劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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改めて並べると凄いな……


達也の実績

 差し迫った用事もなく、達也は久しぶりにほのかたちと一緒に新居に帰ってきた。ここ最近はいろいろあって深雪のマンションで過ごす事や、巳焼島でそのまま過ごす事も多かったが、これから九校戦が終わるまでは、なるべく交互に過ごす事を約束させられ、今日はそのまま彼女たちに連行されるような形でこちらに帰ってきたのだ。

 

「あら、達也くんがこっちに帰ってくるなんて珍しいわね。すっかり忘れられてるのかと思ってたわ」

 

「七草先輩はいろいろと事情をご存じですよね?」

 

「知ってるわよ。というか、達也くん? 呼び方が元に戻ってるんだけど?」

 

「人に嫌味じみたことを言う人には、これで十分かと思いまして」

 

 

 再三のお願いの末、真由美は達也に名前で呼んでもらえるようになったのだが、どうやら先ほどの真由美の発言は達也の機嫌を損ねたらしいと、周りにいる他の婚約者たちは理解し、真由美も慌てて頭を下げる。彼女としてみれば、この程度で達也が機嫌を損ねるとは思って無かったので、その慌てっぷりは誰が見てもすぐにわかるくらいだった。

 

「ご、ゴメンなさい! ちょっとからかっただけよ」

 

「えぇ、分かってますよ。こちらも、本気で機嫌を損ねたわけではありませんので」

 

「……達也くん、相変わらず人が悪いわよ」

 

「言われ慣れているので、今更ですね」

 

 

 達也が本気で怒っているわけでは無いと分かり、真由美は肩の力を抜きながら弱々しく呟いた。そのやり取りが終わったのを見て、真由美の後ろで黙っていた鈴音が声をかけてくる。

 

「達也さん。九校戦が無事開催されるとの事で、一先ずおめでとうございます。これで達也さんに対する世間の風潮も、少しは改善されるのではありませんか?」

 

「どうでしょうね。そもそもが言い掛かりなわけですし、これで評価が変わるとは思えません」

 

「まぁ、あの魔法はあくまでも競技用に開発した魔法だもんね。それを戦争に取り入れたのは、使った魔法師の所為で、達也くんが最初から戦争に使用する目的じゃないって事を報道してないわけだしね」

 

「魔法大学の方も、散々達也さんに登録を急がせておいて、いざ問題が起ったらだんまりですからね」

 

「魔法大学の方が適切に処理出来たとも思えませんがね」

 

「達也くん、それかなり失礼な事を言ってるわよ?」

 

 

 真由美の指摘に、達也は肩を竦めるだけで何も答えなかった。そもそも達也は大人がこの問題に本気で取り組むなんて思っていなかったので、下手な事を言われるくらいなら黙っていてくれた方がありがたかったので、魔法大学側の対応は、達也にとって願ったりかなったりのものだったのだ。

 

「……ところで、今年は達也くんが選手として参加するんじゃないかって噂になってるけど、実際のところはどうなの?」

 

「参加しませんよ。俺はあくまでも魔工科生ですし、俺と一緒に参加したいなんて物好き、幹比古以外にいないともいますし」

 

「じゃあ今年もエンジニアとして?」

 

「そっちも問題になりそうなので、俺としては作戦参謀だけで済ませたいのですが――」

 

 

 そこで言葉を切って、達也は背後に控えているほのかと雫、そしてここにはいない深雪の事を思い浮かべ、肩を竦めて頭を振る。

 

「――彼女たちが許してくれないでしょうからね」

 

「まぁ、達也くんの調整じゃなきゃ力を発揮出来ないって深雪さんも言うだろうし、達也くんには『あの記録』も掛かってるわけだしね」

 

「担当した選手が実質上無敗、ってやつですね。ですが、トーラス・シルバーの片割れだという事が世間にバレてしまったわけですし、いくら一高に在籍しているという名目があったとしても、他校が黙っていないのではありませんか?」

 

「そっちの方も九島閣下が話を付けてくれたようで、俺は参加しても問題ないそうですよ」

 

 

 烈としても、達也の記録に興味があるのか、開催するに当たり達也の参加を制限する事はしなかった。大会運営本部としては、余計な問題が発生しそうな達也の参加を禁止する方向で話し合っていただけに、烈の介入は非常に頭を悩ませる結果となったのだった。

 

「まぁ、今年は大人しくしてるつもりです。というか、俺は一昨年も去年も大人しくするつもりだったのですが、周りが勝手に騒ぎ出しただけで」

 

「まぁ、あの戦果なら騒がれても仕方ないと思うけど? 達也くんだって、自分が注目されてるって分かってていろいろと離れ業を見せたわけだし」

 

「それ程離れ業なつもりも無かったんだがな」

 

 

 エリカの茶化しに、達也は真顔で答える。達也からしてみれば確かにそれ程「離れ業」ではないのかもしれないが、世間一般から見れば十分に「離れ業」だったので、それだけで話題に上がっただろうし、その「離れ業」のお陰で雫が新人戦スピード・シューティングで優勝、深雪が本戦ミラージ・バットで優勝と、花形競技でそれだけの戦果を上げれば、魔法科高校間だけでなく、世間からも注目されても不思議では無かったのだ。

 

「あれは衝撃的だったしね」

 

「ですが、達也さんがトーラス・シルバーの片割れだったと考えれば、あれくらいは当然なのでしょうね」

 

 

 真実を知った今だからそう言えるが、当時は真由美も鈴音も――もっと言えば摩利も衝撃を受けたので、達也が謙遜してるとしか思わなかったのだった。




当時はかなり衝撃を与えてましたから

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