劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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二人共衝撃的な告白ですからね……


兄妹の告白

 嵐の前の静けさではないが、食後に部屋に集まってカードゲームをしていた時は、もの凄く静かだった。そんな時に雫が動いた。

 

「ねぇ深雪、ちょっと外に出ない?」

 

「いいわよ」

 

「あっ、お散歩ですか? それだったら私も……」

 

「美月はダーメ! 罰ゲームがあるんだから」

 

「えぇ!? 聞いてないよ!」

 

「敗者には罰ゲームがつき物でしょ!」

 

 

 空気の読めない美月が、二人に同行しようとしたのを、エリカがそれらしい理由で阻止した。彼女には雫が何で深雪を連れ出そうとしてるのか、心当たりがあるようだ。食後にレオがフラっと居なくなったのも、エリカ同様に何かを感じ取ったからなのかもしれない。

 一方で同じ部屋で将棋をしていた幹比古は、女子の会話が気になって集中力を欠いていた。もちろんそう言った意味で気になってたのではなく、純粋に興味があっただけなのだが……

 

「王手、後十手で詰みだな」

 

「え、もう!?」

 

 

 達也相手に集中力を欠いた結果、無慈悲なる宣告を下されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪を外に連れ出したのは良いが、雫はなかなか本題を切り出せずに居た。

 

「あのね、深雪……」

 

「何かしら?」

 

 

 漸く決心して切り出そうとしたが、やはり躊躇ってしまった。だが何時までも黙ってるわけにはいかないので、雫は覚悟を決め切り出した。

 

「深雪って達也さんの事を如何思ってるの?」

 

「愛してるわ」

 

 

 やっとの思いで切り出した質問に、深雪は間髪入れずに答えてきた。まるで何を聞かれるか分かってたかのように。

 

「……それは男の人として?」

 

「いいえ。私とお兄様の間に恋愛感情はありえないもの」

 

「何でそう言いきれるの?」

 

「雫が何でこんな事を聞いてくるか、私にだって分かるわ。友達思いなのね」

 

「……私は深雪も友達だと思ってる」

 

「分かってるわ。だから私も邪魔はしない、嫉妬はするかもしれないけどね」

 

 

 深雪が寂しそうに笑っているのに、雫は首を傾げた。

 

「深雪はこんなにも達也さんの事を想ってるのに、何でそんな顔が出来るの?」

 

「雫、私ね……三年前に死んでいたの」

 

「え?」

 

「ううん、死んでいたはずだと言うのが正しいのかも知れないけど、確かにあの時私は命の灯火が消えるのを感じたから、死んでいたで正しいのかもね。そしてお兄様に助けてもらったおかげで、こうして雫と会話したり出来てるの。恋愛って相手に求めるものでしょ? でも私自身が既にお兄様に頂いたものだから、これ以上お兄様に私から求める事は出来ないもの」

 

「……よく分からないけど、深雪って凄いんだね」

 

「自分でも屈折してるとは思うけどね。それと雫、お兄様に恋慕してるのはほのかだけじゃないでしょ? 貴女は良いの?」

 

「私は……まだ決心が付かないから」

 

 

 九校戦中に聞いた『達也本来の魔法』の事とかが頭のなかで引っかかりを覚えており、雫はまだ気持ちを伝える度胸がないのだ。

 

「そう……表現は正しくないかもしれないけど、私もライバルとして負けたくないから」

 

「最大のライバルだね」

 

 

 深雪の冗談とも取れる発言に、雫は力なく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫が深雪を連れ出してすぐ、ほのかは達也に「外に出ないか」と誘いを入れた。既に対局を終わらせていた達也は、二つ返事でほのかの誘いに乗ってきたのだ。

 スタートがスムーズすぎて、ほのかは戸惑っていた。予想ではもう少し達也が渋ったりするはずだったので、快調にスタートを切って如何したら良いのか悩んでいたのだ。

 浜辺を散歩しながら気付いたのだが、達也はほのかが濡れないように波打ち際を歩いてくれている。ちょっとした優しさに、ほのかは更に胸をときめかせた。

 

「あの、達也さん!」

 

「ん、何?」

 

「私、達也さんの事が好きです! 達也さんは私の事如何想ってますか?」

 

 

 勢いで告白したほのかだが、答えを聞くのが怖くて目を瞑ってしまった。なかなか返事が無いので、達也は自分の事を何とも想って無いのかと諦めて目を開けると、達也は困った表情をしながら笑っていた。

 

「ご迷惑でしたか?」

 

「いや、素直に嬉しいし、何時か言われるとは思ってたからね。といっても気付いたのは最近だが」

 

「それじゃあ……」

 

 

 ほのかは良い方と悪い方の両方を思い描き、出来れば前者が訪れてくれればと思っていた。

 だが達也の返事はほのかが思い描いていたどちらでも無かった。

 

「ほのか、俺はね……精神に欠陥を抱えた人間なんだ」

 

「え?」

 

「小さい頃に魔法事故に遭ってね、感情の殆どを消されてしまったんだ」

 

「うそ……」

 

「閉ざされた訳じゃないから解放する事も出来ないし、壊された訳でも無いから治す事も出来ない。恋愛感情は辛うじてあるんだが、俺はそれを認識した事もない。だからきっと今はほのかの事を特別だと思えてないんだろう」

 

 

 達也の遠まわしの返事に、ほのかは如何反応していいのか困っていた。

 

「えっと、怒らないで聞いてほしいんですが、私てっきり達也さんは深雪の事が好きなんだと思ってました。妹としてでは無く女の子として」

 

「……それは誤解だ」

 

「そうですね。達也さん頭良いですから、嘘吐くならもっと違う嘘を吐くと思うんです。だからこれは本当なんだって思えるんですけどね」

 

 

 無理矢理笑ってるほのかを見て、達也は申し訳無さそうな表情を浮かべた。

 

「でも、深雪にその感情を抱いてないのなら、私にもまだ可能性はあるんですよね? だって達也さんは他に好きな相手が居るわけじゃないんですから」

 

「まぁな……」

 

「それじゃあ、これから達也さんに特別に思ってもらえるように頑張ります! ライバルは多いですけどね」

 

「そうか……俺もほのかの気持ちは覚えておくよ」

 

 

 こうしてほのかの告白はやんわりと断られたのだが、可能性がゼロじゃないと分かったほのかは、今まで以上に達也にアピールする事にしたのだった。

 翌日ほのかが実は泳げると判明したため、深雪と共に達也を取り合うように遊ぶのだが、そこに我慢していた雫と、純粋に大勢の方が楽しいだろうという事でエリカと美月も加わってきた。

 

「幹比古、何見てるんだ?」

 

「い、いや!? 何でもないよ」

 

「? ならもう一度勝負しようぜ! 今度はもっと圧勝してやる」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 レオにつれられて、幹比古は再び遠泳する破目になったのだが、彼が誰を見ていたのかは、幹比古の名誉の為に黙っておこう。

 達也の周りで楽しそうにしている雫たちを、黒沢は少し離れた場所で見守っていたのを、達也だけが気付いていたのだった。




達也争奪戦にほのかが本格的に参加。雫も近々正式参戦するかもです。

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