劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼の使い道は肉の壁だけではない


レオの実力

 三人目の仲間が封印される光景を見て、アークトゥルスはただそれを見ていただけでは無かった。

 

「(このままでは、最後の仲間も封印されてしまう。だがこの封印の魔法を使っているのは、目の前の侵入者ではない。この男を倒しても、封印は止らない)」

 

 

 その思考は、アークトゥルスの脳裏を一瞬で駆けて行った。アークトゥルスが、手にしたトマホークを投げた。トマホークは輸送機の壁を突き破って、空へ駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也は強い魔法の気配に振り返った。三人目の封印は、これ以上彼が何もしなくても完了する。それよりも最後の一人、この場で最も手ごわいパラサイトが放った魔法に警戒するのは当然だった。

 四人目が放った魔法は、達也を攻撃するものでは無かった。信じがたい事に、四人目が投げたトマホークは、輸送機の壁を貫いて夜空に消えた。四人目が何をしようとしたのか、達也は気になったが、四人目が投げたトマホークを『エレメンタル・サイト』で追跡する余裕はなかった。戦闘ナイフを抜いて、四人目が襲いかかってくる。相手はスターズ第三隊隊長、アレクサンダー・アークトゥルス。『エレメンタル・サイト』を開放したまま意識を向ける事で、その情報が達也の『眼』に映る。リーナや光宣のように、情報体を偽装する能力は持っていない。

 達也はアークトゥルスのナイフを、手刀で迎え撃った。『フリードスーツ』には、ホルスターのCADの他に完全思考操作型CADが組み込まれている。ゼロ距離射程の『分解』が、アークトゥルスのナイフを砂に変えた。

 背後から別の兵士が組み付いてきた。パラサイトではなく、魔法師でもない、一般兵だ。達也は身を翻してその兵士と体を入れ替え、アークトゥルスに向けて突き飛ばした。

 アークトゥルスが兵士を受け止める。達也が兵士の背中へ、貫通衝撃波を拳に乗せて放つ。武術でも、達人は同じ事が出来るらしいが、達也の技は魔法を併用したイミテーションだ。

 ただ、模造品であっても威力は同じ。アークトゥルスの百八十五センチの巨体が、後ろへよろめく。達也は自分が突き飛ばした兵士の襟首を右手で掴み、引きずり退ける反動でアークトゥルスに左手を突き出した。その手には『徹甲想子弾』。アークトゥルスの身体が痙攣する。右手で四本目の短剣を抜き、達也はアークトゥルスの鎖骨下に突き刺そうとした。だが、アークトゥルスの左手がそれを阻んだ。

 確かに『徹甲想子弾』は効いている。にも拘らず、アークトゥルスは戦闘力を失っていない。それどころか、彼は右手にプラズマを集め始めた。古式魔法による雷撃。あのやり方だと自分が先に感電するはずだが、そこはパラサイトの肉体の耐久性頼みなのか。アークトゥルスの右手から雷撃が放たれる前に、達也の左手が再びアークトゥルスの鳩尾を打った。その右手から、放電の火花が消失する。達也が右手でアークトゥルスの左手を撥ね上げ、ガードが戻ってくる前にナイフを突き刺した。封印術式の作動を確認する。達也はその結果を肉眼で確認する事なく、床に穴を開けて輸送機から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が脱出する少し前、幹比古が切迫した声を上げた。

 

「何かが来る!」

 

 

 レオは「何が」と尋ねるより先に、自分の五感を総動員した。耳が、風を切る音を捉える。高速で近づいてくる飛翔体。高速と言っても銃弾やミサイル程ではない。それでも時速二百キロは超えているだろう。野球の打球より早い、テニスの高速サーブより少し上か。レオは自分が経験した事のあるスピードに当てはめて、そう判断した。

 レオの目が、幹比古より先にその正体を把握する。回転するトマホークだ。彼は隠れていた軍人が飛び出してくるのも目の隅に留めた。

 レオは彼らを待たなかった。幹比古を背に、トマホークの前に立ったのは、本能的な行動だった。生存本能ではない。戦闘本能だ。

 

「ジークフリート!」

 

 

 レオが吼える。咆哮と共に両手を突き出す。その手がトマホークを――アレクサンダー・アークトゥルスの『ダンシング・ブレイズ』を受け止める。古式魔法師が念で強化した得物を、レオは『ジークフリート』で強化された肉体で掴み取った。レオの肉体不壊化魔法が、スターズ第三隊隊長を務めるアークトゥルスの切り札に打ち勝ったのだ。

 トマホークが完全に停止したのを手応えで確認して、レオは地面に尻餅をついた。それでも刃の頭部と柄の上部で掴んだトマホークを離さなかった。

 幹比古は、自分の盾になったレオを、見ていなかった。彼はパラサイトの封印に集中していた。それはきっと、レオが自分を守ってくれると確信していたからに違いない。

 

「達也の方も終わったみたいだし、僕たちも帰ろうか」

 

「おっ、終わったのか」

 

「達也ならこれくらい簡単だろうしね」

 

「幹比古が手伝ったからだろ? 達也一人だったら、もう少し時間がかかっただろうし」

 

「そうだと良いけどね」

 

 

 レオと幹比古は笑みを浮かべながら、その場から移動した。こうして座間基地から侵入しようとしたアークトゥルスと三体のパラサイトは、無事に封印された。




目立たないけどかなりの実力者……
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