劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1616 / 2283
手助けがあるとはいえ……


妖魔封印

 達也はバイクごと輸送機に向かって飛び、スーツのホルスターから拳銃形態の特化型CADを抜いた。シルバー・ホーン・カスタム『トライデント』。彼は愛用のCADを使って『分解』を発動した。輸送機の壁面に、達也が飛び込めるだけの穴を空ける。

 達也は『ウイングレス』を自動操縦に切り替え、自分が空けた穴を目掛けて飛び降りた。軽く腰を落とした姿勢で、輸送機の床に着地する。その直後、輸送機壁面の穴が消えた。『再成』による修復だ。

 自らを密室に閉じ込めたのは、パラサイトを外に出さない為だ。機内の米軍兵は、事態についていけないのか座ったまま竦んでいる。パラサイトも同じだ。

 達也は最も近い位置にいたパラサイトに突進した。CADは両方ともホルスターに戻してある。彼の右手には細く短い、針のようなナイフが握られていた。その狭い刀身には、細かい模様が彫り込まれている。

 達也に狙われたパラサイトが驚愕の呪縛から抜け出して腰を浮かせた。達也はナイフではなく、左拳を突き出した。インパクトの直前、握り締めていた拳を開く。ゼロ距離で、パラサイトに『徹甲想子弾』が叩き込まれた。悲鳴を上げ、痙攣するパラサイト。達也はその左鎖骨のすぐ下に、右手のナイフを突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地から道路二つ隔てた公園で、幹比古が呟く。

 

「来た……!」

 

 

 彼が用意した封印用の呪具が、妖魔の身体に打ち込まれた反応を察知したのだ。達也が持っていた針のような細い短剣。それこそが刀身を呪符とした方具だった。幹比古の左手には、短剣と対になっている呪符が扇となって握られている。反応があった呪符を右手で引き抜き、幹比古は封印術式を発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痙攣していたパラサイトが、突如糸の切れた操り人形のように動きを止めた。ナイフを鎖骨の下に突き刺したまま、床に崩れ落ちるパラサイト。『徹甲想子弾』で体内の想子を掻き乱され、精神と肉体のリンクが揺らいでいる最中に封印術式を流し込まれたのだ。生まれたての妖魔には、対抗の術が無かった。ナイフを抜いても、肉を焼き骨に刻まれた封印術式は解けない。幹比古以上の魔法技術を持つ術者がいなければ、パラサイトは仮死状態で眠ったままだ。

 同僚の悲鳴が兵士の呪縛を解いたのか、腰を抜かしたように座っていたアメリカ兵が一斉に立ち上がった。銃を向けるその顔に、躊躇いは欠片もない。

 達也は二十丁を超えるアサルトカービンとサブマシンガンを、同時に分解した。突如銃を失って、米兵の心に再び空白が生まれる。達也はその隙に、二人目のパラサイトを「処理」した。繰り返される痙攣と脱力。封印の光景。ここで、達也が唯一警戒していた魔法力の持ち主が動いた。

 

 

 

 

 

 

 アークトゥルスは目の前で何が起こっているのか、理解出来なかった。突如輸送機に穿たれた穴は、まるでそれが夢か幻だったように消え失せている。だが、その穴から飛び込んできた侵入者は消えなかった。消えるどころか、彼らが新しく仲間に加えた元スターダストの隊員を、一瞬とも言える短時間で封印してしまった。

 スターダストは死を待つだけの実験体。彼らはパラサイトになった事で、不可避の死から逃れたはずだったが、パラサイトとしては死んだも同然の状態に落とされた。同乗していた友軍兵士が、侵入者に銃を向けた。彼らはパラサイトではないが、彼らから見れば侵入者は、同胞を殺したテロリストだ。銃口の数は二十以上。狭い機内では逃れようもない。あのライディングスーツが防弾機能を持っていたとしても、至近距離から何十発もの銃弾を撃ち込まれれば無傷では済まないはずだ。

 しかしその瞬間、強力な魔法が機内を駆け巡った。力が強いだけではない。強力であると同時に精確な、無駄の無い、芸術的な魔法だった。二十丁以上のアサルトカービンとサブマシンガンが、部品となって飛び散った。弾倉も、弾を吐き出して床に転がっている。銃口から発射された弾丸は、一発も無かった。

 予想外の展開に、というよりその魔法に見惚れていた所為で、アークトゥルスはまたしても仲間を見殺しにしてしまう。

 二人目の仲間が封印された。その光景を見てアークトゥルスはトマホークを抜いて侵入者に斬りかかった。彼の本分は『ダンシング・ブレイズ』を用いた中距離の戦いだ。アークトゥルス本来の精霊魔法は索敵と武器の遠隔操作、対精神干渉系魔法用で、直接攻撃に用いるものではない。こんな狭い空間での戦闘は、魔法師としては苦手だった。

 だが彼は魔法しか使えないひ弱な「魔法使い」ではない。トマホークを使った白兵戦は、スターズに入隊するまで負け知らずだった。踏み込み、間合いに捉え、トマホークを振り下ろす。一撃必殺とは考えていなかったが、避けられるタイミングでもない、と思っていた。だが、侵入者はトマホークを躱したばかりか、アークトゥルスの前から消えた。

 アークトゥルスが振り返る。恐らく、自分を援護しようとしていたのだろう。アークトゥルスが見たものは、大型ナイフを右手に握った三人目の仲間が、激しく痙攣する身体の左鎖骨の下に、針のような短剣を刺された直後の光景だった。




相手にならないとは……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。