劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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セーフ判定で良いのだろうか……


ギリギリの会話

 アシスタントの慌てようが凄かったからかは分からないが、解説者も彼の多少強引な話題転換に付き合った。

 

『そうですね。大亜連合はシベリアの部隊が参戦してくる前に決着をつけたいはずです。つまり、短期決戦を狙ってくると思います』

 

『では、新ソ連は増援が調うまで持久戦に持ち込みたいと考えているのですか?』

 

 

 ここでニュースキャスターが会話に戻ってくる。彼はベゾブラゾフの話題を蒸し返さなかった。

 

『そう思います』

 

『大亜連合側は、戦略級魔法を使ってくるでしょうか』

 

『先日お披露目、いえ、その存在を明らかにした劉麗蕾少尉を投入してくることは、十分に考えられます』

 

 

 その後も細かい話が続いていたが、そろそろ家を出なければ学校に遅刻する時間になってしまった。遅刻と言っても、それを心配しなければならないのは深雪だけだった。達也は深雪を学校までエスコートして、その後は自由行動となる。

 

「達也様、本日は如何なさいますか?」

 

 

 達也が運転席に座る自走車の中で、深雪が達也に問いかける。

 

「風間中佐から呼び出しが無ければ、FLTに行くつもりだ」

 

「リーナのところへは行かれないのですか?」

 

「やる事が出来た」

 

 

 それはきっと、大亜連合と新ソ連の軍事衝突に関わる事なのだろう。深雪はそう思ったが、それ以上詳しくは尋ねなかった。もし自分が知るべき事であるならば、達也は自分が尋ねる前に教えてくれる。達也が何も言わないという事は、自分は知る必要のない事なのだろうと、深雪は長年の経験で悟ったのだ。

 

「では達也様、また放課後にお待ちしております」

 

「ああ。もし迎えが難しいようなら連絡する」

 

「はい」

 

 

 達也が自分よりも優先する用事が出来た場合というのが想像出来なかったが、それだけ大変な事になる可能性があるのだろうと理解しているので、深雪は特に文句も言わずに達也が乗ったままの自走車を見送って、教室へと向かった。

 

「おはよう、深雪」

 

「おはようほのか。雫も」

 

「うん、おはよう」

 

 

 教室に入りすぐに声をかけてきたほのかに挨拶を返し、その横にいる雫とも挨拶を交わした。

 

「今朝のニュースだけど、新ソ連の国家公認戦略級魔法師って、この前達也さんを襲おうとした魔法の術者だよね?」

 

「ほのか、一応公式では術者不明になっているのだから、決めつけての発言は控えた方が良いわよ?」

 

 

 深雪も達也から魔法の発動元がベゾブラゾフであることは聞いているので、このような白々しい会話をしたくはないのだが、また達也に余計な迷惑を掛けてしまう事になりかねないので、一応体裁を保っているのだった。

 

「そうだった……まぁ、とにかくその戦略級魔法師だけど、本当に亡くなってるのかな?」

 

「達也様が仰るには、本命の術者は消していないそうだけど」

 

「深雪も相当物騒な事を言ってるよ」

 

「そうかしら?」

 

 

 雫のツッコミに対して、深雪は軽く笑みを浮かべて誤魔化した。自分でもギリギリの会話をしている自覚はしているので、それ以上はツッコむなという合図だ。

 

「それにしても、また達也さんが戦場に駆り出されるなんてことはないよね?」

 

「それはさすがに無いとは思うけど……ただ、達也様の御力が必要となる可能性はゼロではないでしょうね」

 

「あれ? でも達也さんと国防軍って、リーナの所在をめぐって関係が悪化してるんじゃなかったの?」

 

「確かに四葉家と国防軍の関係はあまり良くないけど、達也様は使えるものは何でも使うお方だから、国防軍と完全に関係を断つ事はしてないはずよ。軍全体の事は私には分からないけど、風間中佐も達也様との関係を断ち切る事はしなかったでしょうし」

 

 

 それ程面識があるわけではないが、深雪は風間という人間をそのように評価している。最終的には敵になる可能性の方が高いと達也から聞かされてはいるが、敵対していない以上互いに使える時に使うだろうとも思っている。

 

「まぁ達也さんなら何とか出来るのかもしれないけど、結局は国防軍の手柄になっちゃうんでしょ?」

 

「達也様が軍属であることは軍事機密事項だからね。それに、達也様はそんな事に関心は無いでしょうし」

 

「トーラス・シルバーの片割れであることも、あのことが無ければ発表しなかっただろうしね」

 

 

 雫が言うように、達也がトーラス・シルバーの片割れだと発表する予定は、彼が高校を卒業してからの予定だったのだが、さすがに隠し通せないという事でやむなく発表する事になったのだ。だが彼と親しい人間からしてみれば「あぁ、やっぱり」といった感じで済んでいるのだ。もちろん、他校の生徒たちからは文句も出ているのだが、彼が「一高生」である事は紛れもない事実であり、「一高生」である彼が九校戦のメンバーとして参加したとしても、ルール違反にはならないのである。

 

「そういえば、今日達也さんは?」

 

「やる事が出来たらしく、FLTに顔を出すと仰られていたわ」

 

「なんだ、今日は学校に来てないんだ……」

 

「仕方ないよ、雫。達也さんにしか出来ない事は多いんだから」

 

「うん」

 

 

 しょんぼりとする親友を慰めながら、ほのかは自分にも言い聞かせているように深雪には思えてならないのだった。




というか、教室でするなよ……

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