達也が九校戦のメンバー選考をしているのとほぼ同時刻、三高でも急遽開催が決まった九校戦のメンバー選考の為に将輝と真紅郎が顔を合わせていた。
「今年は中止だって言われてたから何も準備してなかったな」
「それは何処の学校も同じだろうけど、開催されるなら勝ちにいかないと」
「そうだな」
過去二年、将輝も真紅郎も万全を期して九校戦に挑んだが、結果は一高に――というよりは達也に敗北を喫している。一昨年の新人戦、優勝間違いなしと言われていたが、不幸な事故によりモノリス・コードに達也が参戦し、正面から戦い負けた。また去年の九校戦も、達也は作戦参謀兼エンジニアとして参加しており、同じく作戦参謀としても参加していた真紅郎相手に完全勝利を収めている。
将輝と真紅郎は、達也だけを相手にしているわけではないのだが、どうしても達也を意識し、そして必要以上に勝ちにこだわってしまっていた。
「今年こそは司波達也に勝たなければ」
「去年までとは肩書が全く違ってるけど、そんなのは関係ないもんね」
去年までの達也は、あくまでも一高生徒の内の一人、というポジションだったが、今の達也は四葉家の跡取り、世界的に有名な魔工技師の片割れ、民間の企画ながらも国家プロジェクト級の扱いを受けている企画の総責任者という肩書がある。
「彼が参加するのはおかしいって声も上がってるみたいだけど、九校戦の参加資格は『魔法大学付属高等学校に在籍している人間』だもんね。彼が一高の生徒である以上、参加してもおかしくはない」
「些かチートじみてるが、アイツ相手に一度も勝てないまま終わるのは悔いが残るから、俺としては参加してもらった方がありがたいがな」
「『担当した選手が、実質無敗』なんて記録は、僕が止めてやる」
「期待してるぞ、ジョージ」
「任せてよ、将輝」
去年も似たようなやり取りをした気もするが、結果として達也が担当した選手は、お互いに潰しあっただけで実質無敗を継続し、今年の九校戦の注目箇所としても取り上げられているくらいだ。その記録を止めるという事に情熱を燃やしている真紅郎は、これまでにない作戦を考える為、九校戦までの日々を過ごすことに決めたのだった。
将輝たちが三高で燃えているのとは別に、三高女子メンバーは一高の教室で集まって話し合っていた。授業は一高で参加しているが、九校戦は三高のメンバーとして参加する事になっているので、あまり大っぴらに話し合えないのだが、その辺りは生徒会が気を利かせてくれたのか、この時間帯なら話しかけられる事もないのだ。
「一昨年、去年と司波深雪には苦渋をなめさせられましたが、今年こそは一泡吹かせて見せましょう」
「だが愛梨よ。深雪嬢の裏には達也殿が控えておるのじゃぞ？ 深雪嬢だけでも厄介じゃというのに、達也殿を超える作戦参謀が我が三高におると思っているのか？」
「吉祥寺辺りが燃えているらしいけど、達也さんに勝てるとは思えない。香蓮も達也さんには勝てないし」
「そもそも私では、吉祥寺君にも勝てるかどうか怪しいですけどね」
「そんな事はありませんわ。香蓮さんの実力は私たちが保証します。ですから、吉祥寺に負けているなどと言わないでくださいまし」
同じ二十八家、同学年という事もあり、愛梨と将輝はいろいろと競っていた。もちろん、性別の違いなどはあるのだが、成績や魔法大会の結果など、幼少期から色々と争っていたので、今でも相手に負けたくないという気持ちはある。だが達也と深雪の登場により、将輝は達也に、愛梨は深雪にライバル心を燃やすようになり、ここ最近では将輝と愛梨が競う事は少なくなってきていた。だがそれでも、相手に負けたくないという気持ちはあるのか、自分の参謀である香蓮が将輝の参謀である真紅郎に劣っているなど、例え本人が思っていても言って欲しくないのだった。
「まぁ、深雪嬢や達也殿は置いておくにしても、一高には他にも優秀な人材が大勢おるからの。一高に形だけとはいえ通って分かったが、過去二年の結果は、達也殿の作戦だけでは無いじゃろう」
「確かに現三年生には優秀な人材が揃っているようですが、一・二年のタレントでは我が三高の方が上だと思いますが？ 確かに七草の双子や七宝の御曹司など、実力者はいるようですが、突出しているのはそれくらいで、後は平均のように思えます」
「達也さんの側近、桜井水波も侮れない。魔法技能もだけど、常に冷静さを欠かないのは凄いと思う」
「確かにそうですね。四葉家で育てられたという事を差し引いても、あの精神力は称賛に値します」
「兎に角、今年こそは我が三高が勝利しなければいけませんわ。負けっ放しでは悔しいじゃありませんか！」
「愛梨、そんな大声出さなくても聞こえる」
「というか、さっきから遠巻きに見ておる者たちが、何事かと少し遠ざかったではないか」
何となく事情は察しているのだが、さすがにいきなり大声を出されれば距離を取りたがる。愛梨は自分たちを遠巻きに見ていた相手に視線を向け、目で謝辞を述べた。
「まぁ、愛梨さんの気持ちも分かりますので、私も出来る限りの事はさせていただきます」
「頼みましたわ、香蓮さん」
愛梨だけでなく、香蓮たちも負けっ放しでは悔しいと感じているので、それぞれライバル認定している相手の顔を思い浮かべ、全員で気合いを入れたのだった。
意気込んでも勝てるかどうか……