劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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制限を付けるわけではないです


開催の条件

 九校戦が開催されることになったからといって、達也が立ち上げたESCAPES計画が中断されるわけではなく、達也は巳焼島から送られてくる情報を整理しながら九校戦のメンバー編成を並行して行っていた。それ以外にもいろいろとやる事はあるのだが、差し迫ってしなければならないのはこの二つと言える。

 

「達也くん、少しいいかしら?」

 

「何かありましたか?」

 

 

 来月一杯で国防軍を除隊する事が決まっているとはいえ、響子はまだ国防軍の――もっと言えば独立魔装大隊の一員で、佐伯や風間からの伝言等を達也に持ってくることがある。今日もその事だろうと思っていた達也だったが、響子の表情から、別の厄介事だという事を感じ取り、作業の手を止めて響子に向き直る。

 

「祖父からの伝言なんだけど」

 

「九島閣下の?」

 

「えぇ……もう一度だけでいいから、達也くんが戦ってる姿を見たいらしいのよ」

 

「九校戦はあくまでも競技です。戦うという表現が正しいとは思えませんが」

 

「それは祖父も分かってるでしょうけども、一昨年の新人生モノリス・コード、あれは最早戦いと言っても過言ではないくらいのレベルだったし、達也くんじゃなければ、一条将輝は殺人者として表舞台から姿を消していたでしょうからね」

 

「まぁ、俺じゃなきゃ一条もあそこまでムキにならなかったとは思いますが」

 

 

 響子が言ったように、一昨年の新人生モノリス・コードで、将輝は大会のレギュレーション違反どころではない反則を行った。致死性の魔法を何十発も発動させ、撃ち落しが間に合わなかった二発が達也に直撃している。達也の得意魔法――特異魔法とも言える――であるところの『再成』が発動したお陰で何事も無かったかのように試合は続いたが、将輝は大会どころか人間社会のルールを破ったと言われても仕方がない事をしているのだ。

 

「あの事は古式魔法の一種という事で誤魔化しているので、今更その事を蒸し返されたくないんですが」

 

「真相を知ってる私たちからしてみても、よくそんな事で誤魔化せたなって思うんだけど?」

 

「何せ俺の師匠は『あの』九重八雲ですから。多少の不自然も目を瞑ってもらえる要因になったのではないかと」

 

 

 八雲はあくまでも、達也の体術の師匠なのだが、そこまで詳しい説明をしていない状況だったので、達也も忍術使いだと思われたおかげで、あの時は事なきを得たのだ。ちなみに、後から達也の得意魔法を知ったメンバーからは、あの時の事はそういう事だったのかと納得されている。

 

「それで、何故閣下は俺に九校戦の競技メンバーとして参加しろと? あの人は俺の事情をほぼすべて知っているはずですが」

 

「ほら、今回の九校戦、いろいろと言われてたでしょ? それを強行開催したわけだし、何かしら盛り上がりを造る必要があるらしいのよ。そこで大会本部と祖父が話し合った結果、せっかく十師族の跡取りがいるわけだから、モノリス・コードでぶつけるって事で意見がまとまってるらしいのよ」

 

「……本人の意思も確認せずに、ですか?」

 

「え、えぇ……」

 

 

 達也が響子を通して烈にジト目を向けると、響子は居心地の悪さを覚え身動ぎをする。響子自身も、自分が睨まれているわけでは無いという事は理解しているが、今実際に見られているのは自分なので、どうしても居心地の悪さは感じてしまうのだろう。

 

「十師族の跡取り通しの戦いなら、一条と七宝にやらせればいいでしょう。あいつらでも問題は無いはずですよね?」

 

「……達也くん、本気で言ってないでしょ」

 

「まぁ、それで納得してもらえるのなら、響子さんがこんなことを言いに来ないだろう、とは思ってます」

 

「というわけで、お願い! 最悪決勝だけでもいいらしいから」

 

「原則として、参加者の変更は認められていないはずですが?」

 

「特例って事らしいわよ。そもそも、強行開催に踏み切ったんだから、今更例外が一つや二つ増えても変わらない、とでも思ってるんじゃないの?」

 

「そのセリフ、一昨年の九校戦で十文字先輩に言われたのと同じですね」

 

「あぁ、あの時もそう言われたんだ」

 

 

 達也は克人の言葉で参加を決め、メンバーを外部から選んでも良いかと問い掛けた際に、克人からの返事が今の響子のセリフと同じだった。その時の事を思い出し、達也は苦笑いを浮かべ、響子は克人だったらそれくらい言いそうと笑みを浮かべた。

 

「俺の方はどっちでも構いませんが、一条の方が納得するでしょうか? 大勢の前でまた負けるなんて、アイツのプライドが許さないと思うんですが」

 

「一条君が負けるのは決定してるんだ」

 

 

 言葉だけ取れば、響子は達也が自信過剰だと指摘しているようにも見えるが、響子の表情は明るい。つまり、彼女も既に達也が勝つという事を決定事項として話を進めているのだ。

 

「達也くんさえ納得してくれれば、明日にでも大会本部から一高、三高に対して通達が行く手筈になってるらしいのよ。だから仕事終わりで私が達也くんの意思を確認しに来たってわけ」

 

「……もうそこまで根回しが済んでいるのであれば、俺としては不本意ではありますが、参加しても構いません。まぁ、俺が断っても閣下なら強引に参加させる方法をとるでしょうしね。例えば、母上にこの情報を流して、当主命令として受けさせる、とか」

 

「ありえそう。それじゃあ、祖父には達也くんは参加してもいいって伝えておくわね」

 

「お願いします」

 

 

 不承不承である事は明らかだったが、響子は達也が断らなくて良かったと言いたげな表情で立ち上がり、そのまま部屋を出て行った。




また負ける事になるんだろう

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