劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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倍率は割と高め


場所取り合戦

 生徒会業務を終えて昇降口にやってきたほのかたちは、待ち合わせ場所に達也がいるのを見つけ、駆け足で近寄ってきた。

 

「達也さんっ! いらしてたんですね!」

 

「あぁ、午後からな」

 

「来てたなら顔を出してくれればよかったのに」

 

「ほのか、雫。達也様はパラサイトを封印する術式を改良するために吉田君と特訓していたのよ。生徒会に顔を出してる暇は無いのよ」

 

「というか、達也は最初風紀委員会本部に来たんだから、北山さんが生徒会室に行って無ければ会えたと思うんだけど」

 

 

 幹比古の言葉に、雫は生徒会室に遊びに行った自分を殴りたい衝動に駆られたが、そんな事をしても意味はないと分かっているので、思っただけで実行には移さなかった。

 

「それじゃあ揃った事だし、駅にいきましょ? 達也くんも電車だよね?」

 

「まぁな」

 

 

 深雪の送り迎えだけなら車でやってくるが、自分が学校に用がある時は大抵は電車でやってきているのを知っているので、エリカが素早く達也の右側を確保した。左側に立っていた幹比古は、複数の視線を感じてその場から二歩離れ、そのすぐ後に雫がその場に滑り込んだ。

 

「相変わらず達也の隣を争ってるんだな」

 

「まぁ、ここ最近は達也が学校に来てない日もあったから、前よりも熾烈だよね」

 

「それだけ達也さんの事を想ってるんでしょうね」

 

 

 レオ、幹比古、美月の言葉に他のメンバーは力強く頷き、達也と泉美は苦笑いを浮かべた。この中で唯一と言っていいくらい達也に興味がない泉美だからこそ、達也と同じような表情を浮かべられたのだろう。

 

「ところで達也様、この後のご予定は?」

 

「差し迫ったものはないが、何かあるのか?」

 

「皆で寄り道しようって話があるんだけど、達也くんも来る?」

 

 

 ここにいる殆どの人間が、達也に遊んでる時間など無いという事は理解している。だがここ数日、達也が不在だった事や、数人は精神的に楽が出来るという理由から達也に同行して欲しいと願っている。

 

「少しくらいなら問題ない。焦っても仕方のない事だしな」

 

「桜井の方は良いのか? いつ襲われるか分からないんだろ?」

 

「光宣も馬鹿ではないからな。次の策を用意するのに時間がかかるだろうし、監視は他の人間に任せてあるから、俺や深雪が毎日病院に顔を出す必要は無い。もちろん、見舞いなどは行くがな」

 

「そりゃそうだな。いくら達也でも、新魔法の開発と光宣の監視を同時にやれって言われれば大変だもんな」

 

「それ以外にも達也くんには、例のエネルギープラント計画の準備とかもあるもんね。学校に来てる暇がないのも仕方ないか」

 

 

 校長から直々に授業を免除すると言われているのもあるが、元々達也に高等教育が必要ないという事はここにいる全員が理解している。だから無理に授業に参加して欲しい――つまり学校に来てほしいとは誰も言えないのだ。

 

「達也さんが忙しいのは分かりますけど、たまには顔を見せてくださいね? ここ最近家の中の雰囲気が暗い物になってきてますし……」

 

「あっ、それはあたしも思ってた。七草先輩なんて、この間凄い顔をしてたもんね」

 

「それって何時?」

 

「木曜日の夜、だったかな……」

 

「あぁ、それならたぶん――」

 

「深雪先輩! その事は……」

 

「あらそう? 泉美ちゃんが内緒にしておいた方がい良いっていうなら、私からは何も言えないわね」

 

 

 真由美の機嫌が傾いていた原因は光宣に負けたからだという事を知っている深雪は、意味ありげに微笑んでエリカたちにそう告げた。その所為で上級生の大半の視線は泉美に向けられたが、泉美とその隣にいた香澄も何も言わずに俯いて視線の追及を避けた。

 

「ここに来るのって、前に達也からパラサイトの事を聞かされて以来か?」

 

「そうね。達也くんがいないんじゃ、寄っても仕方ないし」

 

「自分で払えば良いだろ」

 

「何か言った?」

 

「いいや、何も」

 

 

 エリカから鋭い視線と、むき出しの怒気を向けられ、幹比古はすぐに誤魔化して視線を明後日の方へ向ける。幹比古の隣では美月がクスクスと笑っており、エリカも幹比古が何を言ったかは聞こえていたが、攻撃することなくやり取りを終わらせた。

 

「いらっしゃい。おや、今日は大勢で」

 

「お邪魔します、マスター」

 

「奥の席が空いてるよ」

 

「今日は普通の客ですので、別に奥である必要はありませんが」

 

「見ての通り繁盛しててね。奥の方しか空いてないんだよ」

 

 

 珍しく――といってはマスターに失礼かもしれないが――混んでいる店内を見て、達也は苦笑いを浮かべながら頷き、奥の席へと移動する。六人掛けテーブル二つに分かれ、達也の右隣はエリカ、左隣は雫、正面に深雪が腰を下ろし、深雪の右隣りにほのか、左隣には香澄が腰を下ろした。なお、香澄が腰を下ろした位置を狙っていた泉美は、恨みがましく双子の姉を睨みつけながらもう一つのテーブルの方へ腰を下ろした。

 

「何だか場違い感が凄いんだが……」

 

「侍朗くんも感じてた? 実は私も……」

 

 

 先ほどから黙ってついて来ていた一年生カップル二人が、気まずそうに小声で会話をしていると、レオと幹比古と美月がそれに気づき肩を竦めて見せたのだった。




詩奈は侍朗は居辛いだろうな……

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