劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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新魔法の開発

 一応制服を着ていた達也は、一度マンションに戻ってもっとラフな服に着替えてエアカーで巳焼島に直行した。第一の目的は魔法研究の為だが、リーナからずっと目を離しているのは不安だから、でもあった。案の定、リーナは早くも暇を持て余しており、用もないのに研究中の達也のところへ押しかけてきた。

 

「……達也、何をしているの?」

 

「魔法を創っている」

 

「コンピューターだけで!?」

 

「そんなに驚く事か? 例の『ブリオネイク』を作った君の技術者だって、似たような事は出来るだろう?」

 

 

 『ブリオネイク』はFAE理論を技術として実用化し、戦略級魔法『ヘヴィ・メタル・バースト』を局地戦、対人戦闘でも使用可能にした魔法兵器だ。FAE理論――フリー・アフター・エグゼキューション理論、日本では後発事象可変理論とも呼ばれている、「魔法で改変された結果として生じる現象は、本来この世界には無いはずの事象であるが故に改変直後のごく短い時間は物理法則の束縛が緩く、それに続く事象改変が容易になる」という理論だ。

 達也の『バリオン・ランス』にもこの理論が使われているが、『バリオン・ランス』は『ブリオネイク』を参考にして作ったもの。『ブリオネイク』の開発者は、達也が心の中で白旗を揚げ、何時か会ってみたいと強く念じている相手だった。

 

「確かにアビーも、自分のデスクだけで魔法の改造とかしてたけど」

 

 

 ブリオネイクを開発した技術者は『アビー』と言うのかと、達也は心のメモ帳に、その名をこっそり書きつけた。

 

「でも、新しい魔法を創る時には、途中で何度も実験してるわよ?」

 

「この魔法も、一から創っているわけではないからな」

 

 

 達也は「アビー」という技術者への興味をおくびにも出さず、リーナの疑問に答えた。

 

「先日『トゥマーン・ボンバ』を視る機会があったので、あれを俺たちにも使える別の魔法に応用できないかと考えた。『トゥマーン・ボンバ』は複雑すぎて簡単には使えない」

 

 

 達也は「大掛かりな装置が必要で簡単には使えない」という意味で言ったのだが、リーナは「要求される魔法力が高過ぎて簡単には使えない」と解釈した。もちろんそれも、間違いではないので、達也はリーナが頷いたのを見て、詳しい説明を省いた。

 

「……えっ!? ちょっと待って! もしかして創ろうとしている魔法って、戦略級魔法なの?」

 

「分類上はそうなる」

 

 

 一拍置いてリーナが調子はずれな声を出し、達也も慣れてきたのか失笑を漏らすことも無く淡々と答えた。

 

「呆れた……グレート・ボム……いえ、『マテリアル・バースト』だったかしら? あんなデタラメな魔法を持っているのに、新しい戦略級魔法を身に着けようというの? 魔王にでもなるつもり?」

 

「リーナはゲーマーだったのか」

 

「ゲ、ゲームなんかしてなくても、みんな『魔王』くらい当たり前に知ってるでしょう!」

 

 

 リーナが注文通りムキになってくれて、達也は少し溜飲が下がった。彼を魔王扱いしたがる人間が増えてきて、達也は少々うんざりしていたのである。

 

「この魔法を自分で使うつもりは無いぞ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「君の言う通りだよ、リーナ。戦略級魔法なんて、一つ持っていれば十分だ。あんなもの、使いどころが限定される所為で普段は役に立たないくせに、持っているだけでしがらみが山のようについてくる」

 

「分かるわ」

 

 

 リーナが文脈を無視して、力強く同意する。同じ戦略級魔法師として、リーナも思うところが多々あるのだろう。

 

「これが完成すれば、別の魔法師に使わせる」

 

 

 達也は苦笑をもっともらしい表情に隠してこう続けた。

 

「使えそうなやつには心当たりがある。そいつが新たな『使徒』として名乗りを上げてくれれば、鬱陶しいしがらみも多少は減るだろう」

 

「そうね」

 

 

 リーナは「しがらみ」にばかり気を取られて、肝腎の部分に注意を払っていなかった。もしこの場にミアが同席していれば気付いたかもしれないが、日本に新たな国家公認戦略級魔法師が誕生するという、世界の軍事バランスに大変動をもたらすその一言に、リーナは気づけなかった。

 

「さて、俺はそろそろ東京に戻るよ」

 

「もう? さっき来たばかりじゃなかったの?」

 

「こっちばかりに気を取られているわけにもいかないからな。まだパラサイトを封じる術式も完成していない」

 

「こっちで魔法を創って、あっちでも魔法を創ってるの? パラサイトを封じる術式は、コンピューターだけじゃ完成しないの?」

 

「術式自体は完成していると言えるのだが、使ってみてどうも手応えが無いだけだ。封じる術式に必要なのは、回数を重ね『使える魔法』にする事だからな」

 

「ふーん……なんだか大変そうね」

 

「リーナがUSNAでパラサイトの増殖を止めてさえくれていれば、こんなに大変な思いはしなかっただろうな」

 

「……悪かったわね」

 

 

 達也が本気で自分の事を責めているわけではないと分かってはいるが、どうにも居心地の悪さを感じ、リーナはそそくさと研究所を後にした。達也もリーナを追い払う事に成功したのを受けて、開発中のデータを保存して行きと同じくエアカーで東京まで直行したのだった。




したと思ったんだがな……

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