劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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手を組まれると面倒なんだろうな……


今後の方針

 光宣はレイモンドとレグルスを、神戸の中華街に連れて行った。南京町とも呼ばれている狭い地域だ。神戸の中華街にも横浜同様、周公瑾の拠点があった。そこで働く者は、光宣が新たな主として乗り込んでも、何の疑問も口にせず従った。彼らにとって主人の姿かたちはどうでもよかった。ただ主にしか開けられない宝物庫の「鍵」さえ持っていれば、主人として迎えるには十分だったのである。光宣は周公瑾の亡霊から「鍵」の絡繰りに関する知識を引き出していたので、宝物庫を問題なくあけられた。

 光宣がレイモンドたちと話し合いを持ったのは翌日、二十七日木曜日の事だった。

 

「……つまりジャックの目的は、当面のところ脱走したシリウス少佐の行方を突き止めるという事なんですね」

 

 

 光宣の問いに、レグルスは頷いた。すぐに答えを返さなかったのは、テレパシーを使いそうになるのを自制したからだ。

 

「もし可能ならば、私の手でシリウス少佐を討つ。難しいようなら、仲間の到着を待って合流する」

 

「お仲間は何時、日本にいらっしゃるんですか?」

 

「四日後、日本時間七月一日夜、座間基地に到着する予定だ。ただ今年二月に実行した作戦の所為で日本当局の厳しい監視が予想される。到着しても、そう何度も動けないだろう。ある程度の情報を集めて、一度で目的を達成する必要がある」

 

 

 今年二月の作戦とは、顧傑を日本当局の手に渡さない為にカノープスが指揮を執って展開した臨時ミッションの事だ。

 

「分かりました。配下にシリウス少佐の居場所を探させましょう」

 

「配下って、九島家? 九島家を継ぐのは長男の玄明さんだと思ってたんだけど、光宣にも自由に動かせる手勢がいるのかい?」

 

「詳しいんですね、レイモンド。フリズスキャルヴで調べたんですか?」

 

 

 光宣を驚かせようと口を挿んだレイモンドだったが、光宣のカウンターに自分が驚愕させられてしまった。

 

「フリズスキャルヴを知っているの!?」

 

 

 光宣は曖昧に笑った。普通の者なら「誤魔化し笑い」だが、光宣が浮かべると「謎めいた笑み」になる。

 

「僕にもいろいろと情報源があるんですよ」

 

「………」

 

「捜査協力の件、よろしく頼む。それで、我々は何を手伝えば良い。君のガールフレンドを連れてくれば良いのか?」

 

 

 呆然とした顔で固まったレイモンドを横に、レグルスが話を元に戻す。

 

「それが可能なら、お願いしたいところですが……」

 

 

 レグルスの言葉に、光宣が苦笑する。その笑みを見てレグルスは対照的に、ムッとした表情を浮かべた。自分の力量を疑われたと思ったのだ。だがそんなレグルスの表情を見ても、光宣に焦った素振りは無い。

 

「彼女は四葉家の関係者なんです」

 

 

 何気ない口調で打ち明けられた事実に、レグルスが目を見張った。

 

「ヨツバというのは、あの四葉家か?」

 

「ええ。『アンタッチャブル』の四葉家です。関係者といっても使用人なんですが、四葉家次期当主の婚約者の側近なんです」

 

 

 レイモンドが「達也の婚約者……?」と呟いた。彼は達也の婚約者が大勢いるのを知っている。その中に自分が恋慕している雫が含まれている事も。

 

「彼女は今、東京の病院に入院しているんですが、パラサイトになった僕を捕まえる為に周りを十師族が固めています」

 

「それは、四葉家だけでなく、他の十師族も、という意味か?」

 

 

 レグルスの問いに、光宣は頷いた。

 

「ええ。具体的には七草家と十文字家が。しかしそれは何とかなります」

 

 

 一昨日の夜、光宣は克人によって手痛い目に遭ったばかりだ。だが、七草家と十文字家のガードを潜り抜ける策は既に考えてある。

 

「問題は最後の関門である四葉家の守りなんです。司波達也さん……名前はご存知ですよね? あなた方にとっても因縁のある相手です」

 

 

 レグルスが「ああ、知っている」と答える。レイモンドは何か言いたげだったが、とりあえず話を聞く姿勢を見せている。

 

「四葉家の魔法師が他家と一線を画した手練れであることは分かっています。そこへ達也さんに加わられると、僕では彼女に手が届かない」

 

 

 先日は引き分けだった。だが光宣自身がそうだったように、達也も本気では無かった。お互い、手を抜いていたわけではないが「相手を殺してもやむを得ない」という意味での本気では無かった。

 

「でも光宣の能力なら、達也にだって勝てるんじゃないのか? 達也の魔法は、個人を相手にするには大きすぎると思うけど」

 

「達也さんは別に、戦略級魔法だけが脅威なわけではないですから」

 

 

 レイモンドが達也の魔法を知っている事に驚くことはしなかった。確かに今度は光宣も、達也相手に引くつもりは無い。克人を相手にするのとは違う。達也に対しては、自分の存在を懸けた方針の対立がある。意地がある。達也を前に何度も引いてしまっては、自分が間違っていると認めてしまう事になってしまう。

 

「ところで光宣は、達也から戦略級魔法の事を聞いていたのかい?」

 

「さっき言った通りですよ。僕にだって独自の情報源があるんです。そちらこそ、フリズスキャルヴで知ったんですか? それでディオーネー計画を隠れ蓑にして、達也さんを宇宙空間に放り出そうと?」

 

「………」

 

 

 ディオーネー計画の真の目的を言い当てられ、レイモンドは押し黙るしか出来なかったのだった。




知られてないと思ってるとは……
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