劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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高いのは当然です


光宣に対する評価

 水波への見舞いを済ませ、香澄と泉美は病院外の警備に参加する事にしたが、ずっと張っている必要もないので、真由美から連絡がくるまで近くのレストランで待機していた。

 

「……深雪先輩のお顔を拝見したい」

 

「何言ってるのさ。夕方に生徒会室で別れたばかりじゃん」

 

「ですが香澄ちゃん。こうしてじっと待っているだけなら、深雪先輩とお茶でもご一緒している方がずっと建設的だと思いませんか?」

 

「ボクは嫌だよ。会長と一緒にいると、なんだかにらまれる事があるし」

 

 

 深雪が暮らしているマンションと水波が入院している病院は、近所と言っていい距離にある。徒歩で行くには少々遠いが、車を使えば五分も掛からない。先日のお見舞いで水波からこれを聞いて以来、泉美は度々そんな愚痴を零していた。

 なお、二人がいるレストランは、先日の師族会議で役割が決まって以来、七草家が貸し切っている。元々予約客しか入れない営業形態の店だから、拠点とするにはもってこいだった。七草家に割り当てられた仕事は、パラサイトと化した九島光宣を待ち伏せて捕える事。捕獲が困難な場合は誅殺もやむを得ないとされているが、香澄も泉美も、出来れば光宣を殺したくないと思っているが、野放しにするくらいならやむを得ないと納得している。

 

「それにしても、ホントに来るかな」

 

「私は来ると思いますよ」

 

「そうかなぁ……光宣だってバカじゃないし」

 

「むしろ香澄ちゃんより頭は良いと思いますけど」

 

「確かに光宣はボクより頭が良いけど、泉美もボクとそんなに成績変わらないじゃん!」

 

「でしたらもう、一般科目の課題をお手伝いしなくても良いという事ですね? 毎晩電話で付き合わされる必要もなくなるというなら、私としてはありがたいですが」

 

「ま、待った! そういうのはずるい! 今はそんな話をしてるんじゃないだろ! ボクが言いたいのは、光宣だって待ち伏せを警戒しているんじゃないかって事!」

 

 

 旗色が悪くなってきたのを察し、泉美に口を開かせないよう、香澄は矢継ぎ早に言葉を放つ。泉美はクスッと笑ってから香澄の言葉に応える。

 

「その程度は予想しているのでしょうね。もしかしたら私たちが控えている事も、お見通しかもしれません。しかしそれでも、光宣くんは来ると思いますよ」

 

「えっ? どうして?」

 

「子供の頃から病気がちだった所為でしょう。光宣くんは物事に執着しない男の子でした」

 

「……そうだね。もっと我が儘になって良いのにって、何度か歯痒く思った記憶があるよ」

 

 

 香澄たちは光宣と、そう頻繁に会っていたわけではない。また香澄たちも他の子共から見れば、物事に執着しない質だった。そんな香澄たちから見ても、光宣は物も事も欲しがらない子共だったのだろう。

 

「その光宣くんが、人であることを捨ててまで水波さんを望んだのです。それ程までに激しい想い……残念ながら私には理解出来ませんが、決してあきらめないだろうという事だけは想像出来ます」

 

「泉美にも分からないんだ……」

 

「ええ。乙女として、誠に遺憾ではありますが」

 

「乙女って……まぁ、泉美は乙女だろうけどさ。そういう気持ちに、男も女も関係ない気がするんだけどね……。でも、気持ちは兎も角現実問題として、水波の身辺は四葉家、十文字家、そして七草家で固めてるじゃない? こんな敵ばっかりの中に突っ込んでくるかな? それとも、恋は盲目ってやつ?」

 

「香澄ちゃん、恋は盲目はそういう意味ではありませんよ?」

 

「えっ、そうだっけ? 恋をすると理性や常識が無くなっちゃうって意味じゃないの?」

 

「国語の辞書にはそう書いてありますが、理性が無くなるというのは相手の欠点が分からなくなるという事で、常識が無くなるというのは自分や相手、家族の社会的地位や立場を省みなくなるという側面を差しているのですよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

「それに光宣くんが待ち伏せにもこだわらずやってくると私が思っているのは、光宣くんが冷静な判断力を失っていると推測しているからではありません」

 

「……じゃあ、何で?」

 

「光宣くんはきっと……」

 

 

 泉美が声を潜める。声だけでなく、表情でも「大きな声では言えない」とい語っていたので、香澄も泉美に顔を近づけた。

 

「四葉家と十文字家と、私たち七草家を恐れていない。そう思うからです」

 

「……光宣はそういう自信過剰なタイプじゃなかったと思うけど」

 

「光宣くんの実力なら、その自信は過剰ではありませんでした」

 

「それは……七草家くらいなら出し抜けるかもしれないけど」

 

「今の光宣くんは、パラサイトの力を得ています。またそれ以外にも、嘘か真か大陸の古式魔法師の亡霊を取り込んだとか」

 

「……亡霊はさすがに無いんじゃない? いくら達也先輩が言ってたからとはいえ」

 

「……とにかく」

 

 

 周公瑾の亡霊を吸収したという件については、泉美も本気で信じていなかったので、香澄のツッコミに対してあまり反応を示さなかった。

 

「光宣くんが一段と強くなっているのは間違いないと思います」

 

「香澄ちゃん、泉美ちゃん、現れたわよ!」

 

 

 香澄の返事を聞く前に真由美が二人を呼びに来たことで、この場の議論は打ち切りとなった。




また戦闘シーンが多くなる……

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