劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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実行までが早いな……


作戦実行

 その日の夜は、ここ最近では珍しい星空だった。月はまだ出ていない。今日の月の出は、真夜中近くだ。達也は座間基地から道路二つを隔てた大きな公園の駐車場にいた。基地とは反対側だ。当然、ここから座間基地は視認できない。

 

「レオ、本当に良いのか?」

 

 

 疑っていたわけではないが、レオは本当に幹比古と連れ立って現れた。

 

「幹比古には聞かないのに、何で俺には念を押すんだよ」

 

 

 達也から問われ、レオは不服そうに答えた。彼としては、ここまで来て「帰れ」と言われたところで、素直に帰るつもりは無いし、達也がそんな事を言うとは思っていなかったのだろう。

 

「俺としては、本当は幹比古も巻き込みたくないんだが」

 

「でも、僕の力が必要なんだろ?」

 

 

 幹比古に問われ、達也は渋々「まぁな」と認めた。達也の表情とは反対に、幹比古はそう言ってもらえて嬉しそうだ。その横では、レオが少し不服そうな表情をしたが、すぐに何か考え付いたような表情に変わり、達也の顔を見た。

 

「幹比古が構わないんだったら、俺も良いだろ。『的』にならない分、幹比古よりリスクは無いんだからよ」

 

 

 確かに幹比古は遠隔魔法、それも呪法と呼ばれる類いの術を使う関係で、魔法的なカウンターを喰らう危険性がある。だが魔法を辿って反撃部隊が襲来すれば、レオも戦闘に巻き込まれることになる。

 

「仕方ないな」

 

 

 ここで問答しても無駄だという事は達也にも分かっている。放課後にもレオの意思は確認済みだ。それに、意識を基地内に飛ばしている最中の幹比古を守ってくれるというなら、達也としても助かるのは確かだった。――今の達也にとっては、独立魔装大隊よりレオの方が信頼出来る。

 

「幹比古、頼むぞ。レオは幹比古の事をよろしくな」

 

「うん、任せて」

 

「おう、任された」

 

 

 達也がバイクに跨る。四葉家が開発した短距離飛行機能付きの電動二輪『ウイングレス』だ。彼が着ている戦闘服も『ムーバル・スーツ』ではなく、四葉家の飛行戦闘服『フリードスーツ』だ。今夜の作戦は表向き、第一○一旅団とは無関係という事になっている。独立魔装大隊からいざという時の援軍は派遣されているが、彼らが行動を起こすのは本当に「いざ」という時で、それまでは隠れている段取りになっている。

 

「行ってくる」

 

 

 達也はヘルメットのバイザーを閉じて、バイクを発進させた。

 

「……本当に一人で行っちまったな」

 

「仕方ないよ。僕たちが付いていっても、足手纏いにしかならないんだから」

 

「まぁな。あの深雪さんですら、足手纏いになりかねないってんだから、俺たちじゃ足手纏いどころか邪魔をするだけだろうな」

 

「悔しいけど、それだけ達也の能力は突出しているんだと思うよ」

 

「ちげぇねぇ」

 

 

 遠ざかるバイクを見詰めながら、二人は緊張感に欠ける会話をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 USNA軍の輸送機は、丁度到着したところだった。滑走路をゆっくりと移動している。念の為、響子が直前に発着記録を調べたが、今日はこの機以外に米軍の機体は着陸していない。過去一週間で見ても、唯一の米軍機だった。

 

「(ベストに近いタイミングだな)」

 

 

 輸送機には確かにパラサイトが乗っていた。光宣のように、特徴的な想子波のパターンを隠蔽していない。あるいは、出来ないのか。

 

「(パラサイトは全部で四体。意外に少ないな。一体だけ、突出して魔法力が高い……か)」

 

 

 基地のすぐ横を通っている道路を走りながら『エレメンタル・サイト』で観察していた達也は、パラサイトが輸送機から降りる前に決着を付けるべく『ウイングレス』の飛行機能を起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 座間基地に着陸した輸送機には、スターズ第三隊隊長、アレクサンダー・アークトゥルスが乗っていた。

 

「(見られている……?)」

 

 

 タキシングする輸送機の中で、アークトゥルスは心の中で独白した。着陸直後から感じる視線。だが、その視線には方向性が無かった。

 遠隔視ならば、その力の流れが視線の向きとなって感じられる。使い魔による監視ならば、その使い魔が視線の源となる。様々な角度から死角なしの監視を可能とする『マルチスコープ』という名の異能もあるが、あれは空中に中継カメラを何台も並べているようなものだ。複数の使い魔から同時に監視を受けているのと同じで、方向性が無いわけではない。

 しかし今、アークトゥルスが漠然と感じている視線には、「何処から」という要素がまるで見いだせなかった。あらゆる方向から、ですらない。ただ、見られている。まるで神か悪魔に見つめられているようだ……。その「視線」に気を取られていた所為だろう。同乗者が声を上げるまで、アークトゥルスはその異様な飛行物体の接近に気付けていなかった。

 

「何だ、あれは!?」

 

「バイクか!?」

 

 

 機外モニターに映る、小さなシルエット。警戒システムが自動で暗視処理、ズームアップした時には、その「物体」は輸送機の目前まで迫っていた。

 空を飛ぶバイクに跨る、一個の人影。その人影はステップを踏みしめ膝を伸ばして立ち、拳銃のような物を輸送機に向けていた。

 突如、輸送機に穴が空いた。バイクからライダーが飛び降りる。バイクはそのまま輸送機を飛び越え、ライダーは壁の穴から機内に飛び込んできた。思い出したように、輸送機内で警報が鳴った。




侵入の仕方の次元が違う

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