劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あくまでバックアップですが……


風間との取引

 風間の驚いた顔は珍しいと達也は感じたが、そんな事で時間を無駄にしている余裕は達也に無いので、すぐに情報を開示した。

 

「先週、スターズの本部基地でパラサイト化した隊員による叛乱が発生しました。現在スターズは、パラサイトによって事実上占拠されている状況にあります」

 

「……それはシリウス少佐から聞き出した情報か?」

 

「いいえ。九島閣下の縁者であり、自分の婚約者の一人である九島リーナ嬢が話してくれた事実です」

 

「……そうか」

 

 

 ここでも達也は、自分が匿っているのは「シリウス少佐」では無いと言外に主張し、風間にもこの話を蒸し返すつもりは無いようだった。

 

「そしてどうやらパラサイトが少なくとも二体、日本に潜入したようです」

 

「なに!?」

 

 

 風間の表情に驚きだけでなく焦りが混じる。

 

「関空を警備していた警察が、テレパシーを使う密入国者を発見したそうです。ロスからの直行便で来日した乗客ですので、時期的に考えて一人はパラサイト化したスターズの可能性が高いと思われます」

 

 

 達也は既に、潜入したもう一人がスターズの隊員であるジェイコブ・ロジャース――通称レグルスであることをリーナから聞いているが、それを風間に告げるつもりは無かった。

 

「……佐伯閣下にうかがってみよう」

 

「そうされた方が良いと思います」

 

 

 阪神地区の警察も、自分の手元だけで情報を留めておくつもりは無いはずだ。中央に報告せず、十師族に情報を流すというのは考え難い。警察が軍に情報を流すかどうかは微妙なところだ。警察が縄張り意識を発揮して国防軍の力を借りるのは良しとしないかもしれない。だがそうであっても、佐伯が私的なルートから詳しい情報を仕入れている可能性は低くない。

 

「それで、一人はというのは、どういう意味だ?」

 

「二人組の片割れは、レイモンド・クラークでした」

 

「……本当か?」

 

「警察が撮影した写真で確認しました。ほぼ間違いありません」

 

「特尉」

 

 

 それまで風間の斜め後ろで控えていた響子が、「思わず」といった感じで口を挿んだ。

 

「レイモンド・クラークというのは、あのエドワード・クラークの?」

 

「はい。ディオーネー計画の発案者、エドワード・クラークの息子です」

 

 

 達也はいったん言葉を切って、思い出したように付け加えた。

 

「そしてエシュロンⅢのバックドアを利用した情報収集システム『フリズスキャルヴ』を運用していた『七賢人』の一人、トーラス・シルバーの正体を暴露した張本人でもあります」

 

「……待って、特尉。情報が多すぎて頭がどうにかなりそう」

 

「本題はここからなんですが……」

 

 

 響子の「一休みさせて欲しい」という泣き言に、達也は軽く頭を掻いて響子を抱きしめて落ち着かせる。

 

「特尉、先を頼む」

 

「では、四葉家の司波達也として、国防軍独立魔装大隊に協力を要請します」

 

 

 風間の目が強い光を放ち、達也に抱き留められていた響子も体勢を正した。

 

「密入国したパラサイトは、同じくパラサイト化した九島光宣と結託した可能性が高いと考えられます」

 

 

 光宣の名前を聞いて、響子の顔から血の気が引いた。しかし光宣がパラサイト化したことは、達也も響子に伝えているし、九島家を通じて教えられているはずだ。この場で響子の心情をケアする時間を割く余裕は、達也には無かった。

 

「また、スターズが日本で非合法活動を行うとして、送り込んでくるのが一人だけとは考えられません」

 

 

 ここで達也は、レイモンドを人数から除外している。レイモンドを軽んじているわけではない。パラサイト化した以上、侮れない力を身につけていると予測している。ただスターズの方で、人数に数えていないだろうと推測しているだけだ。

 

「必ず、増援があるはずです。それも、近い内に」

 

「そうだろうな」

 

 

 達也の推測は論理的で、風間も反論は無かった。そこで達也は話の焦点を、スターズから光宣に移した。

 

「九島光宣の目的は、当家使用人の桜井水波です。九島光宣がスターズと共同戦線を張れば、四葉家の力を以てしても桜井水波を守り切れない可能性があります」

 

「護衛の兵を貸せという事かね?」

 

「いいえ。横須賀や座間のような共同利用基地を使ってスターズが侵入を試みた場合、これを阻止していただけないでしょうか」

 

 

 四葉家は首都圏の民間空港と軍事基地を監視している。だが国防軍の基地は、外部からしか監視できない。内部に潜り込めない事は無いが、現下の情勢では手間が掛かりすぎる。

 それよりも、国防軍の基地は国防軍に監視してもらった方が、合理的で手間もかからない。そもそも非合法活動を目的とする部隊の侵入阻止は、国防軍の為すべき仕事である――たとえそれが同盟軍の部隊であろうと。

 

「――分かった。旅団長閣下を通じて、軍令部に掛け合ってみよう」

 

 

 風間が達也に代替条件を出さなかったのは、彼もこれが国防軍の仕事だと理解していたからだった。情報が無かったから手を打っていなかっただけで、風間は国防軍の仕事を疎かにするつもりは無い。伊豆半島の観測も、国防軍の一員として、外国の戦略級魔法師の力を把握しておく必要が高いと考えたからなのだ。




情報網としてしか期待してない……

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