劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1583 / 2283
授業免除があるから問題ないけど……


真夜からの呼び出し

 光宣の襲撃があった翌日、達也は真夜から呼び出しを受けた。兵庫が運転する迎えのVTOLに乗り込み、途中から例の地下道で本家に向かう。到着したのは、昼前というよりまだ朝の内に含まれる時間帯だった。

 

「早くから悪いわね。実はペンタゴンの協力者から重要な情報がもたらされてね。情報源が情報源だから、直接お話ししたいと思ったの」

 

 

 USAがUSNAに代わっても、国防総省の所在は変わらない。ビルも外見だけは変わらず、通称もペンタゴンのままだった。

 

「ペンタゴンに協力者がいる事は存じませんでした」

 

「そのうち、達也さんにも紹介しますね」

 

 

 達也はまだ四葉家の全貌を知らされていない。教えられずに知っている知識も少なくないが、全てには程遠かった。

 

「それでその内容ですけど」

 

「はい」

 

「スターズが処刑チームを出動させたそうですよ」

 

「捕縛ではなく処刑ですか。少し意外に思われます」

 

 

 スターズがリーナ追跡部隊を送り込んでくるのは、ほぼ確実と考えられていた。だが暗殺目的というのは予想外だった。リーナ――アンジー・シリウス少佐は国家公認の戦略級魔法師だ。通常兵力が充実しているUSNAでは他の国に比べて優先順位も下がるだろうが、それでも貴重な戦力のはずである。

 

「ペンタゴンの決定ではないとの事です」

 

「スターズの独断ですか」

 

「黙認状態のようですけど」

 

「USNAも深刻な内部対立を抱えているようですね」

 

「ええ。それが正解でしょう」

 

 

 いったい何と何の対立なのか、達也には分からない。ただ一方の勢力はリーナを邪魔だと思っており、もう一方は彼女の戦略級魔法師としての戦力を惜しみはするが、他国に取られるくらいなら暗殺もやむを得ないと考えているのだろう。達也はそう推測した。真夜はもっと詳しいUSNAの内情を知っていたが、この場で説明はしなかった。

 

「具体的な侵入経路は分かっているのですか?」

 

「分かっていたら対処してもらえますか?」

 

「ご命令とあらば始末します」

 

 

 達也の返事に、躊躇いはなかった。真夜が楽しそうに唇を綻ばせる。二人の表情から、殺人に対する忌避感は伺われなかった。来日するスターズの隊員は、他の主権国家で暗殺などという無法行為をしでかそうとしているのだ。逆に殺されても文句は言えないだろう? というのが、恐らく二人の本音だった。

 

「残念ながら、侵入ルートは掴めていません。ただ、到着予定は分かっています」

 

「いつでしょうか」

 

「今晩です」

 

「……それでは、調べてる時間がありませんね」

 

「そうですね」

 

 

 達也の苦い顔がおかしかったのだろう。真夜はそういった後、片手で口を隠して上品な笑声を零した。

 

「母上、笑っている場合では無いと思いますが」

 

「……ごめんなさい。でも、全く手をこまねいているわけではありませんよ。首都圏の空港と空軍基地には監視員を派遣しました。海路までは手が回らないけど、今回は無視して大丈夫だと思うわ」

 

「問題は、首都圏以外の空港を利用した場合ですか」

 

「そうですね」

 

 

 達也はすぐに、問題点を指摘してみせた。真夜は、それで気を悪くした素振りは無い。同時に、感心した様子もない。その程度の事はすぐに気づいて当たり前、と思っていたのだろう。

 

「ただ、外に漏らす事も出来ませんので、その場合は発見次第対処するという方針で行くしかないでしょう」

 

「はい」

 

 

 その方針に、達也も異存はない。

 

「では、その際にはよろしくお願いしますね」

 

 

 いきなり話を蒸し返されても、達也は慌てなかった。

 

「始末するという事でよろしいでしょうか?」

 

「本当はその方が後腐れが無くて良いのだけど……政府の方々は、別のご意見をお持ちでしょうから」

 

「了解しました。可能な限り捕らえる方針とします」

 

「ええ、それでお願い」

 

 

 そう言って、真夜が満足そうにうなずいた。本来ならこれで話は終わりで、達也は急ぎ戻って術式の改良を進めたかったのだが、真夜の顔からはまだ何かありそうな雰囲気が感じられていた。

 

「昨日病院が襲撃されたようですけど、七草家の魔法師はどうでしたか?」

 

「他の魔法師は分かりませんが、真由美嬢、香澄嬢、泉美嬢はそれなりに奮戦したと思います。相手が光宣でなければ、それなりの痛手を負わせていたでしょうし」

 

「つまり、その三人以外の魔法師は殆ど役に立っていないと?」

 

「結果だけ見て判断するのであれば、そう言わざるを得ない結果ですね」

 

 

 実際十文字家の魔法師がいなければ、あの程度の怪我では済まなかっただろうと達也は思っている。真由美たちなら兎も角、他の七草家の魔法師に対して、光宣が手加減をする理由は無いのだから。

 

「やっぱり七草家の方々を当てにしたのは失敗だったかしらね」

 

「判断を下すのは早計だと思います。七草家の包囲網はバカに出来ませんので」

 

「まぁ気長に待ちましょうか。それでは達也さん、くれぐれもやり過ぎないようにお願いしますね」

 

「分かりました」

 

 

 漸く真夜が立ち上がり、話はおしまいという雰囲気になったので、達也も真夜に続いて席を立ち、前傾四十五度のお辞儀をして四葉本家を辞したのだった。




七草家を下に見たいだけな感じも……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。