劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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反省して次に活かせればいいんですが……


七草三姉妹の反省

 真由美たち七草姉妹は、いったん水波が入院している病院に運び込まれた。達也と深雪が駆けつけた時、香澄と泉美はまだ目を覚ましていなかったが、真由美は最初から意識を完全に失っていたわけでは無かったので、ベッドの上ではあるが既に自力で起き上がって話しが出来る状態だった。

 

「とにかく、酷い怪我が無いようで何よりです」

 

「光宣くんが加減してくれたんだと思う」

 

 

 達也のセリフに、真由美が自嘲的な笑みを浮かべる。そこまで目立つ怪我ではないが、見ていて気分が良い物では無かったので、達也は三人に『再成』を施し傷を負わなかった状態で現在に定着させた。

 

「……何度見ても、凄い魔法よね」

 

 

 自分の身体から傷が無くなったのを、真由美はまるで他人事のように眺めていた。

 

「達也様……」

 

「この程度なら気にする必要は無い」

 

 

 深雪が心配そうに達也の腕にしがみついたが、達也は深雪の髪を優しく撫でる事で彼女を安心させた。

 

「光宣が加減していたと仰いましたが、何故そう感じたのですか?」

 

「だって、いくらでも殺すチャンスがあったのに、私たちはこうして生きてるんだもの……こっちは本気で殺すつもりだったというのに」

 

「……光宣くんの目的は水波ちゃんだけで、私たちと本気で敵対するつもりは無いんですよ、きっと」

 

「敵対するつもりが無いというより、敵にならなかったんじゃないかしら」

 

 

 深雪の慰めにも、ひねくれた応えしか返ってこない。その所為で深雪も沈鬱な雰囲気になりかけたのを見て、達也が真由美に非難の視線を向けると、漸く真由美も自分の失調に気付いたようだ。

 

「ゴメンなさい……大人げなかったよね」

 

「いえ……負ければ口惜しいのは当然だと思います」

 

 

 真由美の謝罪に対して深雪がかけた言葉に、真由美は今にも首を傾げて唸りだしそうな顔になった。

 

「……深雪さんも、負けたことがあるの?」

 

「……はい、あの……ありますけど……」

 

「ご、ゴメンなさい。変な事聞いちゃって」

 

「ところで、十文字先輩は、光宣の追跡ですか?」

 

 

 妙な空気が居座る前に、達也が話題を変えると、真由美もこれ幸いと、達也の誘い水に応じた。

 

「ええ。本人から直接聞いたわけじゃないんだけど、十文字家の人はそう言ってたわ」

 

 

 真由美が小さくため息を漏らす。それは自らを嘲るものでもなく、自己憐憫でもなく、感嘆のため息だった。

 

「やっぱり十文字くんは凄い……無傷で光宣くんを撃退するんですもの、さすがと言うしかないわね」

 

「確かに十文字先輩の技量は素晴らしいものですが……十文字先輩お一人であれば、もっと苦戦されたと思いますよ」

 

 

 深雪のセリフに、真由美が「んっ?」と首を傾げる。

 

「香澄ちゃんと泉美ちゃん、その後七草先輩と戦って、光宣くんも相当に消耗していたはずです。先輩たちの奮闘が無ければ、十文字先輩も無傷では済まなかったに違いありません。私はそう思います」

 

「そうかしら……? いえ、そうね。そう思っておくことにする。深雪さん、ありがとう」

 

 

 真由美が深雪に笑い掛け、深雪は小さなお辞儀でそれに応えた。真由美の表情が多少明るくなったところで、香澄と泉美が目を覚ました。

 

「ここは……」

 

「ボクたちは確か、光宣と戦って……っ!」

 

 

 勢いよくベッドから飛び起きた香澄は、周りにいた達也と深雪、そして真由美の存在に気が付いた。

 

「お姉ちゃん……達也先輩に司波会長も……」

 

「深雪先輩ですって!?」

 

 

 まだ完全に覚醒しきっていなかった泉美だったが、香澄が漏らした深雪の名前に反応し、香澄以上に勢いよく起き上がった。

 

「二人とも、はしたないわよ……」

 

 

 あまり行儀の良い感じはしなかったが、達也も深雪も指摘する事はしなかった。だが実の姉である真由美は、ツッコまずにはいられなかった。

 

「ここは病室だよね……ボクたちは光宣に負けたのか」

 

「深雪先輩が私たちを運んでくださったのですか?」

 

「私たちが病院に到着した時には、既に運び込まれていたわ。詳しい話は先輩からお聞きしたけど、大変だったみたいね」

 

「いえ……私たちが不甲斐ないばっかりに、光宣くんを逃がしてしまいました……」

 

「それより! 水波は無事なんですか!? 光宣は何処に行ったんですか!」

 

「香澄ちゃん、落ちついて。水波ちゃんは無事よ。光宣くんは十文字くんが追ってるから」

 

「克人さんが? ……そういえばボクたち、意識を失って道路に身体を打ち付けたはずじゃ? その割には痛みもないし、傷も何処にも見当たらない……」

 

「どうやら光宣くんが二人を魔法で受け止めて、傷を負わせること無く撃退したみたいよ? 私が駆け付けた時には、二人は道路の脇に運ばれた後だったから詳しい事は分からないけど」

 

 

 真由美は咄嗟にそれらしい嘘を吐いた。香澄は兎も角、泉美は達也の魔法を詳しくは知らないはずなので、戦闘で傷を負った事自体を無かったことで通すのだろう。

 

「あれだけの魔法を喰らって無傷で済むかな……?」

 

「治癒魔法を掛けていただいたにしても、何かしらの外傷はあるでしょうし、見当たらないのを考えれば、光宣くんが手加減をしてくれていたという事でしょう」

 

「そうなのかな……?」

 

 

 イマイチ納得出来ないという表情の香澄だったが、結局は真由美と泉美の言い分を論破するだけの材料がないので、それで納得する事にしたのだった。




香澄は一応知ってるんですけどね……

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