劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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絡みはあまりありませんが


深雪と幹比古

 大亜連合による新ソビエト領侵攻が勃発した翌日。極東、新ソ連沿岸海域では一進一退の攻防が繰り広げられていた。世界中がこの紛争に注目していたが、中でも日本は戦場に隣接してると言っていい、強い関心と警戒を懐いて戦況の推移を観察していた。

 第三次世界大戦当時の、核兵器の使用を禁じるルールは今も生きている。国際魔法協会が介入するのは「汚い核兵器」が使われようとした時だけだが、これに準じて環境を汚染する生物兵器や化学兵器、有害な残留物を発生させる大威力爆弾、大気中に有害物質をまき散らす種類のサーモバリック爆薬も「自主規制」されている。その為、現代の戦争は昔ながらの弾丸、破片で殺傷する爆弾、そして高価な「環境に優しい」高威力爆弾が主体となっている。「金持ち」の軍隊であれば、そこに電磁波兵器やレーザー兵器が混ざってくる。

 つまり何が言いたいのかというと、古いタイプの兵器が未だに主流を占めている所為で、まともな軍同士が衝突すると戦争が長引く傾向があるという事だ。なおこの場合の「まともな」とは「兵站がしっかりしてる」という意味である。

 短期間で敵を打ち倒すには、相手が持っていない兵器が必要だった。大亜連合の勝算の元は『霹靂塔』。戦略級魔法だ。新ソ連の戦略級魔法師が出動できないと予想して、大亜連合はこの戦いを仕掛けている。世界の軍事専門家が推測した通りだった。

 しかし、一日程度では決着はつかなかった。大亜連合は初日から戦略級魔法師・劉麗蕾を投入し、彼女が加わった戦場では戦い優位に進めている。だが『霹靂塔』は、全戦場をカバー出来るような魔法ではない。もしそんな魔法があったとしても、敵味方が接近している陸戦では使いどころが難しい。戦略級魔法は、世の人々が考えている程、便利なものではないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は土曜日。余暇と創造性を混同した一時期と違って、週休二日の学校は芸術の専門教育を謳う一部の中学校、高校だけだ。魔法科高校も当然、授業がある。達也は今朝も深雪を学校まで送っていた。水波が入院中で、彼女の代わりが四葉家から派遣される予定は今のところない。達也は既に『ガーディアン』ではないが、彼が深雪の登校に同行するのはボディガードを兼ねてだった。

 

「達也様、この後のご予定は?」

 

「午前中は巳焼島に行こうと思っている。午後は幹比古の予定次第で、封玉の訓練をするつもりだ」

 

「では帰りもお会いできるのですね」

 

 

 達也は一高までのエスコートを好きでやっているだけで、一高内部で深雪が襲われるとは思っていない。そもそも深雪を守るだけなら、物理的な近距離にいる必要は無い。先日、ベゾブラゾフの攻撃も警戒していた最中は、効果的な反撃を行う為という側面が強かったからだ。

 

「それでは達也様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 

 まるで新妻が夫を見送るような言葉に、達也は深雪の髪を軽く梳いてからマンションへ戻っていった。

 

「見てたわよ~」

 

「エリカ」

 

「あたしたちは最近達也くんといられる時間が短いけど、深雪もあんまり一緒にいられないんだね」

 

「今の達也様の状況を考えれば、一緒にいられなくても仕方がないわよ」

 

 

 エリカに対して肩を竦めて、深雪は昇降口まで歩き始める。それを追いかけるように、エリカも昇降口に向かい始める。

 

「ところでエリカ、他の人たちは?」

 

「あたしはちょっと用事があって遅く来たから、もう教室にいるんじゃないかな?」

 

「そうなの……ところで用事って?」

 

「まぁちょっとした野暮用よ……あんまり会いたくなかったけど、光宣の事でいろいろと聞かれたのよ」

 

「あぁ、渡辺先輩ね」

 

「七草先輩や市原先輩に聞けばいいのに、何であたしに聞くのよ」

 

「もう義理の妹も同然なんだから、聞きやすいと考えたんじゃないの?」

 

「確かにあの女と次兄上が婚約したのは確かだけど、あたしはあの二人の仲を認めたわけじゃないわよ」

 

「まぁまぁエリカ。私に憤慨されても困るんだけど?」

 

「……ゴメン」

 

 

 自分の頭に血が上っていた自覚があるので、エリカはすぐに大人しくなった。そして昇降口で別れ、深雪は一科生の教室へ向かった。

 

「あら、吉田君」

 

「深雪さん? おはようございます。今日は達也はいないんですか?」

 

 

 深雪の姿を見て、幹比古は達也の所在を尋ねた。彼は既に達也の練習を手伝っており、彼の力になれている事が嬉しかった。だからではないが、ここが一科生の昇降口だという事を失念してそれを尋ねたのだった。

 

「吉田君。ここは一科生の昇降口ですし、例え達也様が登校していたとしても、ここにはいませんよ」

 

「あっ、そうでしたね……それじゃあ今日も達也は」

 

「午前中は巳焼島に行くと仰っておりましたが、午後はこっちに顔を出す予定だと伺っております。吉田君の都合が良ければ、今日もお願いしたいと」

 

「もちろんですよ。前に達也にも言いましたが、パラサイトという妖魔を相手にするのは、本来古式魔法師の仕事ですから」

 

「頼もしいですね。私はあまり役に立てませんが、応援だけはさせていただきますね」

 

 

 幹比古に一礼してから、深雪はA組へ、幹比古はB組へ入っていった。




原作でもあんまり喋ってるシーンないですし……

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