達也の予想は的中した。深雪を一高に送り、FLTに向かう為に着替え終えたタイミングで、風間から電話が入った。
『大黒特尉。ここ最近、貴官との間の信頼関係を損なうような事態が続いたことは遺憾に思う。だが知っての通り、非常事態が発生した。すぐに基地まで来てもらえないだろうか』
「了解しました」
風間の、ある意味虫が良いとも思われる要請に、達也は二つ返事で頷いた。国防軍と喧嘩しても、いい事は何もない。それに、つまらない意地を張っている場合ではなかった。
『すまない』
そんな達也の心情を知ってか知らずか、風間は言葉少なげに頭を下げた。達也は風間との電話を切り、独立魔装大隊の基地へと向かう準備を済ませたのだった。
極東で起こった軍事衝突のニュースは、光宣も達也と同じ時間に見ていた。光宣は昨晩激しい戦いに勝利したばかりだったが、惰眠を貪るような真似はしなかった。なお、レイモンドもレグルスも、まだ起きてきていない。パラサイトの性質上、時差ボケではないのは明らかだ。
「こんなこと考えちゃいけないんだろうけど……」
これはチャンスに繋がるかもしれない。光宣はそう思った。
「(軍事衝突が長引けば、十師族も日本海側に注意を集中しなければならなくなる。短期間で決着したとしても、勝利した側が余勢を駆って日本海を南下すれば十師族はそれに対応しなければならなくなり、僕に構っている所ではなくなる……)」
テレビの解説者が正しければ、この戦争は達也がベゾブラゾフに反撃して大きなダメージを与えたことが引き金になっている。
「(達也さんは皮肉に感じるだろうけど、これも因果応報というものかな)」
ベゾブラゾフの攻撃により水波は傷つき、ベゾブラゾフを倒した事の影響で巡り巡って、達也は水波を守る余裕を失う。光宣が考えた通りになれば、達也にとって確かに皮肉な因果に違いなかった。
達也は巳焼島を訪れる予定とFLTに出社する予定をキャンセルして、独立魔装大隊本部がある霞ケ浦基地へ向かった。無論、この件は真夜に報告済みだ。都合よく直接話が出来たのだが、真夜は国防軍との関係を修復する事に前向きだった。多数の兵員を展開出来る国防軍の人的動員力は、やはり捨て難いということらしい。
「特尉、よく来てくれた」
風間の歓迎に、達也は敬礼で応えた。表情を動かしたのは副官の響子だ。風間中佐は当然という顔をして達也に礼を返した。
「今日来てもらったのは他でもない。ベゾブラゾフについて聞きたかったからだ」
伊豆の別荘で攻撃を受けた際、達也は仕留めた相手がベゾブラゾフでなかったと風間に教えた。だが一高が標的となった後の事は、軍に伝えていない。本家には報告してあるので、四葉家から国防軍に情報提供がされているのであれば、改めて達也が語る事は無いが、どうやらそうではなかったようだ。
「自分はベゾブラゾフに対して直接の攻撃はしておりません。ただ、稼働中の大型CADを分解しましたので、何らかのダメージを負っている可能性はあります」
「先日教えてもらった、列車型のCADか」
「そうです」
「稼働中のCADに接続している状態でそのCADを破壊されると、魔法演算領域を通じて精神に大きなダメージを被る。貴官が破壊したCADに、ベゾブラゾフが接続中だったという事だな?」
「あれ以降、トゥマーン・ボンバによる攻撃を受けておりませんので、その可能性が高いと思います」
「ふむ……」
風間が、与えられた情報を咀嚼するように考え込む。達也は無言で風間の表情を観察していたが、響子が不安そうな顔で達也を見詰めている事に気付き、無言で首を振る。
「……ベゾブラゾフが死亡した可能性はどの程度あると思う?」
「一パーセントもないでしょう」
「ゼロという事か」
「そう言い換えても構いません」
そう答えた後、達也は「あの件と無関係に事故死する可能性はゼロではありませんが」と言わずもがなの言葉を付け加えた。
「では、復帰の時期はどうだ。今回の大亜連合による侵攻に、ベゾブラゾフは間に合うと思うか?」
「新ソ連軍首脳部がベゾブラゾフを使い潰しても構わないと考えているのであれば、今日にでも投入可能でしょう。しかし十分な戦果を望むのであるば、すぐには無理だと思われます」
「具体的には、どの程度かかると思う?」
「過去の事例が当てはまるとすれば、CAD強制切断のダメージからの回復に要する期間は十日間から二十日間です」
今日は金曜日。一高がトゥマーン・ボンバで攻撃されそうになったのは、先週の木曜日の事である。
「つまり早くて二日、長くて二週間か」
「そうなります」
「……分かった」
頷いた風間に、今度は達也の方から話しかけた。
「中佐。自分の方からも、お話ししておきたい事があります」
「言ってみたまえ」
「既にご存知かもしれませんが、この国が再びパラサイトの脅威に曝されています」
「九島家の事なら知っている」
「USNAでも新たにパラサイトが発生しました」
「なに……?」
どうやら国防軍は、この件を掴んでいないようだ。あるいは風間の所まで情報が下りていないのか。そのどちらであれ、達也に出し惜しみする気はなかった。
外務省も国防軍も情報網緩すぎ……