以上、こっちも準備しておきたいんだよ」

 

「その事ですが」

 

 

 幹比古の言葉に深雪が反応する。今朝達也から具体的な説明を聞いたので、幹比古に力を借りる事が確定している事を知っているので、その事を幹比古に伝える為だ。

 

「達也様はある程度の目途がついたようですので、近いうちに吉田君に力を借りたいと仰られておりました。どうやら精霊を使って封印の練習をするらしいのですが、それだけで分かりますでしょうか? もし分からないのであれば、達也様からもう少し詳しい説明をお聞きしてきますが」

 

「精霊……いや、それだけで大丈夫です。精霊なら大掛かりな術も必要ないし、もし必要なら達也の方から連絡があるだろうから」

 

「達也くんに頼られて随分と嬉しそうね、ミキ」

 

「僕の名前は幹比古だ! 達也の手助けが出来る機会なんて滅多に無いから、嬉しいのは当然だよ。僕は達也にかなりの恩があるから、それを少しでも返せるチャンスだからね」

 

「恩ねぇ……達也くんは別に、ミキに恩を売ったなんて思って無いと思うわよ?」

 

「達也がどう思っていようが、彼のお陰で僕は昔と同じように魔法を使えるようになったんだ。あの沈んでた時が無駄だったとは言わないけど、あのまま過ごしていたらきっと無駄になっていただろうしね」

 

「……そうね。二科生として入学したお陰で、美月と出会えたんだもんね~」

 

 

 重くなりかけた空気を、エリカの冷やかしが吹き飛ばす。真面目に語っていた幹比古と、それを隣で聞いていた美月の顔が一瞬で赤くなる。

 

「まったく、付き合ってるっていうのに、何時まで経っても初心ね」

 

「仕方ないだろ! というか、今はそんな事は関係ないじゃないか!」

 

「美月だって、こんなに初心な相手じゃ何時まで経っても生殺し状態よ? ここは美月から迫った方が――」

 

「エリカちゃんっ!?」

 

「エリカ、そのくらいにしておきなさい。あんまりやり過ぎると、後で達也様からお叱りを受ける事になるわよ」

 

「達也くんに聞かれなきゃ問題ないでしょ」

 

「忘れたの? 吉田君はこれから、達也様の練習に付き合うのだから、エリカの事を報告する機会なんて沢山あるのよ?」

 

「ミキ、達也くんに告げ口なんてしたら許さないからね」

 

「僕の名前は幹比古だ! だいたい、エリカが余計な事を言わなきゃ、僕だって達也にそんな事を言うつもりなんて無いからな!」

 

 

 幹比古はエリカに「自分がからかわれた時は弱いくせに」というセリフを言いそうになったが、前に似たような事を言って酷い目に遭った事を思い出し、寸でのところで踏みとどまった。それを横で見ていたレオが、やれやれと言いたげな表情で肩を竦めたのを、深雪たちはしっかりと見て同時に笑い出したのだった。




何事も準備が大事ですから

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